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39 行方不明①
しおりを挟む「待ってください。そういえば、フローラさん……ここに来るまでに、僕に苔のことが気になる話をしていました。もしかしたら、洞窟内にある苔を大好きな庭師の人に持って帰ってあげようと奥に入ったのかもしれません」
暗い表情のイエルクが言ってから、私たちは同時にため息をついた。
それだわ。絶対にそれだわ。フローラの思考の流れが目に見えるよう。
本当に可愛い思考を持っているフローラは庭師ルークさんが喜んでくれると思って、洞窟の奥へと入り込み、迷って出られなくなってしまったのね。
私たちも洞窟内へ向かい、名前を呼んだり距離の近い部分を探したりしたけれど、フローラはかなり動き回っているらしく、足跡や痕跡が洞窟内に残っていて、簡単には見つかりそうもなかった。
「これは……イエルクの行った通りだろう。探すしかないな。ここでまた誰かが、迷っても仕方ない。四人で個別に探すのではなく、二人組になって二手に別れよう」
エルネストはテキパキと、これから私たちがどうすべきかを指示をした。
それを見て、やはりエルネストは王族なのだと思う。命令をし慣れた者特有の、迷いない言葉。
探す時に一人では危険だということで、組み割りは私とエルネスト、オスカーとイエルクになった。
何故かというと属性の問題で探索魔法を使えるのが、エルネストとイエルクしか居なかった。そして、お互いの魔法の相性などを鑑みて、この二組の人選になったのだ。
エルネストは私のことを嫌いだろうし、過去の事が思い出されとても苦手だろうと思うのに、それは別と思ったのか、そこには私情を挟まなかった。
だから、私もそんなエルネストに対し、嫌な思いをさせたくはない。
洞窟へと再び入り探索できる青魔法を使って、フローラの後を辿るエルネストを無言に付いて行くことになった。
「……ロゼッタ。俺はたまに、君が別人になったように思うことがある」
二人の足音しか聞こえない中で、エルネストは唐突にそう言った。
それはその通りなんだけど、私は前世の記憶を取り戻したのが最近だったと言うだけで、それをどう返して良いかわからない。
「……反省したんです。エルネスト様が嫌がることは、もう二度としません。これまでご迷惑をお掛けてして、本当に申し訳ありませんでした」
これまでにエルネストがどれだけロゼッタに対し、我慢を重ねたかは、女性に対し紳士的な彼がロゼッタに対してだけ異常に冷たいことでそれが良く理解出来る。
エルネストだって、女性には優しくしたいのに、ロゼッタに優しくしてしまえば、よりもっと自分の嫌なことをされてしまう。
だから、ロゼッタを必要以上に、毛嫌いしてしまったのだ。そして、冷たくされると燃え上がってしまうロゼッタに、より纏わりつかれてしまうと言う、不幸の連鎖が続いてしまった。
「それは、もう良い。だが、人が変わったように思える。君が君でなくなったような……そんな気がするんだ」
エルネストは振り向き、私は青い目にまっすぐに見つめられ、怖くなって後ずさった。王族の威厳……他者を支配し圧する力。それに押し出されるように、もう一歩後ろに下がった。
「……っ、ロゼッタ。お前。何をしている!」
私が彼の言葉に聞いてえっと思った時には、もう遅かった。足場を失った私の身体はふわりと宙に浮き、その一瞬後に、ザバンと大きな水音が聞こえた。
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