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23 恋が叶う本②

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「……っわ」

 双月草についての本をどこに探しに行くべきか、きょろきょろと周囲を見回していたら、イエルクの顔に私の髪が当たってしまったようだ。

「ごめん! ごめん。大丈夫だった? ごめんね」

 こんなにも長い髪を扱うなんて、生まれ変わった今が初めてだから……イエルクは頬を押さえていたけど、大丈夫というように微笑んだ。

「大丈夫です……ディリンジャー先輩の髪って、さらさらしてるし、真っ直ぐで綺麗ですよね。僕くせっ毛だから、羨ましくて憧れます」

 イエルクの髪は天然でそうらしいんだけど、くるくると巻いている黒い巻き毛だ。

 まるで彫像のように見える美形なのに、可愛らしさを感じるのは、その髪の印象の効果も大きいかもしれない。

 髪をぶつけられたのにまんざらでもない様子のイエルクを見て、これは、攻略対象者の攻略が私にもいけてしまうのでは? と、正直思ってしまっていた。

 イエルクは美形だし、神童と呼ばれている魔法使いだし……私の嫁入り先としては、願ってもない人だろ思う。

 うちの両親だって、イエルクと結婚すると言えばきっと喜ぶはずだ。だって、美形でスパダリであることが絶対条件である乙女ゲーム攻略対象者の一人なら魔法界での出世確実だもの。

 エルネストやオスカーのような、身分のある王族や貴族ではないけど、エリート魔法使いだし条件が良過ぎる。

「……そういえば、イエルクって好きな女の子は居るの?」

 気になってさりげなく恋愛動向を聞いた私に、イエルクは目を瞬かせてから淡々と答えた。

「好きな女の子は居ないんですけど、村の幼馴染の女の子と、僕は付き合っているんです」

 ……あっ! そうだった……本当に、忘れてた! イエルクの設定はそうだったー!

 自分の記憶力が、全然頼りにならなさ過ぎて、泣けてしまう。

 イエルクの幼馴染の女の子ルイーズは、来年入学して来るんだけど、その子が、エルネストルートでいうところの私……つまり、ヒロインフローラの恋敵のような役割になるのだ。

 イエルクはあまり物を知らない素直な田舎の子だから、そういうことに積極的な向こうに言われるがままに付き合ってはいるけど好きという訳ではない……という、良く分からない関係性の幼馴染の女の子が居るんだった。

 ヒロインフローラとは共通ルートで、段々と距離を近づけて、個別ルートに入る前の二年生に上がる前イエルクは、ケジメとして、彼女にキッパリと別れを告げるんだよね。

 けど、イエルクと別れたことに納得出来ないルイーズは、それからも二人の邪魔をすることになるんだった。

 だとすると、悪役令嬢役の私なんか、相手されないかも……あれって、全男性の夢みたいな乙女ゲームヒロインフローラが相手だったのが、大きいと思うし……。

 はー……この勉強を教えて欲しいっていうこの流れも、イエルクにとっては、先輩に声かけられて、頼られて嬉しいな程度だろうな。

 ヒロインもまだなのに、悪役令嬢の私だって、恋なんて始まる訳ない。

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