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06 家族の確執②
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今の私はというと、前世は世知辛い世の中を渡り歩いた、ロゼッタとは違う意味で立場が弱かったOLの記憶を持っている。
華々しい学歴もなく就職活動時には、ひどい圧迫面接だって受けたことがある。就職戦線は本当に激しくて、数えきれないほどのお祈りメールだって受け取ったこともある。
そんなこんなで割とブラック寄りの会社で勤務していたので、こういう不機嫌まき散らす系の男性の対処には実は慣れていた。
「……まあ、お兄様。そういえば、髪型を変えられました?」
「だとしたら……なんだ?」
「私……今日、お見かけしてから、すごく素敵だなと思っていたんです。お兄様は本当に容姿も良いので、また女性にモテてしまいますわね」
事実、長髪から肩付近にまで切られて変わっていたサザールの髪型を明るく褒めて、さらに彼が気分の良くなるだろうことまで付け加えた。
どうせ、私がここで彼の嫌味に何を言い返したところで、サザールに難癖を付けられる。だとしたら、どんな揚げ足も取られない方法は、全く会話に関係ない内容で不機嫌な兄を褒めちぎるしかない。
「お前……何を、生意気な……」
これまで兄の横暴に怯えるばかりで、自分を真っ直ぐに見られなかったはずのロゼッタが、急に余裕のある素振りをしたのが気に入らなかったらしい。
わかっていたことだけど、サザールは器がとても小さい。きっと、何かを注いだらすぐに溢れるお猪口くらいの容量なのではないかしら。
サザールの顔が、わかりやすく不愉快に歪んだ。
何を言い出すの? ここで褒めた妹を責めたら、完全にそちらが悪者になってしまうけど。
そこに口を挟んだのが、ディレンジャー家当主白髪で、長い白髭を蓄えている父ジョナサンだ。
「良い加減にしろ。サザール。あのように妹から新しい髪型褒められて、何をどう生意気だと言うのだ。お前の最近の行動は、流石に目に余るぞ」
あら。珍しい……今までサザールがロゼッタを虐めていたことに無関心でこんな感じで口出しすることなんて、これまでになかったのに。
もしかしたら、父親は怯えていた私が、横暴なサザールに何か言い返すのを待っていたのかもしれない。
だから、今の返しが父には合格点だったというところかしら。
あんなに圧を掛けられて、普通の子が逆らえるはずもないんだから、さっさと庇いなさいよ。
「……父上。お聞き苦しいことを、申し訳ありません」
サザールは形ばかり謝罪し私を睨めば、イライラとした態度で飲み物の入ったコップを音をさせて乱暴に置いた。
何も悪くない妹がいつも彼に怯えているからと、これはとんでもなくみっともなくないかしら。
……まあ、良いわ。私は私で、そんなサザールへと追い打ちを掛けよう。
「お父様。私は本当に……そう思ったのですわ。お兄様の新しい髪型は、素敵だったので」
私が父に向けて、うるうるとした目で訴えると、母ステラもなぜか加勢してくれた。
「サザール。本当にロゼッタが言った通りに似合っています……これまで鬱陶しいくらいにだらだらと長い髪でしたけど、貴方も最高学年の三回生になるから、切ったのね。良く似合うわ。そうね。ロゼッタも男性の褒め方が上手くなったこと……エルネスト様も、きっとお喜びでしょう」
いいえ。お母さま。ロゼッタはエルネストには迫りすぎて、とても嫌われていますので、少々褒めたところで喜ばれることはないかと思います。
……なんて、ここで言っても何の良いこともないわよね。
私は何食わぬ顔でにっこりと微笑み、両手を組んで隣に座る母を見た。
「お母様も、そう思いますわよね。私も兄上は、髪は短い方が似合うと、ずっと思っていたのですわ!」
「失礼……急用があるので、先に部屋に戻ります」
兄サザールは食事途中にも関わらず白々しい言い訳をしつつ立ち上がり、指を組んだままの私をじろりと睨んだ。
別にそんなの、怖くないよーだ。
嫌味な上司と三次会まで付き合った地獄の数時間を思い出せば、世間の荒波も知らない学生のひと睨みなんて、そよ風浴びました程度だけど?
「おい……礼儀がなってないぞ。サザール」
お父様にも怒られて……これでは、何も言い返せないわよね。
私は黙って立ち去るサザールの後ろ姿を見つつ、これからもロゼッタとして生きて行くのなら、この良くない家族の問題もどうにかしなければと大きく溜め息をつきつつ思った。
華々しい学歴もなく就職活動時には、ひどい圧迫面接だって受けたことがある。就職戦線は本当に激しくて、数えきれないほどのお祈りメールだって受け取ったこともある。
そんなこんなで割とブラック寄りの会社で勤務していたので、こういう不機嫌まき散らす系の男性の対処には実は慣れていた。
「……まあ、お兄様。そういえば、髪型を変えられました?」
「だとしたら……なんだ?」
「私……今日、お見かけしてから、すごく素敵だなと思っていたんです。お兄様は本当に容姿も良いので、また女性にモテてしまいますわね」
事実、長髪から肩付近にまで切られて変わっていたサザールの髪型を明るく褒めて、さらに彼が気分の良くなるだろうことまで付け加えた。
どうせ、私がここで彼の嫌味に何を言い返したところで、サザールに難癖を付けられる。だとしたら、どんな揚げ足も取られない方法は、全く会話に関係ない内容で不機嫌な兄を褒めちぎるしかない。
「お前……何を、生意気な……」
これまで兄の横暴に怯えるばかりで、自分を真っ直ぐに見られなかったはずのロゼッタが、急に余裕のある素振りをしたのが気に入らなかったらしい。
わかっていたことだけど、サザールは器がとても小さい。きっと、何かを注いだらすぐに溢れるお猪口くらいの容量なのではないかしら。
サザールの顔が、わかりやすく不愉快に歪んだ。
何を言い出すの? ここで褒めた妹を責めたら、完全にそちらが悪者になってしまうけど。
そこに口を挟んだのが、ディレンジャー家当主白髪で、長い白髭を蓄えている父ジョナサンだ。
「良い加減にしろ。サザール。あのように妹から新しい髪型褒められて、何をどう生意気だと言うのだ。お前の最近の行動は、流石に目に余るぞ」
あら。珍しい……今までサザールがロゼッタを虐めていたことに無関心でこんな感じで口出しすることなんて、これまでになかったのに。
もしかしたら、父親は怯えていた私が、横暴なサザールに何か言い返すのを待っていたのかもしれない。
だから、今の返しが父には合格点だったというところかしら。
あんなに圧を掛けられて、普通の子が逆らえるはずもないんだから、さっさと庇いなさいよ。
「……父上。お聞き苦しいことを、申し訳ありません」
サザールは形ばかり謝罪し私を睨めば、イライラとした態度で飲み物の入ったコップを音をさせて乱暴に置いた。
何も悪くない妹がいつも彼に怯えているからと、これはとんでもなくみっともなくないかしら。
……まあ、良いわ。私は私で、そんなサザールへと追い打ちを掛けよう。
「お父様。私は本当に……そう思ったのですわ。お兄様の新しい髪型は、素敵だったので」
私が父に向けて、うるうるとした目で訴えると、母ステラもなぜか加勢してくれた。
「サザール。本当にロゼッタが言った通りに似合っています……これまで鬱陶しいくらいにだらだらと長い髪でしたけど、貴方も最高学年の三回生になるから、切ったのね。良く似合うわ。そうね。ロゼッタも男性の褒め方が上手くなったこと……エルネスト様も、きっとお喜びでしょう」
いいえ。お母さま。ロゼッタはエルネストには迫りすぎて、とても嫌われていますので、少々褒めたところで喜ばれることはないかと思います。
……なんて、ここで言っても何の良いこともないわよね。
私は何食わぬ顔でにっこりと微笑み、両手を組んで隣に座る母を見た。
「お母様も、そう思いますわよね。私も兄上は、髪は短い方が似合うと、ずっと思っていたのですわ!」
「失礼……急用があるので、先に部屋に戻ります」
兄サザールは食事途中にも関わらず白々しい言い訳をしつつ立ち上がり、指を組んだままの私をじろりと睨んだ。
別にそんなの、怖くないよーだ。
嫌味な上司と三次会まで付き合った地獄の数時間を思い出せば、世間の荒波も知らない学生のひと睨みなんて、そよ風浴びました程度だけど?
「おい……礼儀がなってないぞ。サザール」
お父様にも怒られて……これでは、何も言い返せないわよね。
私は黙って立ち去るサザールの後ろ姿を見つつ、これからもロゼッタとして生きて行くのなら、この良くない家族の問題もどうにかしなければと大きく溜め息をつきつつ思った。
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