(総愛され予定の)悪役令嬢は、私利私欲で魔法界滅亡を救いたい!

待鳥園子

文字の大きさ
上 下
5 / 55

05 家族との確執①

しおりを挟む
 私の通うアクィラ魔法学園に限らず、魔法学園はそれぞれ男女別れた寮で生活することになる。

 けれど、入学式を終えてから入寮日になる次の日までは、学生寮は閉鎖されている。

 いったんまっさらな状態で入学生を受け入れ新しく部屋決めしたりするため、卒業生でなかったとしても、長期の休みは荷物をすべて持って一度家へと帰るのだ。

 ……なので、私は現在、実家であるディリンジャー家に帰宅していた。

 ロゼッタが悪役令嬢になる性格の悪さを形成してしまう、すべての原因というのが、悪い家族関係にあることは、軽くゲームを楽しむ程度のエンジョイ勢だった私はこうして転生するまで知らなかった。

 というか……悪役令嬢ロゼッタに関して、ゲーム内ではそんなに深く掘り下げもしなかったと思う。ただ、フローラを虐めるだけの良くある悪役令嬢だった。

 現に私はロゼッタに違う魔法学園に通っている兄サザールが居ることを、知らなかったもの。

 ディリンジャー家の両親は、娘のロゼッタのことは同学年に居る王子を落とせれば儲けものという、政略結婚の駒程度にしか思って居ない。

 兄のサザールは、妹ロゼッタを虐げて……ううん。憎んでいる。

 ……今だって、そうだ。

 妹と同じ赤髪に茶色の瞳を持つ兄サザールは、正面の席に座っているロゼッタのことをじっと見つめ、何か粗相をしないのかと、じろじろと監視しているようだ。

 そんなことをされてしまったら、緊張してしまい普通に動作することも難しい。

 気に入らない妹を萎縮させることこそが彼の狙いであることは、大人の記憶を持つ今ではわかってしまっているけど。

 魔法界でも、栄養が取れさえすれば良い、粗食が美徳とされているアクィラ地域に住んでいて……ただでさえ、食事が美味しくないのに……そんなにも鋭い視線を向けられたら、味もしなくなってしまう。

「おい……ロゼッタ。お兄様に対し、楽しい話題の提供も出来ないのか? ……相変わらず、愛想のない女だ。これで、エルネスト殿下と本当に親しく出来ているのか? 甚だ疑問だ」

 良くわからない非難理由でただ食事をしているだけの妹を鼻で笑ったディリンジャー家を継ぐサザールは、たった一人の妹をこうして虐めることにかけては天才的だ。

 ちょっとした不手際を理由に、罰として地下室に閉じ込めたり、寒い外へと閉め出したり……本当にひどいことばかりしていた。

 アクィラ魔法学園に通うロゼッタは、サザールの通うファルコ学園を、敢えて避けていたのだ。

 だって、違う魔法学園に通うことになれば、こういった長期の休み以外は兄妹といえど寮で過ごすことになるからだ。

 ロゼッタはディリンジャー家に居たがらないけど、まだ学生である彼女は寮が閉まれば、この家に帰るしかないという仕方ない現状があった。

 何故、サザールがそんなにも妹を虐めているのかと言うと……ロゼッタはディリンジャー家の伝統である赤魔法を受け継ぎ、サザールは緑魔法で、なんならロゼッタの方が魔力の総量の数値が多い。

 それは、この魔法界では産まれた時に『属性判定』があり、公式な書類にも書かれて、はっきりとしている単なる事実だった。

 残酷なことに魔法界では産まれた時に行われる判定で、子どものその後の運命が決まると言っても過言ではなかった。

 ロゼッタはそれを理解しつつも、やたらと自分に当たり散らす兄に怯えていた。

 『弱い立場をどうにかしたい。両親にだけは認められたい』と、必死でエルネストに迫って結婚して王族の一人になろうとしていたらしい。

 そうすれば、彼女を脅かせる者はそうそう居なくなってしまう。

 恥ずかしいくらいのエルネスト好きアピールや、彼を攻略対象に定めたヒロインフローラに対する度が過ぎた牽制や嫌がらせにも、ロゼッタにはそうするなりの理由があったのだ。

 彼女は彼女なりに、両親や兄から逃れたいと、必死でSOSを出していたのかもしれない。

 けど、私はついこの前まで、ただのOLだった女で、結婚もせず趣味の旅行と美食巡りにお金を掛けるきままな独身貴族な生活を過ごしていた。

 まだ学生のロゼッタにはただ家族と一緒に居るだけだと言うのに、息の詰まりそうな家を離れられるような、そんな自由があるはずもない。

 両親からは『同じ学園に通う同級生の王子と結婚しろ』と強い圧を掛けられ、兄からは『自分より優秀になるな』と、こうしてひどい虐めを受けていた訳で……そんな中で、逃げ道もなかったロゼッタを可哀想だと思う。

 どうしても人を信じられなくなって、性格も悪くなってしまうよね。それは仕方ない。自分より弱い立場にあったフローラを見下してしまうのも、周囲にそういう人たちが多かったせいだろう。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆

白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』 女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。 それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、 愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ! 彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます! 異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆  《完結しました》

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ@ざまされ書籍化決定
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

処理中です...