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05 家族との確執①
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私の通うアクィラ魔法学園に限らず、魔法学園はそれぞれ男女別れた寮で生活することになる。
けれど、入学式を終えてから入寮日になる次の日までは、学生寮は閉鎖されている。
いったんまっさらな状態で入学生を受け入れ新しく部屋決めしたりするため、卒業生でなかったとしても、長期の休みは荷物をすべて持って一度家へと帰るのだ。
……なので、私は現在、実家であるディリンジャー家に帰宅していた。
ロゼッタが悪役令嬢になる性格の悪さを形成してしまう、すべての原因というのが、悪い家族関係にあることは、軽くゲームを楽しむ程度のエンジョイ勢だった私はこうして転生するまで知らなかった。
というか……悪役令嬢ロゼッタに関して、ゲーム内ではそんなに深く掘り下げもしなかったと思う。ただ、フローラを虐めるだけの良くある悪役令嬢だった。
現に私はロゼッタに違う魔法学園に通っている兄サザールが居ることを、知らなかったもの。
ディリンジャー家の両親は、娘のロゼッタのことは同学年に居る王子を落とせれば儲けものという、政略結婚の駒程度にしか思って居ない。
兄のサザールは、妹ロゼッタを虐げて……ううん。憎んでいる。
……今だって、そうだ。
妹と同じ赤髪に茶色の瞳を持つ兄サザールは、正面の席に座っているロゼッタのことをじっと見つめ、何か粗相をしないのかと、じろじろと監視しているようだ。
そんなことをされてしまったら、緊張してしまい普通に動作することも難しい。
気に入らない妹を萎縮させることこそが彼の狙いであることは、大人の記憶を持つ今ではわかってしまっているけど。
魔法界でも、栄養が取れさえすれば良い、粗食が美徳とされているアクィラ地域に住んでいて……ただでさえ、食事が美味しくないのに……そんなにも鋭い視線を向けられたら、味もしなくなってしまう。
「おい……ロゼッタ。お兄様に対し、楽しい話題の提供も出来ないのか? ……相変わらず、愛想のない女だ。これで、エルネスト殿下と本当に親しく出来ているのか? 甚だ疑問だ」
良くわからない非難理由でただ食事をしているだけの妹を鼻で笑ったディリンジャー家を継ぐサザールは、たった一人の妹をこうして虐めることにかけては天才的だ。
ちょっとした不手際を理由に、罰として地下室に閉じ込めたり、寒い外へと閉め出したり……本当にひどいことばかりしていた。
アクィラ魔法学園に通うロゼッタは、サザールの通うファルコ学園を、敢えて避けていたのだ。
だって、違う魔法学園に通うことになれば、こういった長期の休み以外は兄妹といえど寮で過ごすことになるからだ。
ロゼッタはディリンジャー家に居たがらないけど、まだ学生である彼女は寮が閉まれば、この家に帰るしかないという仕方ない現状があった。
何故、サザールがそんなにも妹を虐めているのかと言うと……ロゼッタはディリンジャー家の伝統である赤魔法を受け継ぎ、サザールは緑魔法で、なんならロゼッタの方が魔力の総量の数値が多い。
それは、この魔法界では産まれた時に『属性判定』があり、公式な書類にも書かれて、はっきりとしている単なる事実だった。
残酷なことに魔法界では産まれた時に行われる判定で、子どものその後の運命が決まると言っても過言ではなかった。
ロゼッタはそれを理解しつつも、やたらと自分に当たり散らす兄に怯えていた。
『弱い立場をどうにかしたい。両親にだけは認められたい』と、必死でエルネストに迫って結婚して王族の一人になろうとしていたらしい。
そうすれば、彼女を脅かせる者はそうそう居なくなってしまう。
恥ずかしいくらいのエルネスト好きアピールや、彼を攻略対象に定めたヒロインフローラに対する度が過ぎた牽制や嫌がらせにも、ロゼッタにはそうするなりの理由があったのだ。
彼女は彼女なりに、両親や兄から逃れたいと、必死でSOSを出していたのかもしれない。
けど、私はついこの前まで、ただのOLだった女で、結婚もせず趣味の旅行と美食巡りにお金を掛けるきままな独身貴族な生活を過ごしていた。
まだ学生のロゼッタにはただ家族と一緒に居るだけだと言うのに、息の詰まりそうな家を離れられるような、そんな自由があるはずもない。
両親からは『同じ学園に通う同級生の王子と結婚しろ』と強い圧を掛けられ、兄からは『自分より優秀になるな』と、こうしてひどい虐めを受けていた訳で……そんな中で、逃げ道もなかったロゼッタを可哀想だと思う。
どうしても人を信じられなくなって、性格も悪くなってしまうよね。それは仕方ない。自分より弱い立場にあったフローラを見下してしまうのも、周囲にそういう人たちが多かったせいだろう。
けれど、入学式を終えてから入寮日になる次の日までは、学生寮は閉鎖されている。
いったんまっさらな状態で入学生を受け入れ新しく部屋決めしたりするため、卒業生でなかったとしても、長期の休みは荷物をすべて持って一度家へと帰るのだ。
……なので、私は現在、実家であるディリンジャー家に帰宅していた。
ロゼッタが悪役令嬢になる性格の悪さを形成してしまう、すべての原因というのが、悪い家族関係にあることは、軽くゲームを楽しむ程度のエンジョイ勢だった私はこうして転生するまで知らなかった。
というか……悪役令嬢ロゼッタに関して、ゲーム内ではそんなに深く掘り下げもしなかったと思う。ただ、フローラを虐めるだけの良くある悪役令嬢だった。
現に私はロゼッタに違う魔法学園に通っている兄サザールが居ることを、知らなかったもの。
ディリンジャー家の両親は、娘のロゼッタのことは同学年に居る王子を落とせれば儲けものという、政略結婚の駒程度にしか思って居ない。
兄のサザールは、妹ロゼッタを虐げて……ううん。憎んでいる。
……今だって、そうだ。
妹と同じ赤髪に茶色の瞳を持つ兄サザールは、正面の席に座っているロゼッタのことをじっと見つめ、何か粗相をしないのかと、じろじろと監視しているようだ。
そんなことをされてしまったら、緊張してしまい普通に動作することも難しい。
気に入らない妹を萎縮させることこそが彼の狙いであることは、大人の記憶を持つ今ではわかってしまっているけど。
魔法界でも、栄養が取れさえすれば良い、粗食が美徳とされているアクィラ地域に住んでいて……ただでさえ、食事が美味しくないのに……そんなにも鋭い視線を向けられたら、味もしなくなってしまう。
「おい……ロゼッタ。お兄様に対し、楽しい話題の提供も出来ないのか? ……相変わらず、愛想のない女だ。これで、エルネスト殿下と本当に親しく出来ているのか? 甚だ疑問だ」
良くわからない非難理由でただ食事をしているだけの妹を鼻で笑ったディリンジャー家を継ぐサザールは、たった一人の妹をこうして虐めることにかけては天才的だ。
ちょっとした不手際を理由に、罰として地下室に閉じ込めたり、寒い外へと閉め出したり……本当にひどいことばかりしていた。
アクィラ魔法学園に通うロゼッタは、サザールの通うファルコ学園を、敢えて避けていたのだ。
だって、違う魔法学園に通うことになれば、こういった長期の休み以外は兄妹といえど寮で過ごすことになるからだ。
ロゼッタはディリンジャー家に居たがらないけど、まだ学生である彼女は寮が閉まれば、この家に帰るしかないという仕方ない現状があった。
何故、サザールがそんなにも妹を虐めているのかと言うと……ロゼッタはディリンジャー家の伝統である赤魔法を受け継ぎ、サザールは緑魔法で、なんならロゼッタの方が魔力の総量の数値が多い。
それは、この魔法界では産まれた時に『属性判定』があり、公式な書類にも書かれて、はっきりとしている単なる事実だった。
残酷なことに魔法界では産まれた時に行われる判定で、子どものその後の運命が決まると言っても過言ではなかった。
ロゼッタはそれを理解しつつも、やたらと自分に当たり散らす兄に怯えていた。
『弱い立場をどうにかしたい。両親にだけは認められたい』と、必死でエルネストに迫って結婚して王族の一人になろうとしていたらしい。
そうすれば、彼女を脅かせる者はそうそう居なくなってしまう。
恥ずかしいくらいのエルネスト好きアピールや、彼を攻略対象に定めたヒロインフローラに対する度が過ぎた牽制や嫌がらせにも、ロゼッタにはそうするなりの理由があったのだ。
彼女は彼女なりに、両親や兄から逃れたいと、必死でSOSを出していたのかもしれない。
けど、私はついこの前まで、ただのOLだった女で、結婚もせず趣味の旅行と美食巡りにお金を掛けるきままな独身貴族な生活を過ごしていた。
まだ学生のロゼッタにはただ家族と一緒に居るだけだと言うのに、息の詰まりそうな家を離れられるような、そんな自由があるはずもない。
両親からは『同じ学園に通う同級生の王子と結婚しろ』と強い圧を掛けられ、兄からは『自分より優秀になるな』と、こうしてひどい虐めを受けていた訳で……そんな中で、逃げ道もなかったロゼッタを可哀想だと思う。
どうしても人を信じられなくなって、性格も悪くなってしまうよね。それは仕方ない。自分より弱い立場にあったフローラを見下してしまうのも、周囲にそういう人たちが多かったせいだろう。
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