1 / 55
01 オープニング①
しおりを挟む
慎ましく閉じていた可愛い蕾も、ぽかぽかとした陽気に誘われて花咲く春。
本日は初々しい新入生が、真新しい制服を着て、登校する入学式の日。
この魔法界は正真正銘、異世界。
けれど、前世の私が生まれ育った日本のように、薄紅色の桜吹雪が白い並木道に舞い散っていた。とても乙女っぽい可愛らしい色合い。
そもそも論で、なぜ異世界なのに日本語だったり和製英語だったりが通じるのよって話だから、季節の花の名前が同じなんて、小さな事を気にしてしまう方がおかしいのかもしれない。
だって……今の私が住んでいる魔法界は名前も知らない誰かが、自分の都合良く創った、乙女ゲーム『恋色★魔法学園』の世界なのだから。
鷲が校章(シンボルマーク)であるアクィラ魔法学園高等部二年生の私は、校門付近にある低い塀の後ろへさりげなく立って、ゲーム内の主役の二人が出会う決定的な瞬間を、今か今かと待ちわびていた。
ヒロインのフローラ・レモーネとメイン攻略対象者エルネスト・ランテルディとの出会いの場面は、乙女ゲーム『恋色★魔法学園』の……パッケージに描かれるビジュアルのような、乙女ゲームを象徴する場面と言っても過言ではない。
つい一週間前に、前世の旅行好きOLだった記憶を取り戻したばかりの私は、せっかく乙女ゲーム世界に転生して来たからには、これだけは絶対見逃せないでしょと、数日前から興奮して心躍らせていた。
低い灰色の塀の後ろに姿を隠していた私は、緊張のあまり手に汗を握るしかない。
そして、入学式から寮へ帰宅途中の銀髪の美少女フローラと、誰かに呼ばれでもしたのか、校舎へと慌てて進む金髪碧眼美青年エルネストが……すれ違った!
……だけに終わった。
えーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
ちょっと、待って待って。なになになに?
理解が追い付かないんだけど。無理無理無理。何も起こらなくて、普通にNGだよね? 2テイク目が、これから引き続きある感じ?
……え。待って。これだと、乙女ゲームが始まらなくない?
今、目にした光景が信じられなくて、私は何度か目を瞬かせ、口をぽかんと開けたまま呆然としてしまった。
何々……えっ……嘘でしょう。待って。
今っ……今って、大事な主役二人の二人の出会いの、乙女ゲーム開幕になる場面だったよね……?
入学式の後、桜並木を歩いていたら、上から落ちて来た虫に驚いたフローラが、偶然通りがかったエルネストに白魔法の中のひとつ電魔法を使って誤って攻撃してしまう。
もちろん、驚きからの行為で故意ではないから慌てて彼へ謝罪はするものの、一年生から常に監督生を務め、今では生徒会長のエルネストに、フローラは要注意人物としてここで目を付けられてしまうことになる……はず、だった。
のに、先程は何もなかった。
本日は初々しい新入生が、真新しい制服を着て、登校する入学式の日。
この魔法界は正真正銘、異世界。
けれど、前世の私が生まれ育った日本のように、薄紅色の桜吹雪が白い並木道に舞い散っていた。とても乙女っぽい可愛らしい色合い。
そもそも論で、なぜ異世界なのに日本語だったり和製英語だったりが通じるのよって話だから、季節の花の名前が同じなんて、小さな事を気にしてしまう方がおかしいのかもしれない。
だって……今の私が住んでいる魔法界は名前も知らない誰かが、自分の都合良く創った、乙女ゲーム『恋色★魔法学園』の世界なのだから。
鷲が校章(シンボルマーク)であるアクィラ魔法学園高等部二年生の私は、校門付近にある低い塀の後ろへさりげなく立って、ゲーム内の主役の二人が出会う決定的な瞬間を、今か今かと待ちわびていた。
ヒロインのフローラ・レモーネとメイン攻略対象者エルネスト・ランテルディとの出会いの場面は、乙女ゲーム『恋色★魔法学園』の……パッケージに描かれるビジュアルのような、乙女ゲームを象徴する場面と言っても過言ではない。
つい一週間前に、前世の旅行好きOLだった記憶を取り戻したばかりの私は、せっかく乙女ゲーム世界に転生して来たからには、これだけは絶対見逃せないでしょと、数日前から興奮して心躍らせていた。
低い灰色の塀の後ろに姿を隠していた私は、緊張のあまり手に汗を握るしかない。
そして、入学式から寮へ帰宅途中の銀髪の美少女フローラと、誰かに呼ばれでもしたのか、校舎へと慌てて進む金髪碧眼美青年エルネストが……すれ違った!
……だけに終わった。
えーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
ちょっと、待って待って。なになになに?
理解が追い付かないんだけど。無理無理無理。何も起こらなくて、普通にNGだよね? 2テイク目が、これから引き続きある感じ?
……え。待って。これだと、乙女ゲームが始まらなくない?
今、目にした光景が信じられなくて、私は何度か目を瞬かせ、口をぽかんと開けたまま呆然としてしまった。
何々……えっ……嘘でしょう。待って。
今っ……今って、大事な主役二人の二人の出会いの、乙女ゲーム開幕になる場面だったよね……?
入学式の後、桜並木を歩いていたら、上から落ちて来た虫に驚いたフローラが、偶然通りがかったエルネストに白魔法の中のひとつ電魔法を使って誤って攻撃してしまう。
もちろん、驚きからの行為で故意ではないから慌てて彼へ謝罪はするものの、一年生から常に監督生を務め、今では生徒会長のエルネストに、フローラは要注意人物としてここで目を付けられてしまうことになる……はず、だった。
のに、先程は何もなかった。
66
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆
白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』
女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。
それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、
愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ!
彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます!
異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆
《完結しました》

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?
うり北 うりこ@ざまされ書籍化決定
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。
これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは?
命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる