女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き

待鳥園子

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09 女嫌い

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 けれど、不意に言葉に詰まった様子の団長の顔が暗い視界の中でも赤くなったので(え。この人。女嫌いのはずでしょ。何なの。どうしちゃったの……)とは思った。

「ローラ……少し、話して良いか?」

「ど、どうぞ?」

「俺の実母は幼い頃に亡くなった。だから、父は十二の頃に若い義母を後妻に迎えた」

「え。あの……」

 待って……軽い気持ちでは聞いてはいけない話をしそうな気しかしない。聞いて良いのかなと思ったんだけど、ここでルドルフ団長の手を振り払うことも出来ない。

「当時二十にもなっていなかった若い母は、年齢の近い俺に色目を使うようになった。その行為の最後にはベッドに潜り込まれ無理矢理キスをされた。俺は、それからすぐに家を出た」

「そうだったんですか……」

「この惚れ薬の飲ませたあの女は、義母に良く似ていた。だから、より嫌いな気持ちを抑えられなかった。女なんか、みんな一緒だ。自分のことしか考えていない。自分の欲望のままに、俺の気持ちなんて少しも考えてはいなかった……」

 確かに若い男の子が義母だと思っていた人に長い間性的な目で見られていたら、女性を嫌悪するようになってしまうかもしれない。

「……団長も……お辛かったんですね」

 なにかしら、過去のトラウマに苦しむ彼を慰めるような気の利いた言葉を何も言える気がしない。

 何故かというと、私がもし同じような経験をしていれば寄り添えたかもしれないけど……何分、家族には「産まれた家が、お金持ちだったら良いのに」くらいしか、不満を持っていない。

 幸せな家庭に生まれ育っているだけで、こんなにいたたまれない気持ちになる時があろうとは。

「本来なら、恋愛対象になる異性が気持ち悪くなったのは事実だ。だが、俺も正直女嫌いは直したかった。父も……早く結婚しろとうるさい」

「そうなんですか……確かに団長は三十路ですし、世間的に見てご結婚されていてもおかしくない年齢ですよね」

 しかも、ルドルフ団長は貴族出らしいともっぱらの噂である。だとすると、我々庶民より早々に結婚して血筋を残すことを求められるのではないだろうか。

「そうなんだが……触れないものとは、子どもを作れないと思わないか」

「……? けど、団長?」

 あの、私の腕を、現在がっつり掴んでらっしゃいますけど?

「何故かローラは、不思議と大丈夫なんだ。惚れ薬を飲む前からも大丈夫だった。以前、書類を持って来た時があっただろう? あの時、少し指が触れてしまったんだが、君が触れても全然嫌な気持ちがしなかった。だから、君の名前も覚えていた」

「え! そんな美味しいイベントがあったんですか? 私。全然気がつかなくて!」

 そんな職場で胸キュン☆エピソードの第一位みたいな話なのに! 当事者のはずなのに、全然覚えてないなんて!

 もったいない……。
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