6 / 10
06 こわい
しおりを挟む
「待ってください! そうだ。誰でも良いなら、食堂のメリッサおばさんにしてください!! きっと、めちゃくちゃ喜ぶと思いますんで!!」
メリッサおばさんは、普通なら引退をしているような年齢なのだけど、死ぬまで現役で居たいという気持ちから、いまだ食堂を取り仕切っている。
ちなみに、ルドルフ団長の熱烈なファンである。彼女なら自分を好きな同性愛者であって欲しいと願う私のように、自分の中での団長の立ち位置との解釈違いに苦しまない。
「……往生際が悪いぞ。いい加減諦めろ」
私は何度か団長室から逃亡出来ないものかと扉を何度か見つめたものの、その度にいくつかの鋭い視線を感じ「これは完全に詰んだ」と一人諦めるしか無かった。
先程出て行った若い騎士がノックののち入って来て、奥の団長へ薬の入った小瓶を渡しながら報告した。
「魔女に聞けば、ローラの考えた解決方法は、的を射ているそうです。確かに対象者を変えるのは、良い方法だと」
嘘……やだ。完全に適当なこと言ったのに、的を射ちゃったよ!!
ルドルフ団長は小瓶の蓋を開けて、こくりと飲み干し、逃げ腰になっていた私を見つめた。
◇◆◇
惚れ薬を飲んだ直後のルドルフ団長の様子は、彼の名誉のために墓へと持っていこうと思う。
多分、あの場に居た全員が私と同じように、そう思っていると思う。少しだけ触れるなら、美形なのによだれも出てた。いやぁ、とても酷かった。
惚れ薬、こわい。惚れ薬、早急に大々的に取り締まって欲しい。
魔女が作った惚れ薬の厄介なところは、別人になるでもなく惚れた対象に会って痴態を見せてしまっているところの記憶が本人に残ってしまうことだろう。
私は最初、あの色っぽい未亡人がルドルフ団長のことを好きだから飲まされたと思っていたんだけど……もしかしたら、相当嫌われていたのかもしれない。
毛嫌いしていた私に惚れてしまっているなんて、ざまあみろと言われてしまいそう。
現在は私に会ってしまうと惚れ薬の効果が発動してしまうため、王都に居なければならないルドルフ団長と万が一にも会わないようにと、事務室の直属の上司から自宅謹慎が申し入れられた。
もちろん。仕事はお休みしているけれど、特別手当付きだ。惚れ薬を飲まされてしまっただけの気の毒な団長も、ポケットマネーからある程度は包んでくれるらしい。
だから、私はひと月の間、誰にも会わずに部屋の中で引きこもるだけで、纏まったお金が手に入るだろう。
「ちえー。仕事中、団長×副団長で妄想できないなんて、本当につまんない」
男女交際も良いものだよと、レギウス副団長が差し入れてくれた本を読んでいるのにも飽きてしまった私は、両手を掲げ背筋を伸ばしてからうーんと低く唸った。
しかし、暇。
メリッサおばさんは、普通なら引退をしているような年齢なのだけど、死ぬまで現役で居たいという気持ちから、いまだ食堂を取り仕切っている。
ちなみに、ルドルフ団長の熱烈なファンである。彼女なら自分を好きな同性愛者であって欲しいと願う私のように、自分の中での団長の立ち位置との解釈違いに苦しまない。
「……往生際が悪いぞ。いい加減諦めろ」
私は何度か団長室から逃亡出来ないものかと扉を何度か見つめたものの、その度にいくつかの鋭い視線を感じ「これは完全に詰んだ」と一人諦めるしか無かった。
先程出て行った若い騎士がノックののち入って来て、奥の団長へ薬の入った小瓶を渡しながら報告した。
「魔女に聞けば、ローラの考えた解決方法は、的を射ているそうです。確かに対象者を変えるのは、良い方法だと」
嘘……やだ。完全に適当なこと言ったのに、的を射ちゃったよ!!
ルドルフ団長は小瓶の蓋を開けて、こくりと飲み干し、逃げ腰になっていた私を見つめた。
◇◆◇
惚れ薬を飲んだ直後のルドルフ団長の様子は、彼の名誉のために墓へと持っていこうと思う。
多分、あの場に居た全員が私と同じように、そう思っていると思う。少しだけ触れるなら、美形なのによだれも出てた。いやぁ、とても酷かった。
惚れ薬、こわい。惚れ薬、早急に大々的に取り締まって欲しい。
魔女が作った惚れ薬の厄介なところは、別人になるでもなく惚れた対象に会って痴態を見せてしまっているところの記憶が本人に残ってしまうことだろう。
私は最初、あの色っぽい未亡人がルドルフ団長のことを好きだから飲まされたと思っていたんだけど……もしかしたら、相当嫌われていたのかもしれない。
毛嫌いしていた私に惚れてしまっているなんて、ざまあみろと言われてしまいそう。
現在は私に会ってしまうと惚れ薬の効果が発動してしまうため、王都に居なければならないルドルフ団長と万が一にも会わないようにと、事務室の直属の上司から自宅謹慎が申し入れられた。
もちろん。仕事はお休みしているけれど、特別手当付きだ。惚れ薬を飲まされてしまっただけの気の毒な団長も、ポケットマネーからある程度は包んでくれるらしい。
だから、私はひと月の間、誰にも会わずに部屋の中で引きこもるだけで、纏まったお金が手に入るだろう。
「ちえー。仕事中、団長×副団長で妄想できないなんて、本当につまんない」
男女交際も良いものだよと、レギウス副団長が差し入れてくれた本を読んでいるのにも飽きてしまった私は、両手を掲げ背筋を伸ばしてからうーんと低く唸った。
しかし、暇。
30
お気に入りに追加
239
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
「俺が君を愛することはない」じゃあこの怖いくらい甘やかされてる状況はなんなんだ。そして一件落着すると、今度は家庭内ストーカーに発展した。
下菊みこと
恋愛
戦士の王の妻は、幼い頃から一緒にいた夫から深く溺愛されている。
リュシエンヌは政略結婚の末、夫となったジルベールにベッドの上で「俺が君を愛することはない」と宣言される。しかし、ベタベタに甘やかされているこの状況では彼の気持ちなど分かりきっていた。
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】至福のひと時
青村砂希
恋愛
この小説は、拙作『家出少女に生活支援』で登場した、おじさんの元婚約者、裕子さんを主人公としたスピンオフです。
『家出少女に生活支援』未読の方でも、お読み頂けると思います。
全6話の短編です。
サクッと読み終えられると思います。
是非、覗いてみて下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
顔に痣のある私を迎え入れてくれたのは、成金で視力がものすごく悪い夫でした。
下菊みこと
恋愛
顔に痣のある女性が、視力の悪い夫と結婚して幸せになるだけ。
ルーヴルナは生まれつき顔に痣がある。しかし家族に恵まれて幸せに生きてきた。結婚は諦めて事務仕事を手伝ってお小遣いを貯めていたが、そんなルーヴルナにも縁談が持ち込まれた。
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
顔も知らない旦那さま
ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。
しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない
私の結婚相手は一体どんな人?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
好きな人に惚れ薬を飲ませてしまいました
当麻月菜
恋愛
パン屋の一人娘フェイルは、5つ年上の貴族の次男坊であり王宮騎士ルナーダに片思いをしている。
けれど来月、この彼は王宮を去る。領地を治めている兄を支えるために。
このまま顔馴染みの間柄でいたくない。
せめてルナーダが王都を離れてしまうまで恋人でいたい。
そう思ったフェイルは、ある決心をした。そして王都の外れにある魔女の屋敷へと向かう。
──惚れ薬を手に入れ、ルナーダに飲ませる為に。
※小説家になろうさまに同タイトルで掲載していますが、設定が異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる