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06 こわい

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「待ってください! そうだ。誰でも良いなら、食堂のメリッサおばさんにしてください!! きっと、めちゃくちゃ喜ぶと思いますんで!!」

 メリッサおばさんは、普通なら引退をしているような年齢なのだけど、死ぬまで現役で居たいという気持ちから、いまだ食堂を取り仕切っている。

 ちなみに、ルドルフ団長の熱烈なファンである。彼女なら自分を好きな同性愛者であって欲しいと願う私のように、自分の中での団長の立ち位置との解釈違いに苦しまない。

「……往生際が悪いぞ。いい加減諦めろ」

 私は何度か団長室から逃亡出来ないものかと扉を何度か見つめたものの、その度にいくつかの鋭い視線を感じ「これは完全に詰んだ」と一人諦めるしか無かった。

 先程出て行った若い騎士がノックののち入って来て、奥の団長へ薬の入った小瓶を渡しながら報告した。

「魔女に聞けば、ローラの考えた解決方法は、的を射ているそうです。確かに対象者を変えるのは、良い方法だと」

 嘘……やだ。完全に適当なこと言ったのに、的を射ちゃったよ!!

 ルドルフ団長は小瓶の蓋を開けて、こくりと飲み干し、逃げ腰になっていた私を見つめた。


◇◆◇


 惚れ薬を飲んだ直後のルドルフ団長の様子は、彼の名誉のために墓へと持っていこうと思う。

 多分、あの場に居た全員が私と同じように、そう思っていると思う。少しだけ触れるなら、美形なのによだれも出てた。いやぁ、とても酷かった。

 惚れ薬、こわい。惚れ薬、早急に大々的に取り締まって欲しい。

 魔女が作った惚れ薬の厄介なところは、別人になるでもなく惚れた対象に会って痴態を見せてしまっているところの記憶が本人に残ってしまうことだろう。

 私は最初、あの色っぽい未亡人がルドルフ団長のことを好きだから飲まされたと思っていたんだけど……もしかしたら、相当嫌われていたのかもしれない。

 毛嫌いしていた私に惚れてしまっているなんて、ざまあみろと言われてしまいそう。

 現在は私に会ってしまうと惚れ薬の効果が発動してしまうため、王都に居なければならないルドルフ団長と万が一にも会わないようにと、事務室の直属の上司から自宅謹慎が申し入れられた。

 もちろん。仕事はお休みしているけれど、特別手当付きだ。惚れ薬を飲まされてしまっただけの気の毒な団長も、ポケットマネーからある程度は包んでくれるらしい。

 だから、私はひと月の間、誰にも会わずに部屋の中で引きこもるだけで、纏まったお金が手に入るだろう。

「ちえー。仕事中、団長×副団長で妄想できないなんて、本当につまんない」

 男女交際も良いものだよと、レギウス副団長が差し入れてくれた本を読んでいるのにも飽きてしまった私は、両手を掲げ背筋を伸ばしてからうーんと低く唸った。

 しかし、暇。
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