女嫌いな騎士団長が味わう、苦くて甘い恋の上書き

待鳥園子

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05 性癖

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「私は全然普通ですよ! 私の性癖はノーマルです! 団長が副団長を仕事の話するついでに、机に押し倒したりとか……」

「待って……待って! ローラの性癖はノーマルって、やばい。むしろアブノーマルは、どんなシチュエーションなんだよ……そういう乙女の普通と俺たちには認識のズレがありそうだから、夢に出そうだし、その辺はもう追求して聞かない方が良いかな……はは」

 困った顔で額に手を当てた副団長は、私と黙ったままの団長を見比べた。

「おい。待て。もうそのよくわからん妙な妄想の話は良い。それでは、俺の惚れ薬の上書き対象は、その方法を言い出したお前が犠牲になれ。そうしたら、嫌いな女に惚れてしまうという最悪な事態は終わる」

「え!! 嘘でしょう。や、やめてください!」

「嘘じゃない。お前は女だが、俺の部下だし、悪巧みなど思いつかなそうだし。あの女より……だいぶマシだ」

「私、犠牲者になるのは、嫌ですぅ。私じゃなくて、恋する相手は副団長で良いじゃないですか!」

 私は嫌な役目を逃れて、ほっと胸を撫で下ろした様子のレギウス副団長を指さしたけど、ルドルフ団長は眉の間の皺を深くして首を横に振った。

「俺は同性愛者に偏見はない。だが、どうしてもと言われ、恋愛対象に選ぶなら俺は異性だ。悪いが、上司命令だ」

「やっ、やだ!! そんなの駄目です! 団長が私のことを好きになると、解釈違いになっちゃうから、やめてください!!」

 団長は女嫌いで、私などには絶対振り向かないという、そういう孤高の存在でいて欲しいのに!!

 私は団長に憧れていて、女嫌いなのならそれを貫いて欲しい。そうです。出来たらヴィジュアル的に隣に立つと、とてもお似合いな副団長とどうかお幸せに。

 私になんて、一時的にだって関心を向けて欲しくないんです!

「どんな世迷い言だ。何を訳のわからんことを……おい。そこのお前。惚れ薬を作ったという魔女に、もう一度同じ惚れ薬を作らせるように伝えろ」

「かしこまりました」

 一人の若い騎士が、急ぎで部屋を出て行った。パタンと扉が閉じた後、しんと静まりかえる団長室。

 なんなら、適当な理由をつけて店を潰せることなんて朝飯前な王都騎士団団長に逆らいたい怪しい店の店主なんか、絶対に居るわけが無い。

 全ての他の仕事をうっちゃって、魔女は惚れ薬をすぐに作るだろう。

 あ。誤解しないで。ちなみにうちのルドルフ団長は、そういう裏工作とか汚い取引とか、一切引き受けない系潔癖騎士団長で有名です!

 やばい。やばい……これって、私ごときが面白がって口出しして良いものではなかったかも。

 黙っていれば無関係な部外者で居れたのに、心の中の欲望の悪魔が邪魔をして、思わぬ展開でルドルフ団長からの次の惚れ薬で上書きする対象者に選ばれてしまった。
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