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67婚約★①
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私の念願が叶い、デューク・ナッシュ伯爵と結婚することが決まった。
私の夫となる人なので、現在は王が直轄地として管理している王都近くの広い領地をナッシュ伯爵領として与えられた。
こういった直轄地は、罪を犯した貴族より返還されたものが多い。それは、二代前に王族を暗殺しようと企んだ一族の領地で、いつ誰に与えられるのだろうと思われていた土地だ。
何故、叙爵されたばかりの彼が伯爵位だというと、王族の臣籍降嫁が許されている爵位が伯爵位以上なのだ。だから、それ以下の爵位では許されないので、私と結婚するからと与えられるものであれば、それは一番下で妥当な爵位なのだ。
私の父から爵位を与えられたデュークは、王都にもタウンハウスも与えられ、休日はそこでついでにあれもこれもと与えられた物を整理したりと忙しい日々を過ごしている。
今だってタウンハウスの主寝室で、書類の山に埋もれているところに、私がやって来たのだ。
執務室だってあるはずだけど、ここはお祖父様が造らせた別邸だそうなので、デュークは部屋が多すぎて回りきれていないのかも知れない。
ここは私と一緒に住むようにと与えられているから、結婚式までに手配したりと、色々と準備することも多い。
デュークがそれを一人でこなそうと言うのだから、無理がありすぎるのだ。
そして、彼が城に住んでいた頃とは格段に会える機会が減って、私はとても不満だった。
「私。すぐにでも、貴方と結婚したいわ。デューク」
私はそう思うのだけど、王侯貴族には公示期間と言うものが存在し、しかも私は王族だ。手本となる存在なので、短縮してしまう訳にもいかない。
「……とは、言ってもっすよ。俺も貴族位貰ったばかりで、領地経営とかにも慣れなきゃいけないし……邸で雇う人だって、集めなきゃいけない。正直言うと、いっぱいいっぱいっす。一年あったって足りるかどうか」
彼の部屋に入るなりそう言った私に、見るからに事務作業が苦手そうなデュークは、ため息をついて言った。
これは騎士団の業務でもないので、頼りになるマティアスだってお尻を叩いてくれない。
デュークが一人で片付けるしかないと思っているのだ。
これまで庶民としてのんびりと過ごしてきたデュークはこうした貴族としての生活に、強い違和感を持っているのかも知れない。
それも、仕方ないこと。私だって今から庶民として過ごせと言われれば、きっとそうなると思うもの。
「まあ、何のために私が居ると思ってるの。私はデュークを一人だけ働かせるつもりなんてないわ」
前々から私はそのつもりだったと言うのに、デュークは忙しい忙しいとこれまで取り合ってくれず、手伝うと言う機会もなかった。
「どういうことっすか」
デュークは眉を寄せて言った。また私が変なことを言い出したのかと、思っているのかも知れない。
けれど、ユンカナン王国では共働きが多いし、女性が仕事を出来るなら歓迎される場合が多い……と教えてくれたのは、彼なのだ。
「私だって王族として十分な教育は受けているし、なんならどこかの王妃にだってなれるのよ」
「すみません……忘れてました」
デュークはこちらへと立ち上がって近づいて来たので、私はベッドの上に座って彼を待った。
「デューク。ねえ。お願い。私と結婚して」
彼に向けて両手を伸ばすと、デュークは苦笑をして私をそのまま押し倒した。
「頼もしいっすね。お姫様。良いっすよ。俺は獣人なので、番を決めたらやっぱりナシはもう無理ですけど。もし、考えを翻すなら……いや、それはダメです。もう……何もかも遅いですけどね」
そして、微笑んだデュークは私と唇を合わせて、舌を絡めた。彼の舌は表面はざらざらしていて猫科独特のものらしいので、私は普通の口付けを知らずに死んでしまうと思う。
口端をたらりと唾液が落ちて、見上げたら私を見ている黒い目と合った。
「……どうして、デュークはいつも余裕な態度なの」
私はそう思った。本当に憎らしいくらいに、彼からは余裕しか感じない。
そういうところが好きだと思うけど、こっちは恥ずかしいくらい余裕がないのに、なんだか不公平な気がするのだ。
「そう見えるだけだと……言ったでょう。今でもこんなに必死なのに、わかります?」
デュークは私の手を取って、胸の左上へと当てた。どくどくと力強い心臓の速い鼓動。
「もしかして……緊張してる?」
「そうです。必死で隠していたんですけど、仕方ないっすね」
私の胸もとへと唇を寄せると、デイドレスを締め付けるリボンの編み上げを解いた。
私の夫となる人なので、現在は王が直轄地として管理している王都近くの広い領地をナッシュ伯爵領として与えられた。
こういった直轄地は、罪を犯した貴族より返還されたものが多い。それは、二代前に王族を暗殺しようと企んだ一族の領地で、いつ誰に与えられるのだろうと思われていた土地だ。
何故、叙爵されたばかりの彼が伯爵位だというと、王族の臣籍降嫁が許されている爵位が伯爵位以上なのだ。だから、それ以下の爵位では許されないので、私と結婚するからと与えられるものであれば、それは一番下で妥当な爵位なのだ。
私の父から爵位を与えられたデュークは、王都にもタウンハウスも与えられ、休日はそこでついでにあれもこれもと与えられた物を整理したりと忙しい日々を過ごしている。
今だってタウンハウスの主寝室で、書類の山に埋もれているところに、私がやって来たのだ。
執務室だってあるはずだけど、ここはお祖父様が造らせた別邸だそうなので、デュークは部屋が多すぎて回りきれていないのかも知れない。
ここは私と一緒に住むようにと与えられているから、結婚式までに手配したりと、色々と準備することも多い。
デュークがそれを一人でこなそうと言うのだから、無理がありすぎるのだ。
そして、彼が城に住んでいた頃とは格段に会える機会が減って、私はとても不満だった。
「私。すぐにでも、貴方と結婚したいわ。デューク」
私はそう思うのだけど、王侯貴族には公示期間と言うものが存在し、しかも私は王族だ。手本となる存在なので、短縮してしまう訳にもいかない。
「……とは、言ってもっすよ。俺も貴族位貰ったばかりで、領地経営とかにも慣れなきゃいけないし……邸で雇う人だって、集めなきゃいけない。正直言うと、いっぱいいっぱいっす。一年あったって足りるかどうか」
彼の部屋に入るなりそう言った私に、見るからに事務作業が苦手そうなデュークは、ため息をついて言った。
これは騎士団の業務でもないので、頼りになるマティアスだってお尻を叩いてくれない。
デュークが一人で片付けるしかないと思っているのだ。
これまで庶民としてのんびりと過ごしてきたデュークはこうした貴族としての生活に、強い違和感を持っているのかも知れない。
それも、仕方ないこと。私だって今から庶民として過ごせと言われれば、きっとそうなると思うもの。
「まあ、何のために私が居ると思ってるの。私はデュークを一人だけ働かせるつもりなんてないわ」
前々から私はそのつもりだったと言うのに、デュークは忙しい忙しいとこれまで取り合ってくれず、手伝うと言う機会もなかった。
「どういうことっすか」
デュークは眉を寄せて言った。また私が変なことを言い出したのかと、思っているのかも知れない。
けれど、ユンカナン王国では共働きが多いし、女性が仕事を出来るなら歓迎される場合が多い……と教えてくれたのは、彼なのだ。
「私だって王族として十分な教育は受けているし、なんならどこかの王妃にだってなれるのよ」
「すみません……忘れてました」
デュークはこちらへと立ち上がって近づいて来たので、私はベッドの上に座って彼を待った。
「デューク。ねえ。お願い。私と結婚して」
彼に向けて両手を伸ばすと、デュークは苦笑をして私をそのまま押し倒した。
「頼もしいっすね。お姫様。良いっすよ。俺は獣人なので、番を決めたらやっぱりナシはもう無理ですけど。もし、考えを翻すなら……いや、それはダメです。もう……何もかも遅いですけどね」
そして、微笑んだデュークは私と唇を合わせて、舌を絡めた。彼の舌は表面はざらざらしていて猫科独特のものらしいので、私は普通の口付けを知らずに死んでしまうと思う。
口端をたらりと唾液が落ちて、見上げたら私を見ている黒い目と合った。
「……どうして、デュークはいつも余裕な態度なの」
私はそう思った。本当に憎らしいくらいに、彼からは余裕しか感じない。
そういうところが好きだと思うけど、こっちは恥ずかしいくらい余裕がないのに、なんだか不公平な気がするのだ。
「そう見えるだけだと……言ったでょう。今でもこんなに必死なのに、わかります?」
デュークは私の手を取って、胸の左上へと当てた。どくどくと力強い心臓の速い鼓動。
「もしかして……緊張してる?」
「そうです。必死で隠していたんですけど、仕方ないっすね」
私の胸もとへと唇を寄せると、デイドレスを締め付けるリボンの編み上げを解いた。
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