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56 旅②
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「ああ……俺らも敢えて、あの国には近づかない。今では多少はマシになったとは言え、大昔、獣人を捕らえては虐待して楽しんでいたっていうのは……事実らしいから。だから、ユンカナン王国を創国したアリエルのご先祖様は、そういうことを見かねて、この国を創った……だろ?」
「それは、私だって歴史の授業で学んだわ。どうして、そんなことをするのかしら。わざわざ身体の特徴のみで虐待を? 理解に苦しむわ」
ユンカナン王国では人が王族ではあるけど、建国の経緯から地方を治める貴族のほとんどは獣人なのだ。なので、人と獣人は同列として考えられて目立った差別などもない。
けれど、ダムギュア王国では違うのだという。思わず表情を曇らせてしまった私に、デュークは苦笑した。
「……真面目で良い子のアリエルは、絶対にわからないかもしれないけど、そういった嗜虐的な一面を持つ人間は多い。虐待されるのが自分でなければ、誰でも良い。一種のショーのようなもので、眉を顰めながらも、心は楽しんでいる。そんなもんだ」
「……デューク?」
彼がどこか遠くを見るような目になったので、私は不思議になった。
デュークは戦闘能力の高い獅子獣人で、誰かからそんな境遇に遭わされたことなんてないだろうと私は思ってしまうからだ。
「いや。何でもない」
デュークは慌ててさっきまでの空気を拭い去るようにして、きっぱりと言った。一瞬で踏み込んではならない壁を築かれたようで、私は慌てて話を変えた。
「あ。ねえっ! あれって、何かしら?」
布を大きく広げて物を並べている商人を見て指を差すと、デュークはあーっと大きな息をついて苦笑した。
「……あれは、外国のお菓子を売ってる。あれ、玩具みたいに見えるけど、食べられるんだ。食べたことがあるけれど、あんまり美味しくない」
「嘘! あんなに、可愛いのに?」
色取り取りに鮮やかな彫り物のような物は実はお菓子で食べられるとデュークが言っても、にわかには信じ難い。
けど、出来れば食べてみたい。
美味しくはないと言われても、好奇心が勝る。城では一流の料理人が作った料理を常に食べられるけど、これまでに食べたことのない庶民の食べ物にだってとても関心があるのだ。
「……それより、これって、完全に仕事で。遊びの旅行でもないけど?」
デュークは完全に物見遊山な気分になってしまっている私を見て、呆れているようだ。
「けど、デュークと居られたら、私は楽しいわ」
「……それって、王族の特権濫用で、アリエルの嫌いな特権行為なんではない?」
デュークが言わんとしていることは、理解出来る。けど、たまには良いのではないかと思ってしまうのだ。
私だって王族として我慢していることがは、たくさんあるんだから。
「あら。それを知った国民から苦情が出るようなら、粛々と反省して改めるわ」
もし、この旅の全ての費用を自分に与えられた予算から捻出した、婚約者となる人の仕事に付いて行きたいと押し切った私が悪いと言うのであれば、いくらでも謝罪する。
「良く言う。前にも言った理由でアリエルの国民人気は何もしなくてもマジで高いから。ちょっとしたわがままだったら、国民は何にも言わないよ」
デュークは私について私より良く知っているようなので、それ以降は私がどんなにはしゃいでも何も言わなかった。
「それは、私だって歴史の授業で学んだわ。どうして、そんなことをするのかしら。わざわざ身体の特徴のみで虐待を? 理解に苦しむわ」
ユンカナン王国では人が王族ではあるけど、建国の経緯から地方を治める貴族のほとんどは獣人なのだ。なので、人と獣人は同列として考えられて目立った差別などもない。
けれど、ダムギュア王国では違うのだという。思わず表情を曇らせてしまった私に、デュークは苦笑した。
「……真面目で良い子のアリエルは、絶対にわからないかもしれないけど、そういった嗜虐的な一面を持つ人間は多い。虐待されるのが自分でなければ、誰でも良い。一種のショーのようなもので、眉を顰めながらも、心は楽しんでいる。そんなもんだ」
「……デューク?」
彼がどこか遠くを見るような目になったので、私は不思議になった。
デュークは戦闘能力の高い獅子獣人で、誰かからそんな境遇に遭わされたことなんてないだろうと私は思ってしまうからだ。
「いや。何でもない」
デュークは慌ててさっきまでの空気を拭い去るようにして、きっぱりと言った。一瞬で踏み込んではならない壁を築かれたようで、私は慌てて話を変えた。
「あ。ねえっ! あれって、何かしら?」
布を大きく広げて物を並べている商人を見て指を差すと、デュークはあーっと大きな息をついて苦笑した。
「……あれは、外国のお菓子を売ってる。あれ、玩具みたいに見えるけど、食べられるんだ。食べたことがあるけれど、あんまり美味しくない」
「嘘! あんなに、可愛いのに?」
色取り取りに鮮やかな彫り物のような物は実はお菓子で食べられるとデュークが言っても、にわかには信じ難い。
けど、出来れば食べてみたい。
美味しくはないと言われても、好奇心が勝る。城では一流の料理人が作った料理を常に食べられるけど、これまでに食べたことのない庶民の食べ物にだってとても関心があるのだ。
「……それより、これって、完全に仕事で。遊びの旅行でもないけど?」
デュークは完全に物見遊山な気分になってしまっている私を見て、呆れているようだ。
「けど、デュークと居られたら、私は楽しいわ」
「……それって、王族の特権濫用で、アリエルの嫌いな特権行為なんではない?」
デュークが言わんとしていることは、理解出来る。けど、たまには良いのではないかと思ってしまうのだ。
私だって王族として我慢していることがは、たくさんあるんだから。
「あら。それを知った国民から苦情が出るようなら、粛々と反省して改めるわ」
もし、この旅の全ての費用を自分に与えられた予算から捻出した、婚約者となる人の仕事に付いて行きたいと押し切った私が悪いと言うのであれば、いくらでも謝罪する。
「良く言う。前にも言った理由でアリエルの国民人気は何もしなくてもマジで高いから。ちょっとしたわがままだったら、国民は何にも言わないよ」
デュークは私について私より良く知っているようなので、それ以降は私がどんなにはしゃいでも何も言わなかった。
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