重いと言われても、止められないこの想い。~素敵過ぎる黒獅子騎士団長様への言い尽くせぬ愛~

待鳥園子

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43 無責任①

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 もし勘違いではなければ、獣化したデュークはとても怒っているようだ。

 こちらへとゆっくり近付く歩みの中で長い黒い尻尾が、ゆらゆらと不機嫌そうに振れている。

 今まで私が彼に『好きだから、結婚して欲しい』と面と向かって言えていた理由は、すぐに彼が断ると確実にわかっていたからだ。

 もし、好意を寄せる異性に対し、半々の確率で告白するとするならば、それはそれはとても緊張することだろう。

 だって、半々の確率で頷いてくれるかもしれないし、同じような確率で断られるかもしれない。

 私はこれまでに、目の前に居るデュークには、絶対に断られるという変な安心感のある前提で告白して来た。

 叶うことはないとわかっている恋なんて、とっても気楽なものだ。

 好きなことは好きだし、彼に気持ちを伝えたい。

 けれど、デュークは受け入れることはない。結果のわかっている私は、緊張なんてすることもない。

————-けど、今は?

「……あれだけしつこく、何度も何度も俺に迫っておいて。そんな風にあっさりと諦めてしまうって、おかしくないすか。もう、俺の事は良いんすか? 俺のために誰かと結婚するって……それを聞かされた、俺の気持ちがわかります?」

「ごめんなさい」

 感情的だった私のさっきの勝手な言いように、デュークが怒ってしまう気持ちはわかる。それに自らの人生における、重大な決断すらも彼のせいにしようとしていた。

 とんでもないやらかしてしまったという自覚を得た私は、もう謝るしかない。

「……姫は本当に、無責任で仕方ない人だ」

 ゆったりと余裕のある速度で歩んで来た彼は、気がつけばすぐ目の前に鼻面が迫るほどに近付いていた。

 息がかかるくらいに、とても近い。

 中身がデュークだとわかっているので、別に怖いという気持ちにならなかった。

 獣の顔に慣れていないせいか、妙に緊張感が増して、胸がどんどんと高鳴ってきた鼓動を刻む。

 彼の前脚で私の身体はあっという間に押し倒されて、気がつけばベッドの上でデュークを見上げる姿勢になっていた。

「……え? デューク? す、少し待って」

 さっき至近距離での生まれて初めての戦闘を見たせいか、私はもう腰が抜けてしまっていた。

 それもそうだったし肩の辺りを彼の前脚で押されているので、腕は動かない。

 これでは、抵抗しようにも出来ない。それに、デュークがこれから何をしようとして何を思っているのかもわからない。

————-未知の未来が、怖くてたまらない。

「……この前に、陛下に言われました。もし姫が欲しいなら、爵位を持つことを受け入れろと。貴族とか面倒そうだなとは、思ったんすけど……」

 私はそこで不意に黙り込んだデュークの言葉の続きを、固唾を呑んで待った。

 この流れで言うと、もしかして……お父様から申し入れた、私との縁談を受け入れてくれた?

 しかし、デュークは私の顔をまじまじと見つめるだけで、何も言わない。

 痺れを切らして何がどうなのかをはっきりして欲しいと思った私は、彼に話の続きを促すことにした。

「……デューク? それを聞いて何を思ったの?」

 私が呼びかけると、ようやくデュークははっと意識を取り戻したようだ。

「あ。すみません……あの、姫。その前に、一個だけはっきりさせたいことがあるっす。もしかして、王都で俺に助けられた時に、俺を見た瞬間に結婚したいって言いました?」

「確かにそれは、言ったけど……ようやく、思い出してくれたの?」

 やっと思い出してくれたのかと私が顔をパッと輝かせたのを見て、デュークはやれやれと大きく溜め息をついた。

「はー。謎が解けた。俺あん時、妙な店に潜入調査したすぐ後だったんで……変な煙の匂いで、鼻がもう利かないくらいにやられてて。匂いですぐに分からなかったのが、すべての敗因だった」

 急に私に対する敬語を止めたデュークは、あっという間に黒獅子から人へと変化をした。

 そう。私は現在、デュークに押し倒されている体勢になっている。

 獣化する時に服を破ってしまっているので、当然彼は裸だ。見上げている私からは大事な場所は見えてないにしても、見えている範囲は肌色で。

 ついさっきとは打って変わって、やけに色気のある体勢に思えてしまった。

「姫。あのお忍びの時、お付きの魔法使いに、姿を変えるめくらましの魔法を掛けて貰ったんじゃないか?」

「……え。嘘。そんなことは、言われてないわ」

 急に馴れ馴れしい口調に変わったデュークは、デュークでありつつも違う誰かのようだ。

 仕事中ではなく、単なる私的な関係のデューク。

 そのことで、私は今までデュークなりには、かなり気を遣った対応をされていたのだと知れた……それもそうよね。私。王族だし。彼の大元の雇い主である、国を治める王の娘だし。

 気を使ってしまうのも無理はない。

「……俺だって毎日王都で、人助けしてる訳でもない。こんなに可愛いお嬢さんを助けたら……間違いなく覚えてるはず……けど、王族のお忍びなんて初対面の人間ばかりと会う。周囲の護衛が姫本人だと認識していれば、何の問題もない。顔が割れてない方が絶対に安全だ」

 デュークはあの時に会ったはずの私と、王族の姫として会った私と姿が違う理由を分析するようにして言った。

「それはそうね……デュークの言う通りだわ。私の顔は王都に住む国民なら、見た事がある人も多いはずよ」

 ユンカナン王族の私は現王の第四子で唯一の娘。

 どんな顔であるか気になって記憶されていても不思議ではない。

「姫を知る人物に会うこともなく、目立つ容姿だからと絡まれることもない。本人には特に支障もないんで、知らされていなくても仕方ない。はーっ……馬鹿みたいだ。こんなに近くに、俺が待っていた女の子が居たとは」

「え……どういうこと?」

 私はデュークが言っていることが、不思議だった。

 確かに、あの時に私は『必ず会いに行く』とデュークに言った。けれど、単なる口約束で拘束力のあるようなものではない。

 けど、デュークはまるで助けた私のことを、ずっと待っていたかのように言った。

「姫は、これは知らないと思う。俺たち獅子獣人の男は、命が危ないとか敵が居るとか……どうしてもっていう時にしか出て来なくて、いつも怠けてる」

「そ、そうらしいわね……この前も、確かそれは聞いたわ」

 デュークの言葉に頷く私は王族として、国民である獣人の特性を聞いたりもしたけれど、ここまで細かい習性は知る由もない。

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