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37 誰②
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「ええ。けれど、私のところに話が来るまでに、断られてしまったみたいなの」
「そうっすか。またなんすね。陛下も殿下も、本当に過保護っすね。姫も花も匂う妙齢だと言うのに」
ここ数日私を避けているデュークは、それを思わせることもなく自然体だ。
いいえ。そもそも、避けているはずの人に対し、こんな風に近づいてくるだろうか?
「ね。デューク。私を避けていた?」
私は我慢出来ず、彼に直接聞くことにした。
「……いや? そんなことないっすよ。俺は最近ユンカナンを荒らし回っている盗賊団の話で、ここ数日忙しかったっす。陛下は絶対に全員逃すなとお怒りなもので、団長職は俺だけじゃなくて、全員走り回っているはずっすよ。マティアスに聞いてないすか?」
飄々とした態度のデュークを見て、私は避けられてはいなかったとほっと胸を撫で下ろした。
それに、私との縁談云々を、お父様から何も聞いていないみたいだし。
「マティアスからは、忙しいとは聞いたけど……理由はそう言えば、聞かなかったわ」
「……あいつも、俺の部下なんで。姫と言えど……上司が何をしているかというのは、言えないんですみません」
デュークは話しながら何故かダムウェアの一行を目で追いながら、難しい表情をしていた。けど、私の言葉を聞いて、ようやくこちらを見てくれた。
「ねえ。デューク。私、貴方に前々から……聞きたかったことがあったんだけど」
「良いっすよ」
「私。貴方に王都の街で助けてもらった事があるのって……覚えてる?」
私はその時にようやく、デュークは『あー。あの時の女の子っすか』みたいな反応をするのではないかと思っていた。
けれど、彼はきょとんとした顔で、首を傾げ頭を掻いた。
「は? 俺。そんなことしましたっけ?」
デュークの言葉を聞いて、やっぱり忘れられていたのだと悟った私はガッカリした。
わかってはいたことだけど、やっぱり辛い。
こちらがどれだけの熱量でデュークのことを好きでいようが、彼にとってみればあっさりすぐさま忘れてしまうようなどうでも良い記憶だったのだ。
「……やっぱり、覚えてないのね。仕方ないわ」
甘い出会いも片方だけの幻想だったかと現実を思い知った私が落ち込むと、デュークは慌てて両手を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってください。いや……俺は自分が記憶力は、あまりないとは自覚してるっす。けど、身分を隠しているとは言え、こんなに可愛い女の子を助けたなら、流石に覚えてそうですけどね」
「もう……そういう、見え透いたお世辞は、良いわ……だって、現に私のことを覚えていないんでしょう?」
拗ねて言って歩き出せば、デュークは慌てて付いて来た。
「すみません。けど、ぜんぜんわざとじゃないっすよ。おかしいな……姫をひと目見れば、絶対に記憶に残るっすよ。悪い魔法使いに、記憶を消されたのかも知れません……」
「だから、もうっ、そういう見え透いた言い訳は良いってば」
珍しく彼の前で気分を害し私のご機嫌を取ろうとしてか、デュークは通算二度目のお茶に誘ってくれたので……これはもうこれで、良いこととする。
「そうっすか。またなんすね。陛下も殿下も、本当に過保護っすね。姫も花も匂う妙齢だと言うのに」
ここ数日私を避けているデュークは、それを思わせることもなく自然体だ。
いいえ。そもそも、避けているはずの人に対し、こんな風に近づいてくるだろうか?
「ね。デューク。私を避けていた?」
私は我慢出来ず、彼に直接聞くことにした。
「……いや? そんなことないっすよ。俺は最近ユンカナンを荒らし回っている盗賊団の話で、ここ数日忙しかったっす。陛下は絶対に全員逃すなとお怒りなもので、団長職は俺だけじゃなくて、全員走り回っているはずっすよ。マティアスに聞いてないすか?」
飄々とした態度のデュークを見て、私は避けられてはいなかったとほっと胸を撫で下ろした。
それに、私との縁談云々を、お父様から何も聞いていないみたいだし。
「マティアスからは、忙しいとは聞いたけど……理由はそう言えば、聞かなかったわ」
「……あいつも、俺の部下なんで。姫と言えど……上司が何をしているかというのは、言えないんですみません」
デュークは話しながら何故かダムウェアの一行を目で追いながら、難しい表情をしていた。けど、私の言葉を聞いて、ようやくこちらを見てくれた。
「ねえ。デューク。私、貴方に前々から……聞きたかったことがあったんだけど」
「良いっすよ」
「私。貴方に王都の街で助けてもらった事があるのって……覚えてる?」
私はその時にようやく、デュークは『あー。あの時の女の子っすか』みたいな反応をするのではないかと思っていた。
けれど、彼はきょとんとした顔で、首を傾げ頭を掻いた。
「は? 俺。そんなことしましたっけ?」
デュークの言葉を聞いて、やっぱり忘れられていたのだと悟った私はガッカリした。
わかってはいたことだけど、やっぱり辛い。
こちらがどれだけの熱量でデュークのことを好きでいようが、彼にとってみればあっさりすぐさま忘れてしまうようなどうでも良い記憶だったのだ。
「……やっぱり、覚えてないのね。仕方ないわ」
甘い出会いも片方だけの幻想だったかと現実を思い知った私が落ち込むと、デュークは慌てて両手を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってください。いや……俺は自分が記憶力は、あまりないとは自覚してるっす。けど、身分を隠しているとは言え、こんなに可愛い女の子を助けたなら、流石に覚えてそうですけどね」
「もう……そういう、見え透いたお世辞は、良いわ……だって、現に私のことを覚えていないんでしょう?」
拗ねて言って歩き出せば、デュークは慌てて付いて来た。
「すみません。けど、ぜんぜんわざとじゃないっすよ。おかしいな……姫をひと目見れば、絶対に記憶に残るっすよ。悪い魔法使いに、記憶を消されたのかも知れません……」
「だから、もうっ、そういう見え透いた言い訳は良いってば」
珍しく彼の前で気分を害し私のご機嫌を取ろうとしてか、デュークは通算二度目のお茶に誘ってくれたので……これはもうこれで、良いこととする。
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