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29 夜会②
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「義母上も、強引だな……アリエルが踊りたくなければ、別に踊らなくて良い」
ラインハルトお兄様の豪奢な金色の巻き毛に、シャンデリアの光が跳ねてとても美しい。
……とは言っても、兄の容姿はつま先から髪の先まで、寝起きの時でさえも常に完璧なのだけど……妹の私が言ってしまうのも変な話だけど、どこからどう見ても完璧な王子様なのだ。
「お兄様。気にしなくても大丈夫ですわ。サミュエル様は、女性が嫌な思いをするような、そんな男性ではありません。むしろ、今の社交界をときめく貴公子ではないですか」
人気のあるサミュエル様と踊りたいと願う女性は、この会場に居るだけでも多いだろう。私はそういった意味では、とても変わっているのかもしれない。
デューク以外の男性と踊れたとしても、全然嬉しくないもの。
貴族が好むような繊細で壊れやすい芸術品のような洗練された男性の良さも、わからなくもない。
けれど、私はデュークのような荒々しくも野生味を感じさせるような男性が好きなのだ。
「今をときめくという意味では、僕は用無しの王太子のようだ」
「まあ……お兄様ったら。もしかして、拗ねてますか?」
とても珍しく自虐的な事を言った兄に、私はふふっと微笑んだ。
「サミュエル・ヘンドリックは父親に似ず、偏見もなく真面目な男のようだ。アリエルが彼を気に入るならすぐに縁談は決まるだろう。お前の降嫁先が本格的に決定すれば、中途半端に望みを持って婚約者を決めていない令息も、すぐに適当なところで手を打って婚約するかもしれない」
肩を竦めてラインハルトお兄様がそう言ったということは、きっと最終決定権を握るお父様だって同じ考えだということだろう。
「王家の血を持つ者の重責に身震いしますわ。お兄様……私。デュークが来る前に、サミュエル様と一曲だけ踊って来ます」
カーテシーをして去ろうとした私に、ラインハルトお兄様は面白そうな顔をして言った。
「……おや。あいつとは、この先結ばれなくても良いんだろう?」
確かに数日前お兄様に、デュークと結ばれることなど望まないと言ったばかりだ。
私は舌の根も乾かぬ内に、その考えを翻したことになる。
「……少し、考え直しました。お父様が前向きな言葉をくれたので彼に地位を与えて、もしデュークが頷いてくれるなら。とても強い騎士である彼をこの国に留め置ける存在になるという、国益にもなります。そうすれば、私も願ってもないものですわ」
「お前は……そんな余計な事を、考える必要はない。王としての身分に縛られ犠牲になるのは僕が居れば十分だ」
ラインハルトお兄様の過保護ぶりはいつものことなので、私は特に反応をすることなく肩を竦めた。
「あら。お兄様。私はお兄様が王家としての責務に縛られ地獄に赴くなら共に参ります。そうしたいと私が勝手に思うのは、自由なことのはずです」
「お前の人生なのだから……お前が思うように、生きれば良い」
お兄様は私をやたらと甘やかす。けれど、私はそれを望んでは居ない。
私は兄に黙って礼をし、令嬢たちの群がる貴公子。サミュエル・ヘンドリック様へと向けて歩き出した。
ラインハルトお兄様の豪奢な金色の巻き毛に、シャンデリアの光が跳ねてとても美しい。
……とは言っても、兄の容姿はつま先から髪の先まで、寝起きの時でさえも常に完璧なのだけど……妹の私が言ってしまうのも変な話だけど、どこからどう見ても完璧な王子様なのだ。
「お兄様。気にしなくても大丈夫ですわ。サミュエル様は、女性が嫌な思いをするような、そんな男性ではありません。むしろ、今の社交界をときめく貴公子ではないですか」
人気のあるサミュエル様と踊りたいと願う女性は、この会場に居るだけでも多いだろう。私はそういった意味では、とても変わっているのかもしれない。
デューク以外の男性と踊れたとしても、全然嬉しくないもの。
貴族が好むような繊細で壊れやすい芸術品のような洗練された男性の良さも、わからなくもない。
けれど、私はデュークのような荒々しくも野生味を感じさせるような男性が好きなのだ。
「今をときめくという意味では、僕は用無しの王太子のようだ」
「まあ……お兄様ったら。もしかして、拗ねてますか?」
とても珍しく自虐的な事を言った兄に、私はふふっと微笑んだ。
「サミュエル・ヘンドリックは父親に似ず、偏見もなく真面目な男のようだ。アリエルが彼を気に入るならすぐに縁談は決まるだろう。お前の降嫁先が本格的に決定すれば、中途半端に望みを持って婚約者を決めていない令息も、すぐに適当なところで手を打って婚約するかもしれない」
肩を竦めてラインハルトお兄様がそう言ったということは、きっと最終決定権を握るお父様だって同じ考えだということだろう。
「王家の血を持つ者の重責に身震いしますわ。お兄様……私。デュークが来る前に、サミュエル様と一曲だけ踊って来ます」
カーテシーをして去ろうとした私に、ラインハルトお兄様は面白そうな顔をして言った。
「……おや。あいつとは、この先結ばれなくても良いんだろう?」
確かに数日前お兄様に、デュークと結ばれることなど望まないと言ったばかりだ。
私は舌の根も乾かぬ内に、その考えを翻したことになる。
「……少し、考え直しました。お父様が前向きな言葉をくれたので彼に地位を与えて、もしデュークが頷いてくれるなら。とても強い騎士である彼をこの国に留め置ける存在になるという、国益にもなります。そうすれば、私も願ってもないものですわ」
「お前は……そんな余計な事を、考える必要はない。王としての身分に縛られ犠牲になるのは僕が居れば十分だ」
ラインハルトお兄様の過保護ぶりはいつものことなので、私は特に反応をすることなく肩を竦めた。
「あら。お兄様。私はお兄様が王家としての責務に縛られ地獄に赴くなら共に参ります。そうしたいと私が勝手に思うのは、自由なことのはずです」
「お前の人生なのだから……お前が思うように、生きれば良い」
お兄様は私をやたらと甘やかす。けれど、私はそれを望んでは居ない。
私は兄に黙って礼をし、令嬢たちの群がる貴公子。サミュエル・ヘンドリック様へと向けて歩き出した。
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