15 / 73
15 別問題①
しおりを挟む
最近はお忍びをすることもなく、久しぶりに見たユンカナン王国王都は、とても賑わっていた。
大通りの人波のせいで、とても広い道が見えないほど。
私はまだ王族として課せられた義務を、成し遂げれてはいないけど……ユンカナン王国国民すべてが飢えることなく、自分の生活が豊かで日々笑顔であれば良いと願う。
我が国ユンカナン王国は、建国当初は貧しくてとても大変だったらしい。
王都がここまでに多くの人を集め栄え、今この目に見える国民が普通の生活を送られているのも、すべて長年この国を守り支えてくれた先人たちの努力の賜物だ。
彼らの子孫である私はそんな彼らに愛され生かされていることを、決して忘れてはならない。王都で生き生きとした人たちを見るたびに、私はそう感じていた。
国民たちが笑顔のまま誰にも脅かされることがないように、先祖と同じようにこの国を守りたいって。
そして、本日のお忍びは、特例中の特例だった。
これまではお忍びとは言え、王族の一人の私の行く先は何度も慎重に検討されて調査されていた。
そして、決められたルートに沿って動き、気まぐれや例外などは許されなかった。
何故かと言うと、二年前悪戯心を出して護衛から逃げ出した私が危ない目に遭いそうだったことが今になっても尾を引いているからだ。
ええ。そうなの。不便な処遇は、すべては、私の自業自得なんです。
けど、今回は王族の警備責任者になれるぐらい地位も高く強さも折り紙付きのデュークがすぐ傍に居た。
警備責任者だから当たり前なのだけど、彼さえ良いと頷けば、私は行きたい場所へと行かせて貰えた。
しかも、私の正体を知らせてしまう訳にはいかないので、わかりにくく周囲を固める部下に小声で指示を出すデュークが格好良くて仕方ない。
「……姫。俺のこと、本当に好きっすね」
「あら。それは、確かにその通りだけど。どうして、今それを言うの」
確かにそう。でなければ、彼を守ろうと動いたりしないもの。
「さっきから姫の視線で顔に穴が開きそうなくらい、ずっと見られてるんで。なんだか、怖いっす」
私は普通にしていたつもりだったんだけど、彼から見ればそうだったかと、慌ててデュークから目を逸らした。
せっかくのお忍びの日だと言うのに、私はデュークしか見ていなかったことに、その時ようやく気がついた。
視線を向けた目に入る王都の大通りは、所狭しと人で溢れていた。人が集まり、街が栄える。
それは、お父様である現王の政り事が、上手く機能しているという非常に喜ばしい証拠っだった。
けど、こうして久々に街に遊びに来ているのに、珍しい私服のデュークばかり見ていた。
本当に……もう私はデュークが好き過ぎて、彼が言っていたようにどこかがおかしくなっているのかもしれない。
「不快にさせて、ごめんなさい……だって、デュークと長時間一緒に居られることって、私にはあまりないから」
怖いと言われて流石に落ち込みしゅんとして肩を落としたら、これは言い過ぎたと彼は思ったのかもしれない。
デュークは私の右肩へと大きな手を置いた。
「……いや、俺が少し言い過ぎました。すみません。けど、俺の顔を見るんなら、城でも出来るんで……せっかく来たんで、街歩きを楽しんでくださいよ」
「ええ。そうだったわ。デュークの言う通りよね……えっ!」
私は彼の言葉に答えつつ目の前の光景を見てから、すぐに走り出した。
だって、その瞬間にはもう既に一刻の猶予も許されず、すぐ隣に居たデュークと相談しようという気も起こらないくらいに、状況は逼迫して差し迫っていたからだ。
小さな男の子が走っている馬車の前に飛び出し、跳ねられる直前だった。
私は男の子の身体に向けて、懸命に手を伸ばした。なんとか、彼の小さな手をぎゅっと握った。
大通りの人波のせいで、とても広い道が見えないほど。
私はまだ王族として課せられた義務を、成し遂げれてはいないけど……ユンカナン王国国民すべてが飢えることなく、自分の生活が豊かで日々笑顔であれば良いと願う。
我が国ユンカナン王国は、建国当初は貧しくてとても大変だったらしい。
王都がここまでに多くの人を集め栄え、今この目に見える国民が普通の生活を送られているのも、すべて長年この国を守り支えてくれた先人たちの努力の賜物だ。
彼らの子孫である私はそんな彼らに愛され生かされていることを、決して忘れてはならない。王都で生き生きとした人たちを見るたびに、私はそう感じていた。
国民たちが笑顔のまま誰にも脅かされることがないように、先祖と同じようにこの国を守りたいって。
そして、本日のお忍びは、特例中の特例だった。
これまではお忍びとは言え、王族の一人の私の行く先は何度も慎重に検討されて調査されていた。
そして、決められたルートに沿って動き、気まぐれや例外などは許されなかった。
何故かと言うと、二年前悪戯心を出して護衛から逃げ出した私が危ない目に遭いそうだったことが今になっても尾を引いているからだ。
ええ。そうなの。不便な処遇は、すべては、私の自業自得なんです。
けど、今回は王族の警備責任者になれるぐらい地位も高く強さも折り紙付きのデュークがすぐ傍に居た。
警備責任者だから当たり前なのだけど、彼さえ良いと頷けば、私は行きたい場所へと行かせて貰えた。
しかも、私の正体を知らせてしまう訳にはいかないので、わかりにくく周囲を固める部下に小声で指示を出すデュークが格好良くて仕方ない。
「……姫。俺のこと、本当に好きっすね」
「あら。それは、確かにその通りだけど。どうして、今それを言うの」
確かにそう。でなければ、彼を守ろうと動いたりしないもの。
「さっきから姫の視線で顔に穴が開きそうなくらい、ずっと見られてるんで。なんだか、怖いっす」
私は普通にしていたつもりだったんだけど、彼から見ればそうだったかと、慌ててデュークから目を逸らした。
せっかくのお忍びの日だと言うのに、私はデュークしか見ていなかったことに、その時ようやく気がついた。
視線を向けた目に入る王都の大通りは、所狭しと人で溢れていた。人が集まり、街が栄える。
それは、お父様である現王の政り事が、上手く機能しているという非常に喜ばしい証拠っだった。
けど、こうして久々に街に遊びに来ているのに、珍しい私服のデュークばかり見ていた。
本当に……もう私はデュークが好き過ぎて、彼が言っていたようにどこかがおかしくなっているのかもしれない。
「不快にさせて、ごめんなさい……だって、デュークと長時間一緒に居られることって、私にはあまりないから」
怖いと言われて流石に落ち込みしゅんとして肩を落としたら、これは言い過ぎたと彼は思ったのかもしれない。
デュークは私の右肩へと大きな手を置いた。
「……いや、俺が少し言い過ぎました。すみません。けど、俺の顔を見るんなら、城でも出来るんで……せっかく来たんで、街歩きを楽しんでくださいよ」
「ええ。そうだったわ。デュークの言う通りよね……えっ!」
私は彼の言葉に答えつつ目の前の光景を見てから、すぐに走り出した。
だって、その瞬間にはもう既に一刻の猶予も許されず、すぐ隣に居たデュークと相談しようという気も起こらないくらいに、状況は逼迫して差し迫っていたからだ。
小さな男の子が走っている馬車の前に飛び出し、跳ねられる直前だった。
私は男の子の身体に向けて、懸命に手を伸ばした。なんとか、彼の小さな手をぎゅっと握った。
126
お気に入りに追加
782
あなたにおすすめの小説
獣人公爵のエスコート
ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。
将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。
軽いすれ違いです。
書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。
従者♂といかがわしいことをしていたもふもふ獣人辺境伯の夫に離縁を申し出たら何故か溺愛されました
甘酒
恋愛
中流貴族の令嬢であるイズ・ベルラインは、行き遅れであることにコンプレックスを抱いていたが、運良く辺境伯のラーファ・ダルク・エストとの婚姻が決まる。
互いにほぼ面識のない状態での結婚だったが、ラーファはイヌ科の獣人で、犬耳とふわふわの巻き尻尾にイズは魅了される。
しかし、イズは初夜でラーファの機嫌を損ねてしまい、それ以降ずっと夜の営みがない日々を過ごす。
辺境伯の夫人となり、可愛らしいもふもふを眺めていられるだけでも充分だ、とイズは自分に言い聞かせるが、ある日衝撃的な現場を目撃してしまい……。
生真面目なもふもふイヌ科獣人辺境伯×もふもふ大好き令嬢のすれ違い溺愛ラブストーリーです。
※こんなタイトルですがBL要素はありません。
※性的描写を含む部分には★が付きます。
絶対、離婚してみせます!! 皇子に利用される日々は終わりなんですからね
迷い人
恋愛
命を助けてもらう事と引き換えに、皇家に嫁ぐ事を約束されたラシーヌ公爵令嬢ラケシスは、10歳を迎えた年に5歳年上の第五皇子サリオンに嫁いだ。
愛されていると疑う事無く8年が過ぎた頃、夫の本心を知ることとなったが、ラケシスから離縁を申し出る事が出来ないのが現実。 悩むラケシスを横目に、サリオンは愛妾を向かえる準備をしていた。
「ダグラス兄様、助けて、助けて助けて助けて」
兄妹のように育った幼馴染であり、命の恩人である第四皇子にラケシスは助けを求めれば、ようやく愛しい子が自分の手の中に戻ってくるのだと、ダグラスは動き出す。
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件
豆丸
恋愛
仲良しな家族にうんざりしていた湯浅風花。ある夜、夢の中で紫髪、つり目のキツメ美人さんと体を交換することに。
そして、目を醒ますと着衣のまま、美麗ケモ耳男に股がっていました。
え?繋がってる?どーゆーこと?子供もいるの?
でも、旦那様格好いいし一目惚れしちゃた!役得かも。うそ、私、悪役令嬢でしかも断罪後で旦那様にも嫌われてるの?
よし!嫌われてるのなら、押して押して押し倒して好きにさせてみせる!!
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる