11 / 73
11 想いが重い①
しおりを挟む
「……姫。起きるっす」
「ん……」
目を開いた瞬間に驚きのあまり悲鳴を叫びそうになった私は、慌てて両手で口を塞いだ。
美しくて大きな黒い獅子の顔が、私を黒曜石のような大きな目で見つめていたからだ。
私が眠ってしまう前に寝顔を見ていたあの人の獣型で、間違えていない……と思う。
「……デュークなの?」
「ええ。姫。その通り、俺っす。なんで、一緒に姫が寝てるんすか。俺は自分の執務室にまで戻るの面倒だったから、夕方の会議の時間まで時間潰ししようとしただけっすよ」
とても呆れた黒獅子の低い声は、いつもより少々くぐもっては聞こえているものの確かに人の言葉を話している。
私が思った通りにこの黒獅子がデュークが獣化した後の姿だ。
————-なんて、美しいの。
通常な獅子の毛は金色だし、百獣の王の名に相応しい勇壮な姿は画家にも好まれて有名な絵画にも良く描かれている。
けれど、今のデュークの姿は、まるで明るい光を吸い込むような漆黒の毛を持つ獣だった。
デュークは私が想像していた以上に、素晴らしい別の姿を持っていた。
「……それって、デュークがお仕事をサボってた訳ではないの?」
「そういう訳じゃないですって。だから、次の会議までの必要な時間潰しっす。城の会議室から、俺の執務室まで遠過ぎるんすよ。立場の近い同僚と同じように、その辺の部屋でお茶でも飲んで、近隣国の政治について語らうと思います?」
「あら。それならば、薔薇の離宮に、貴方の執務室を移すようにお願いしましょうか?」
「それは、誠に光栄ながら、謹んで遠慮するっす。ところで、姫」
「え? 何。デューク」
私はその時、デュークの手触りの良さそうな艶やかな黒い毛の中に彼が着ていたであろう騎士服が破れているらしい生地を見つけた。
私には良くわからないけど、服を脱ぐ間もなく彼は何かの理由があって慌てて獣化をしてしまったのかもしれない。
「……俺が、怖くないんすか」
言いづらそうに言ったデュークの言葉を聞いて、私には彼が何を気にしているのかと、すごく不思議になった。
「どうして。こんなにも美しい姿をしている獣を、怖いと思うの? 私はちっとも怖くないわ。それに……だって、どんな姿でも中身はデュークだもの」
「俺の本当の姿は、こうした恐ろしい肉食獣です。姫のことを、この牙で引き裂いて食い殺すことだって……簡単に出来んすよ」
まるで自分は凄く危険なのだということを表すように、私を脅かす意図でか低い唸り声をあげた。
それすらも可愛く思えて、つい笑い声をあげてしまった。
「ふふ。そうね。それでは、私はデュークになら食べられても構わないわ」
微笑んだ私はあくまで自分なりの面白い冗談を言ったつもりだったんだけど、獣の姿なのに見るからに引いて困った様子を見せているデュークとは、心の距離がかなり開いてしまったようだった。
「ん……」
目を開いた瞬間に驚きのあまり悲鳴を叫びそうになった私は、慌てて両手で口を塞いだ。
美しくて大きな黒い獅子の顔が、私を黒曜石のような大きな目で見つめていたからだ。
私が眠ってしまう前に寝顔を見ていたあの人の獣型で、間違えていない……と思う。
「……デュークなの?」
「ええ。姫。その通り、俺っす。なんで、一緒に姫が寝てるんすか。俺は自分の執務室にまで戻るの面倒だったから、夕方の会議の時間まで時間潰ししようとしただけっすよ」
とても呆れた黒獅子の低い声は、いつもより少々くぐもっては聞こえているものの確かに人の言葉を話している。
私が思った通りにこの黒獅子がデュークが獣化した後の姿だ。
————-なんて、美しいの。
通常な獅子の毛は金色だし、百獣の王の名に相応しい勇壮な姿は画家にも好まれて有名な絵画にも良く描かれている。
けれど、今のデュークの姿は、まるで明るい光を吸い込むような漆黒の毛を持つ獣だった。
デュークは私が想像していた以上に、素晴らしい別の姿を持っていた。
「……それって、デュークがお仕事をサボってた訳ではないの?」
「そういう訳じゃないですって。だから、次の会議までの必要な時間潰しっす。城の会議室から、俺の執務室まで遠過ぎるんすよ。立場の近い同僚と同じように、その辺の部屋でお茶でも飲んで、近隣国の政治について語らうと思います?」
「あら。それならば、薔薇の離宮に、貴方の執務室を移すようにお願いしましょうか?」
「それは、誠に光栄ながら、謹んで遠慮するっす。ところで、姫」
「え? 何。デューク」
私はその時、デュークの手触りの良さそうな艶やかな黒い毛の中に彼が着ていたであろう騎士服が破れているらしい生地を見つけた。
私には良くわからないけど、服を脱ぐ間もなく彼は何かの理由があって慌てて獣化をしてしまったのかもしれない。
「……俺が、怖くないんすか」
言いづらそうに言ったデュークの言葉を聞いて、私には彼が何を気にしているのかと、すごく不思議になった。
「どうして。こんなにも美しい姿をしている獣を、怖いと思うの? 私はちっとも怖くないわ。それに……だって、どんな姿でも中身はデュークだもの」
「俺の本当の姿は、こうした恐ろしい肉食獣です。姫のことを、この牙で引き裂いて食い殺すことだって……簡単に出来んすよ」
まるで自分は凄く危険なのだということを表すように、私を脅かす意図でか低い唸り声をあげた。
それすらも可愛く思えて、つい笑い声をあげてしまった。
「ふふ。そうね。それでは、私はデュークになら食べられても構わないわ」
微笑んだ私はあくまで自分なりの面白い冗談を言ったつもりだったんだけど、獣の姿なのに見るからに引いて困った様子を見せているデュークとは、心の距離がかなり開いてしまったようだった。
176
お気に入りに追加
792
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

絶対、離婚してみせます!! 皇子に利用される日々は終わりなんですからね
迷い人
恋愛
命を助けてもらう事と引き換えに、皇家に嫁ぐ事を約束されたラシーヌ公爵令嬢ラケシスは、10歳を迎えた年に5歳年上の第五皇子サリオンに嫁いだ。
愛されていると疑う事無く8年が過ぎた頃、夫の本心を知ることとなったが、ラケシスから離縁を申し出る事が出来ないのが現実。 悩むラケシスを横目に、サリオンは愛妾を向かえる準備をしていた。
「ダグラス兄様、助けて、助けて助けて助けて」
兄妹のように育った幼馴染であり、命の恩人である第四皇子にラケシスは助けを求めれば、ようやく愛しい子が自分の手の中に戻ってくるのだと、ダグラスは動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる