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10 眠り騎士②

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 ゆっくりと散歩道を辿り、ふと目を留めた木の下で横たわり眠っている人を見た時に、私はあまりに彼のことが好き過ぎて、とても都合の良い幻覚を見ているのかもしれないと思った。

 けど、何度か瞬きをしても、その幻は消えない。

「え……デューク?」

 何故、彼がこんな場所に居るの?

 そろそろと足音を忍ばせ近づけば、すうすうと穏やかな寝息を立てて完全に睡眠中のデュークが木の下に居た。

 現在、陽も高い昼日中の時間帯。

 騎士団長デュークは間違いなく仕事中のはずだ。役職付きの彼は、夜勤なんてするはずもないんだから。

 そして、警備兵は一体何をしてるの? と思ってしまったけど、デュークはこの国に仕える要職にある騎士団長で不審者には当たらない。

 獣人で高い身体能力を持つデュークが壁を乗り越えて、この離宮の敷地へと入り込んでも、侵入者検知の魔法なんかには引っ掛からないのだ。

 それに、確かに……ここは、私の宮だ。

 デュークがこうして仕事をサボっていたとしても、万が一見つかっても、怒るべきなのは私なのだから、誰にも怒られることはない。

 こうやってデュークが仰向けで安心して寝ていることも、納得だわ。

 宮の主は彼のことが大好きなので、使用人に報告を受けたとて密告したりもしないものね。

 いつも私のことを迷惑そうにしてる癖にと、正直に言えば思ってしまうけれど。

 惚れてしまった弱みなので、こうして私の宮に来て警戒心なく眠っていることを知り悪い気はしていない。

 注意深くより近づいても、デュークは全く起きる気配はない。

 無防備に仰向けに寝ているし、お腹丸出しの状態だ。

 これって、もし誰かに刃物で刺されたらどうするの?

 そして、初めて見ることの出来たデュークの寝顔が、とんでもなく可愛過ぎる。

 獣人ということもあるのか野生味のある精悍な顔立ちのデュークは、いかにも王子様と言った繊細な美貌を持つ、私の兄たちとは全く違う魅力を持っていた。

 きっと、睨まれれば震えるほどに怖いだろうデュークが、こうして安心しきって寝ている姿なんてなかなか見ることが出来ない。

 口元がにやつき嬉しくなった私は出来心で眠っている彼の身体に、寄り添うようにして横になった。

 デュークがここに居る偶然に、私が散歩でもしようと思った偶然が重なるなんて……多分、一生に一度しかない。

 結構な間、私はとっておきの宝物を飽きる事なく愛でるようにして、デュークの寝顔を見つめていたんだけど、ポカポカとした陽気に眠りを誘われて、いつの間にか寝入ってしまっていたようだった。
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