9 / 73
09 眠り騎士①
しおりを挟む
血相を変えた護衛たちと帰城してから、全騎士団を出動させようとしていたお父様に雷を落とされて、あの時から私は兄同伴以外のお忍びが二度と出来なくなった。
そして、二年後にやっと結婚出来る年齢になった私は、ユンカナン王国の王族として、騎士団の団長として任命された少し大人っぽくなったデュークと対面することになったのだ。
『驚くだろうか。何を言われるだろうか』と胸を高鳴らせて、王を前にして若干緊張した騎士デュークは名乗り出て挨拶をした私を、まるで初対面のようにして扱った。
———-あ。覚えていなかったんだ。
そう思った。例え私にとっては衝撃的な運命の出会いだったとしても、女性から浴びるように好意を寄せられるだろうデュークにとってみれば、きっとありふれた良くある出来事だったのだ。
あれから、二年も経っているというのに、記憶に残っているはずもなかった。私は片時も忘れたことなんて、なかったのに……。
デュークに忘れられているのだと悟った時、私はとてもショックだった。
けど、自分を忘れられていたことは切ないけど、それはもう彼の勝手で仕方のないことだ。
『あの時の事を、忘れてしまったの?』 と、こちらから切り出して『ああ。そんなこともありましたね』と、二度傷ついてしまうのもばかばかしい。
必ず会いに行くという約束をしたのは、私の方だった。勝手に結婚を希望されて会いに行くと言われただけで、デュークの責任でもない。
大人になるということは、だんだんと不自由になっていくことなのかもしれない。
もし、人の事情など気にも掛けない子どもであれば、私のことを忘れてしまった彼を約束したのにと泣き喚いて散々になじっただろう。
成人して結婚出来る年齢になった私には、流石にそれは出来なかった。
そうして、静かに私の恋は、幕を閉じたはずだった。
暗殺や誘拐の危険が付き纏う王族の一員の私が、たった一人の時間を過ごすことは、警備上の問題もあり、当然の如くあまりなかった。
私が現在住んでいる薔薇の離宮は元々正妃であった、お母様に与えられていた宮だ。
そんな薔薇の離宮の中であれば、少しだけ話は変わって来る。
侵入者検知の魔法を掛けられ、堅固な警備を幾重に敷かれた離宮の中でのみ、王家の姫という身分を持つ私が人払いをしてしまえば短い一人の時間が許されるのだ。
ふと気が向いて散歩することにした庭園には、薔薇の離宮の名前の通り、色取り取りの薔薇の花が咲いて、目にも鮮やかだった。
もし、誰かに言えば『何を贅沢なことを』と言ってと眉を顰められてしまいそうだけど、一国のお姫様として常時敬われ大事にされている私も、たまに一人だけになって、こうして散歩をして、息苦しい身分を忘れたい時があった。
通常であれば、薔薇の離宮は義理の母で現在の正妃であるセリーヌ様が住む流れになるはずだった。
けれど、早くに母を無くした幼い私を気遣い母親の記憶が残る場所で過ごさせてあげたいと言ってくださり、私に離宮を譲ってくださったのだ。
元々は側妃であったセリーヌ様と私は、義理の親子という為さぬ仲ではあるものの、真面目で誠実な彼女のことは尊敬している。
セリーヌ様は優しさを持つだけではなく、国を統治する王族としては相応しい考えを持ちとても公平公正な人だ。
だから、私が一臣下であるデュークに入れ込んで、彼に傾倒しているという話を聞いた彼女には当たり前だけどあまり良い顔はされていない。
『王族は仕える臣下の特定人物を贔屓せずに公平に接すべきだ』と、彼女から何度も何度も聞かされた。
きっと、私が持つ事情を説明したところで、それは軍務大臣であるヘンドリック侯爵とデュークの二人の問題なのだから、私は何もするなと言われて終わってしまう。
私は一方的に好意を寄せているデュークのためなら、自分の評判など別に地に落ちても良いとまで思っていた。
だって、デュークのことが本当に好きだから。
そして、二年後にやっと結婚出来る年齢になった私は、ユンカナン王国の王族として、騎士団の団長として任命された少し大人っぽくなったデュークと対面することになったのだ。
『驚くだろうか。何を言われるだろうか』と胸を高鳴らせて、王を前にして若干緊張した騎士デュークは名乗り出て挨拶をした私を、まるで初対面のようにして扱った。
———-あ。覚えていなかったんだ。
そう思った。例え私にとっては衝撃的な運命の出会いだったとしても、女性から浴びるように好意を寄せられるだろうデュークにとってみれば、きっとありふれた良くある出来事だったのだ。
あれから、二年も経っているというのに、記憶に残っているはずもなかった。私は片時も忘れたことなんて、なかったのに……。
デュークに忘れられているのだと悟った時、私はとてもショックだった。
けど、自分を忘れられていたことは切ないけど、それはもう彼の勝手で仕方のないことだ。
『あの時の事を、忘れてしまったの?』 と、こちらから切り出して『ああ。そんなこともありましたね』と、二度傷ついてしまうのもばかばかしい。
必ず会いに行くという約束をしたのは、私の方だった。勝手に結婚を希望されて会いに行くと言われただけで、デュークの責任でもない。
大人になるということは、だんだんと不自由になっていくことなのかもしれない。
もし、人の事情など気にも掛けない子どもであれば、私のことを忘れてしまった彼を約束したのにと泣き喚いて散々になじっただろう。
成人して結婚出来る年齢になった私には、流石にそれは出来なかった。
そうして、静かに私の恋は、幕を閉じたはずだった。
暗殺や誘拐の危険が付き纏う王族の一員の私が、たった一人の時間を過ごすことは、警備上の問題もあり、当然の如くあまりなかった。
私が現在住んでいる薔薇の離宮は元々正妃であった、お母様に与えられていた宮だ。
そんな薔薇の離宮の中であれば、少しだけ話は変わって来る。
侵入者検知の魔法を掛けられ、堅固な警備を幾重に敷かれた離宮の中でのみ、王家の姫という身分を持つ私が人払いをしてしまえば短い一人の時間が許されるのだ。
ふと気が向いて散歩することにした庭園には、薔薇の離宮の名前の通り、色取り取りの薔薇の花が咲いて、目にも鮮やかだった。
もし、誰かに言えば『何を贅沢なことを』と言ってと眉を顰められてしまいそうだけど、一国のお姫様として常時敬われ大事にされている私も、たまに一人だけになって、こうして散歩をして、息苦しい身分を忘れたい時があった。
通常であれば、薔薇の離宮は義理の母で現在の正妃であるセリーヌ様が住む流れになるはずだった。
けれど、早くに母を無くした幼い私を気遣い母親の記憶が残る場所で過ごさせてあげたいと言ってくださり、私に離宮を譲ってくださったのだ。
元々は側妃であったセリーヌ様と私は、義理の親子という為さぬ仲ではあるものの、真面目で誠実な彼女のことは尊敬している。
セリーヌ様は優しさを持つだけではなく、国を統治する王族としては相応しい考えを持ちとても公平公正な人だ。
だから、私が一臣下であるデュークに入れ込んで、彼に傾倒しているという話を聞いた彼女には当たり前だけどあまり良い顔はされていない。
『王族は仕える臣下の特定人物を贔屓せずに公平に接すべきだ』と、彼女から何度も何度も聞かされた。
きっと、私が持つ事情を説明したところで、それは軍務大臣であるヘンドリック侯爵とデュークの二人の問題なのだから、私は何もするなと言われて終わってしまう。
私は一方的に好意を寄せているデュークのためなら、自分の評判など別に地に落ちても良いとまで思っていた。
だって、デュークのことが本当に好きだから。
137
お気に入りに追加
782
あなたにおすすめの小説
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
絶対、離婚してみせます!! 皇子に利用される日々は終わりなんですからね
迷い人
恋愛
命を助けてもらう事と引き換えに、皇家に嫁ぐ事を約束されたラシーヌ公爵令嬢ラケシスは、10歳を迎えた年に5歳年上の第五皇子サリオンに嫁いだ。
愛されていると疑う事無く8年が過ぎた頃、夫の本心を知ることとなったが、ラケシスから離縁を申し出る事が出来ないのが現実。 悩むラケシスを横目に、サリオンは愛妾を向かえる準備をしていた。
「ダグラス兄様、助けて、助けて助けて助けて」
兄妹のように育った幼馴染であり、命の恩人である第四皇子にラケシスは助けを求めれば、ようやく愛しい子が自分の手の中に戻ってくるのだと、ダグラスは動き出す。
抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。
そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!?
貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
獣人公爵のエスコート
ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。
将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。
軽いすれ違いです。
書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。
従者♂といかがわしいことをしていたもふもふ獣人辺境伯の夫に離縁を申し出たら何故か溺愛されました
甘酒
恋愛
中流貴族の令嬢であるイズ・ベルラインは、行き遅れであることにコンプレックスを抱いていたが、運良く辺境伯のラーファ・ダルク・エストとの婚姻が決まる。
互いにほぼ面識のない状態での結婚だったが、ラーファはイヌ科の獣人で、犬耳とふわふわの巻き尻尾にイズは魅了される。
しかし、イズは初夜でラーファの機嫌を損ねてしまい、それ以降ずっと夜の営みがない日々を過ごす。
辺境伯の夫人となり、可愛らしいもふもふを眺めていられるだけでも充分だ、とイズは自分に言い聞かせるが、ある日衝撃的な現場を目撃してしまい……。
生真面目なもふもふイヌ科獣人辺境伯×もふもふ大好き令嬢のすれ違い溺愛ラブストーリーです。
※こんなタイトルですがBL要素はありません。
※性的描写を含む部分には★が付きます。
悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件
豆丸
恋愛
仲良しな家族にうんざりしていた湯浅風花。ある夜、夢の中で紫髪、つり目のキツメ美人さんと体を交換することに。
そして、目を醒ますと着衣のまま、美麗ケモ耳男に股がっていました。
え?繋がってる?どーゆーこと?子供もいるの?
でも、旦那様格好いいし一目惚れしちゃた!役得かも。うそ、私、悪役令嬢でしかも断罪後で旦那様にも嫌われてるの?
よし!嫌われてるのなら、押して押して押し倒して好きにさせてみせる!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる