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02 立場からの解放

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◇◆◇



「ええ。私もようやく、この息苦しい立場から、解放されるわ」

 王太子シェーマス様の婚約者である私は、特別に城の庭園でお茶会を開くことを許されている。ここには警備の問題で、招待していない人は誰も近寄らない。

 ようやく王太子の婚約者ではなくなるのだと話せば、シェーマス様と私の従姉妹で、母の姉の娘スーリエは手を叩いて喜んでくれた。

 話が話だけに、私が女避けの偽装婚約者であることは、近い身内しか知らない。

「良かったわね! そうしたら、アイリーンは誰とデートするの?」

 目を輝かせて興味津々のスーリエに、私は苦笑した。彼女は隣国の素敵な伯爵令息と婚約したばかり。

 自分の嫁ぎ先は既に確保済みだから、私の恋愛について面白がるだけの余裕を感じる。

「何言ってるの。まだ、早いわよ」

 シェーマス様の婚約については、絶対に私に不利とはならないように解消してくれるとは聞いている……けど、まだそれはなされてはいない。

「まあ……早いなんて! シェーマス様も、酷いものだわ。アイリーンだって本来なら、求婚者を選んでいるというのに、彼のために貴重な三年も無駄にしたのよ」

「別に無駄にしたとは思って居ないわ。役得でもあったもの。スーリエは、知っているでしょう。私がシェーマス様のことを、昔から好きだったのを」

「そうだけど……報われないのに、傍に居るなんて、切ないだけでしょう」

「……そんなことないわ。きっと、良い思い出になるはずよ」

 確かに私は社交界デビューを済ませて、すぐにシェーマス様と婚約することになったけど、別に時間を無駄にしたなんて思って居ない。

 シェーマス様からは何とも思われていなかったけど、私は自分の好きな彼の役に立つことが出来て、長い時間を傍に居ることを許された。

「ねえ……シェーマス様って、アイリーンのこと、本当は……好きではないの?」

 私もそんなことを夢見たものだけど、実際のところ、そうではないので首を横に振った。

「……そう思うわ」

「どうして? もしかしたら、好きなのかもしれないじゃない……何か、理由があって言えないとか……」

 どうしても諦められない様子のスーリエに、私は小さくため息をついて、彼が私を好きではないと思う理由を説明することにした。
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