上 下
7 / 9

07 香り

しおりを挟む
「何を言う。僕とミゼルが……こうして距離が近付いたのは、ヴィクトリアと婚約破棄してからだ」

 わかりやすく目を逸らしたチャールズに、ナザイレはくくっとくぐもった笑いを漏らした。

「ですが、公爵令嬢に呪いを掛けた件は詳しく調査する必要があるようです。おい。あの女を地下牢へ」

 ナザイレは後ろに控えていた部下の騎士たちに命令をし、ミゼルを捕える為に彼らは動き出した。

「なっ……なんですって!」

 今まで余裕の表情だったミゼルは、慌てて立ち上がった。

「落ち着け。ミゼル。そのような言いがかりのようなよく分からぬ容疑、すぐに晴れる。終わったら、直々に迎えに行こう」

 チャールズは私がナザイレと共に居て、彼らが調査すると言うならば従うべきと判断したのか、ミゼルに宥めるように言った。

「やっ……止めて……チャールズ様ぁ……私、何もしてないんです! 地下牢なんて、行きたくないー!!」

 騎士たちに取り囲まれ、絶望の表情でみっともない程に泣き喚くミゼルを見て、私はほっと息をついた。良かった。彼女が私に何かをしている事がわかれば、全ての容疑は晴れて失った名誉も取り戻せるかもしれない。

「……チャールズ殿下。お気分は、どうですか?」

「気分? 気分……? いや、何だろう。変な気分だ」

 チャールズはナザイレの問いに不思議そうな表情を浮かべ、頭を押さえていた。

「あの女からは、甘ったるい匂いがしました。あれが殿下を操っていたかもしれません」

「……なんだと!? ああ、だが……なんだか、頭の中がスッキリするような……」

 何度か頭を横に振っていたチャールズを見て、ナザイレは微笑んだ。

「ああ。お助け出来て、良かったです。悪い魔女のような、そんな存在だったのでしょう」

「あっ……ああ。そうか……僕は操られていたのか。ヴィクトリア……すまない」

 チャールズが私に近寄ろうとしたので、ナザイレがその前へと立ちはだかった。

「殿下……僕の婚約者に近寄るのは、ご遠慮ください」

「なんだと? しかし、僕が婚約破棄を宣言して、まだ一日も経っていない」

 チャールズは戸惑っているようだ。けれど、操られていたとわかっても、私にとってみればミゼルと虐めるなと迫る彼は恐怖の対象だった。

「ですから、求婚しました。ヴィクトリアは、僕と結婚します。既にそう約束しておりますので」

「なんだと? 本当なのか。ヴィクトリア」

 私にはまだチャールズとミゼルの事を話せない呪いが発動しているようなので、必死で何度も頷いた。

 そんな私を見たチャールズは、とても悲しそうだった。

 胸が痛むけれど、そういう約束で助けてもらっているし、チャールズ本人から婚約破棄を宣言された事だって事実だった。

「そう言う事ですので……ヴィクトリアは我が家へ連れ帰ります。彼女に仕える使用人も怪しい。全て調査を終えましたら、陛下と共に殿下にも報告を」

 騎士として跪いたナザイレはそう言い、両手で頭を押さえていたチャールズは一言だけ「わかった」と呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました

toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。 一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。 主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。 完結済。ハッピーエンドです。 8/2からは閑話を書けたときに追加します。 ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ 応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。 12/9の9時の投稿で一応完結と致します。 更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。 ありがとうございました!

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

悪役令嬢はヒロインに敵わないのかしら?

こうじゃん
恋愛
わたくし、ローズ・キャンベラは、王宮園遊会で『王子様を巻き込んで池ポチャ』をした。しかも、その衝撃で前世の記憶を思い出した。 甦る膨大な前世の記憶。そうして気づいたのである。  私は今中世を思わせる、魔法有りのダークファンタジー乙女ゲーム『フラワープリンセス~花物語り』の世界に転生した。 ――悪名高き黒き華、ローズ・キャンベルとして。 (小説家になろうに投稿済み)

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

【完結】公爵令嬢は王太子殿下との婚約解消を望む

むとうみつき
恋愛
「お父様、どうかアラン王太子殿下との婚約を解消してください」 ローゼリアは、公爵である父にそう告げる。 「わたくしは王太子殿下に全く信頼されなくなってしまったのです」 その頃王太子のアランは、婚約者である公爵令嬢ローゼリアの悪事の証拠を見つけるため調査を始めた…。 初めての作品です。 どうぞよろしくお願いします。 本編12話、番外編3話、全15話で完結します。 カクヨムにも投稿しています。

処理中です...