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06 余裕
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◇◆◇
私たち二人は地下牢から出るとすぐに、二人寄り添って話し合っていたチャールズとミゼルの元へ向かった。
「なっ!! なんだ!! ナザイレ……その女は地下牢に入れたはずだ!」
「……嘘でしょう」
チャールズはわかりやすいくらいに狼狽しているけれど、目を見開いていたミゼルは不思議と落ち着いた態度だった。
可愛らしいピンク色の髪に水色の瞳、驚くほどに可憐な容姿。チャールズだって、こんなチャーミングな女の子に迫られれば悪い気はしなかったはず。
けれど、そんな外見から似合わないくらいに、落ち着いていて、にっこり微笑み余裕の態度を崩さない。
きっと、今ある優位が揺るがないと思っているのだろう。私だって、そう思っていた。
ーーーーナザイレが地下牢にまで、私を迎えに来てくれるまで。
「ええ。お二方、どうやら誤解があったようです」
大仰に胸に手を当てたナザイレは、私の肩を抱いたままで彼らの元へと向かった。
騎士団長である彼は、途中寄った屯所に居た物々しい装いの部下たちを引き連れていた。
私だって、ここから何が起こるかわからずにドキドキするばかりだ。
「誤解だと? 証拠は全て揃っているんだ。それに、ヴィクトリアだって……」
私が犯人であると見せかけるために用意された証拠なので、今まで話したことも会った事もない面々に、ミゼル殺害を依頼したことになっている。
生き証人だって居たけれど、彼はもう殺されてしまっていた。
「こちらのエインズワース公爵令嬢ヴィクトリア様は、悪い誰かから呪われているようでして、貴方たち二人の事に対し口にすることが出来ないのです。つまり、冤罪についても喋ることが出来ず、釈明なども出来なかったので、誰もに誤解されてしまうことも仕方ないかと……」
予想外のことが起こったので気に入らない様子のチャールズの言葉を遮って、ナザイレは流れるような口上で説明をした。
「……喋れなかった?」
ぽかんとした表情のチャールズの隣に居たミゼルは、うるっと目を潤ませてわかりやすく彼に寄り添った。
「まあっ……怖いわ。ヴィクトリア様って、罠に掛けられてしまったの? かわいそう! 誰なのかしら。そんな悪い事を企んでいるのは……」
「よしよし。ミゼル。大丈夫だ。しかし、ヴィクトリアがミゼルに嫌がらせをした事は間違いない。なので、婚約破棄は妥当だろう」
泣きそうな表情になったミゼルの頭をよしよししつつ、チャールズはナザイレと私を睨みつけた。
「……いえ。少々の嫌がらせで、婚約破棄など……正気ですか。チャールズ殿下。それに、婚約者であるのならば、嫉妬してもおかしくない状況にあると思いますが」
二人の近い距離を見て誰しも思うはずだ。この二人は恋仲にあると……私も周囲の面々も冷めた目で彼らを見ていた。
私たち二人は地下牢から出るとすぐに、二人寄り添って話し合っていたチャールズとミゼルの元へ向かった。
「なっ!! なんだ!! ナザイレ……その女は地下牢に入れたはずだ!」
「……嘘でしょう」
チャールズはわかりやすいくらいに狼狽しているけれど、目を見開いていたミゼルは不思議と落ち着いた態度だった。
可愛らしいピンク色の髪に水色の瞳、驚くほどに可憐な容姿。チャールズだって、こんなチャーミングな女の子に迫られれば悪い気はしなかったはず。
けれど、そんな外見から似合わないくらいに、落ち着いていて、にっこり微笑み余裕の態度を崩さない。
きっと、今ある優位が揺るがないと思っているのだろう。私だって、そう思っていた。
ーーーーナザイレが地下牢にまで、私を迎えに来てくれるまで。
「ええ。お二方、どうやら誤解があったようです」
大仰に胸に手を当てたナザイレは、私の肩を抱いたままで彼らの元へと向かった。
騎士団長である彼は、途中寄った屯所に居た物々しい装いの部下たちを引き連れていた。
私だって、ここから何が起こるかわからずにドキドキするばかりだ。
「誤解だと? 証拠は全て揃っているんだ。それに、ヴィクトリアだって……」
私が犯人であると見せかけるために用意された証拠なので、今まで話したことも会った事もない面々に、ミゼル殺害を依頼したことになっている。
生き証人だって居たけれど、彼はもう殺されてしまっていた。
「こちらのエインズワース公爵令嬢ヴィクトリア様は、悪い誰かから呪われているようでして、貴方たち二人の事に対し口にすることが出来ないのです。つまり、冤罪についても喋ることが出来ず、釈明なども出来なかったので、誰もに誤解されてしまうことも仕方ないかと……」
予想外のことが起こったので気に入らない様子のチャールズの言葉を遮って、ナザイレは流れるような口上で説明をした。
「……喋れなかった?」
ぽかんとした表情のチャールズの隣に居たミゼルは、うるっと目を潤ませてわかりやすく彼に寄り添った。
「まあっ……怖いわ。ヴィクトリア様って、罠に掛けられてしまったの? かわいそう! 誰なのかしら。そんな悪い事を企んでいるのは……」
「よしよし。ミゼル。大丈夫だ。しかし、ヴィクトリアがミゼルに嫌がらせをした事は間違いない。なので、婚約破棄は妥当だろう」
泣きそうな表情になったミゼルの頭をよしよししつつ、チャールズはナザイレと私を睨みつけた。
「……いえ。少々の嫌がらせで、婚約破棄など……正気ですか。チャールズ殿下。それに、婚約者であるのならば、嫉妬してもおかしくない状況にあると思いますが」
二人の近い距離を見て誰しも思うはずだ。この二人は恋仲にあると……私も周囲の面々も冷めた目で彼らを見ていた。
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