死亡フラグ立ち済悪役令嬢ですけど、ここから助かる方法を教えて欲しい。

待鳥園子

文字の大きさ
上 下
5 / 9

05 求婚

しおりを挟む
「わかりました。それでは、僕と結婚しましょう。ヴィクトリア。そうすれば、君の無実の罪を晴らし、必ず幸せにすると誓います」

「……え?」

 私は彼が何を言ったのか、理解出来なかった。結婚? 結婚ですって? 私、処刑寸前の悪役令嬢なのよ。

 思わずぽかんとしてしまった私の反応が意外だったのか、ナザイレは苦笑していた。

「そこはもう、はいと素直に肯定してください。ヴィクトリア。このままだと、明日にでも貴女は処刑されます。チャールズ殿下は他の王族に知られる前に刑を下そうとしています。その謎も、ここで解けました。もし、彼らがヴィクトリアに面会すれば、無実だと暴かれてしまいます」

 それは、その通りだった。けれど、ナザイレはチャールズに意見出来る立場ではないはずだ。

「ですが、ナザイレ。ナザイレには……迷惑をかけられません」

 チャールズは王族で、ナザイレは貴族ではあるけれど、騎士団長で彼に仕える立場なのだ。

 あれほど派手に断罪された私を庇って仕舞えば、ナザイレだって何かしらの方法で陥れられる可能性だってあるかもしれない。

「僕と結婚すれば妻です。我が妻の命を救うのに、迷惑を掛けられたと嫌がる夫が居るでしょうか。どうか返事を。ヴィクトリア」

「ナザイレ」

「これは酷な選択なようですけれど、僕と結婚するか、処刑されてしまうかです。ヴィクトリア」

「それは……ナザイレと結婚したいと望む令嬢は、多いことと思います」

 ナザイレは人気があるし、誰もが認めて間違いないことだ。凛々しく整った容姿に武勇を誇り騎士団長を務め、身分の高い公爵家の跡取り。

 だからこそ、彼の申し出に頷くことには抵抗があった。

 私はもう、王族であるチャールズから婚約破棄されてしまった令嬢で、社交界の評判はもう当の昔に地に落ちていた。

「それは、わかりにくい肯定の返事と取っても?」

「いいえ。貴方に私は相応しくありません」

 私の言葉にナザイレは小さくため息をついた。

「一体、何を心配しているんです。ヴィクトリア。僕はアレイスター公爵家の跡取り。公爵令嬢の貴女とは、身分も釣り合います」

「私は、こんな自分が……ナザイレと釣り合うようには、決して思えません」

 だって、王族に婚約破棄されて、冤罪とはいえ処刑まで決まった女だもの。

 そう言った私に、ナザイレはやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。

「僕が敢えて言うことでもないと思いますけど、救いの手を選り好みしている場合ではないと思います。ヴィクトリア。見たところ、他には誰もいなくて僕の手ひとつのようですし」

 彼につられて周囲を見回しても、カビ臭い地下牢が広がるだけ。

 ……それは、そうだろう。

 もし、ここで生きる事を選ぶのならば、ナザイレの手を取るしかない。これも罠かもしれないけれど、罠でない可能性だってあるのだ。

 死亡フラグは既に立ってしまっているし、この世界で唯一私の事情を知っているのは、目の前のナザイレだけだった。

「私を……助けてくれると?」

 慎重に紡ぎ出された言葉に、ナザイレは胸に手を当てて鷹揚に頷いた。

「僕と結婚してくれるのであれば。未来の公爵夫人の座と、使いきれない程の財産と、申し分のない夫からの惜しみない愛をお約束しましょう」

 ……崖っぷちにあるけれど、悪くない取引のようにも思えた。

「求婚をお受けします。私には選択肢なんて、そもそもないようだから」

 私はゆっくりと立ち上がり、真っ直ぐにナザイレの金色の瞳を見つめた。

 挑戦的とも取れる私の態度にも余裕の表情を浮かべ、牢の鍵を外すと恭しく手を差し伸べた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

悪役王女に転生したのでお兄様達に媚を売る…のはちょっと無理そうなので聖女候補になれるよう頑張ります!

下菊みこと
恋愛
悪役王女が頑張ってみるお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】婚約破棄をして処刑エンドを回避したい悪役令嬢と婚約破棄を阻止したい王子の葛藤

彩伊 
恋愛
乙女ゲームの世界へ転生したら、悪役令嬢になってしまいました。 処刑エンドを回避するべく、王子との婚約の全力破棄を狙っていきます!!! ”ちょっぴりおバカな悪役令嬢”と”素直になれない腹黒王子”の物語 ※再掲 全10話 白丸は悪役令嬢視点 黒丸は王子視点です。

処理中です...