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05 求婚
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「わかりました。それでは、僕と結婚しましょう。ヴィクトリア。そうすれば、君の無実の罪を晴らし、必ず幸せにすると誓います」
「……え?」
私は彼が何を言ったのか、理解出来なかった。結婚? 結婚ですって? 私、処刑寸前の悪役令嬢なのよ。
思わずぽかんとしてしまった私の反応が意外だったのか、ナザイレは苦笑していた。
「そこはもう、はいと素直に肯定してください。ヴィクトリア。このままだと、明日にでも貴女は処刑されます。チャールズ殿下は他の王族に知られる前に刑を下そうとしています。その謎も、ここで解けました。もし、彼らがヴィクトリアに面会すれば、無実だと暴かれてしまいます」
それは、その通りだった。けれど、ナザイレはチャールズに意見出来る立場ではないはずだ。
「ですが、ナザイレ。ナザイレには……迷惑をかけられません」
チャールズは王族で、ナザイレは貴族ではあるけれど、騎士団長で彼に仕える立場なのだ。
あれほど派手に断罪された私を庇って仕舞えば、ナザイレだって何かしらの方法で陥れられる可能性だってあるかもしれない。
「僕と結婚すれば妻です。我が妻の命を救うのに、迷惑を掛けられたと嫌がる夫が居るでしょうか。どうか返事を。ヴィクトリア」
「ナザイレ」
「これは酷な選択なようですけれど、僕と結婚するか、処刑されてしまうかです。ヴィクトリア」
「それは……ナザイレと結婚したいと望む令嬢は、多いことと思います」
ナザイレは人気があるし、誰もが認めて間違いないことだ。凛々しく整った容姿に武勇を誇り騎士団長を務め、身分の高い公爵家の跡取り。
だからこそ、彼の申し出に頷くことには抵抗があった。
私はもう、王族であるチャールズから婚約破棄されてしまった令嬢で、社交界の評判はもう当の昔に地に落ちていた。
「それは、わかりにくい肯定の返事と取っても?」
「いいえ。貴方に私は相応しくありません」
私の言葉にナザイレは小さくため息をついた。
「一体、何を心配しているんです。ヴィクトリア。僕はアレイスター公爵家の跡取り。公爵令嬢の貴女とは、身分も釣り合います」
「私は、こんな自分が……ナザイレと釣り合うようには、決して思えません」
だって、王族に婚約破棄されて、冤罪とはいえ処刑まで決まった女だもの。
そう言った私に、ナザイレはやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。
「僕が敢えて言うことでもないと思いますけど、救いの手を選り好みしている場合ではないと思います。ヴィクトリア。見たところ、他には誰もいなくて僕の手ひとつのようですし」
彼につられて周囲を見回しても、カビ臭い地下牢が広がるだけ。
……それは、そうだろう。
もし、ここで生きる事を選ぶのならば、ナザイレの手を取るしかない。これも罠かもしれないけれど、罠でない可能性だってあるのだ。
死亡フラグは既に立ってしまっているし、この世界で唯一私の事情を知っているのは、目の前のナザイレだけだった。
「私を……助けてくれると?」
慎重に紡ぎ出された言葉に、ナザイレは胸に手を当てて鷹揚に頷いた。
「僕と結婚してくれるのであれば。未来の公爵夫人の座と、使いきれない程の財産と、申し分のない夫からの惜しみない愛をお約束しましょう」
……崖っぷちにあるけれど、悪くない取引のようにも思えた。
「求婚をお受けします。私には選択肢なんて、そもそもないようだから」
私はゆっくりと立ち上がり、真っ直ぐにナザイレの金色の瞳を見つめた。
挑戦的とも取れる私の態度にも余裕の表情を浮かべ、牢の鍵を外すと恭しく手を差し伸べた。
「……え?」
私は彼が何を言ったのか、理解出来なかった。結婚? 結婚ですって? 私、処刑寸前の悪役令嬢なのよ。
思わずぽかんとしてしまった私の反応が意外だったのか、ナザイレは苦笑していた。
「そこはもう、はいと素直に肯定してください。ヴィクトリア。このままだと、明日にでも貴女は処刑されます。チャールズ殿下は他の王族に知られる前に刑を下そうとしています。その謎も、ここで解けました。もし、彼らがヴィクトリアに面会すれば、無実だと暴かれてしまいます」
それは、その通りだった。けれど、ナザイレはチャールズに意見出来る立場ではないはずだ。
「ですが、ナザイレ。ナザイレには……迷惑をかけられません」
チャールズは王族で、ナザイレは貴族ではあるけれど、騎士団長で彼に仕える立場なのだ。
あれほど派手に断罪された私を庇って仕舞えば、ナザイレだって何かしらの方法で陥れられる可能性だってあるかもしれない。
「僕と結婚すれば妻です。我が妻の命を救うのに、迷惑を掛けられたと嫌がる夫が居るでしょうか。どうか返事を。ヴィクトリア」
「ナザイレ」
「これは酷な選択なようですけれど、僕と結婚するか、処刑されてしまうかです。ヴィクトリア」
「それは……ナザイレと結婚したいと望む令嬢は、多いことと思います」
ナザイレは人気があるし、誰もが認めて間違いないことだ。凛々しく整った容姿に武勇を誇り騎士団長を務め、身分の高い公爵家の跡取り。
だからこそ、彼の申し出に頷くことには抵抗があった。
私はもう、王族であるチャールズから婚約破棄されてしまった令嬢で、社交界の評判はもう当の昔に地に落ちていた。
「それは、わかりにくい肯定の返事と取っても?」
「いいえ。貴方に私は相応しくありません」
私の言葉にナザイレは小さくため息をついた。
「一体、何を心配しているんです。ヴィクトリア。僕はアレイスター公爵家の跡取り。公爵令嬢の貴女とは、身分も釣り合います」
「私は、こんな自分が……ナザイレと釣り合うようには、決して思えません」
だって、王族に婚約破棄されて、冤罪とはいえ処刑まで決まった女だもの。
そう言った私に、ナザイレはやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。
「僕が敢えて言うことでもないと思いますけど、救いの手を選り好みしている場合ではないと思います。ヴィクトリア。見たところ、他には誰もいなくて僕の手ひとつのようですし」
彼につられて周囲を見回しても、カビ臭い地下牢が広がるだけ。
……それは、そうだろう。
もし、ここで生きる事を選ぶのならば、ナザイレの手を取るしかない。これも罠かもしれないけれど、罠でない可能性だってあるのだ。
死亡フラグは既に立ってしまっているし、この世界で唯一私の事情を知っているのは、目の前のナザイレだけだった。
「私を……助けてくれると?」
慎重に紡ぎ出された言葉に、ナザイレは胸に手を当てて鷹揚に頷いた。
「僕と結婚してくれるのであれば。未来の公爵夫人の座と、使いきれない程の財産と、申し分のない夫からの惜しみない愛をお約束しましょう」
……崖っぷちにあるけれど、悪くない取引のようにも思えた。
「求婚をお受けします。私には選択肢なんて、そもそもないようだから」
私はゆっくりと立ち上がり、真っ直ぐにナザイレの金色の瞳を見つめた。
挑戦的とも取れる私の態度にも余裕の表情を浮かべ、牢の鍵を外すと恭しく手を差し伸べた。
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