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03 声
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「声が出せないんですね?」
確認するかのようなナザイレに、私は小さくため息をして紙に書いた。
『ええ』
罪を逃れたくば申し開きをしてみろと嘲られた容疑者は、どんな言い訳をしたくとも声が出なかった。
ミゼルの仕業だとわかっていた。けれど、私にはそれを訴える手段は奪われていた。
「何故……もしかして、喉を潰されたのですか?」
ナザイレは無表情だったけれど、何故か私は彼の目の中に恐ろしいほどの暗闇が見えた気がした。
何かしら……気のせいよね。ナザイレは、何の関係もないのに。
私は首を横に振った。そうではない。私はあの二人に関すること以外は、私は声を出すことが出来る。
だから、申し開きをしてみろと問われれば、何も言えなかっただけで。
『いいえ。私はチャールズとミゼルに関すること以外は、声を出すことが出来るのです。だから、これまでのナザイレの問いには、答えられなかったのです』
「……」
紙に書かれた私の文字を、ナザイレは何も言わずにじっと見つめていた。
なんと哀れな女だと、そう思ったのかもしれない。けれど、一人くらい私の本当のことを知ってくれていても良いのかもしれない。
『私の住む寮の使用人たちは、気が付けば入れ替わっていました。学園の友人たちは、いつの頃か私を避け始めました。外部に手紙を出しても、返事は来ない……恐らく、これは何かの魔術めいたものが関係しているのだと思います』
実はこのナザイレにだって、私は手紙を出した。『助けて』と。
けれど、この様子を見ればナザイレは何も知らなかったようだ。卒業式での衝撃の断罪を知り、一時だけでも知り合いだったからと駆けつけてくれたのだろう。
「全て理解しました……あの二人のこと以外なら、声を出せるんですね。ヴィクトリア」
私は戸惑いつつ、ナザイレの問いに頷いた。
彼は無表情だった。薄暗い地下で黒い前髪は目にかかり、どこか影を感じさせた。
一体、どうしたのかしら。ナザイレはもっと明るかった気がするけれど……。
確認するかのようなナザイレに、私は小さくため息をして紙に書いた。
『ええ』
罪を逃れたくば申し開きをしてみろと嘲られた容疑者は、どんな言い訳をしたくとも声が出なかった。
ミゼルの仕業だとわかっていた。けれど、私にはそれを訴える手段は奪われていた。
「何故……もしかして、喉を潰されたのですか?」
ナザイレは無表情だったけれど、何故か私は彼の目の中に恐ろしいほどの暗闇が見えた気がした。
何かしら……気のせいよね。ナザイレは、何の関係もないのに。
私は首を横に振った。そうではない。私はあの二人に関すること以外は、私は声を出すことが出来る。
だから、申し開きをしてみろと問われれば、何も言えなかっただけで。
『いいえ。私はチャールズとミゼルに関すること以外は、声を出すことが出来るのです。だから、これまでのナザイレの問いには、答えられなかったのです』
「……」
紙に書かれた私の文字を、ナザイレは何も言わずにじっと見つめていた。
なんと哀れな女だと、そう思ったのかもしれない。けれど、一人くらい私の本当のことを知ってくれていても良いのかもしれない。
『私の住む寮の使用人たちは、気が付けば入れ替わっていました。学園の友人たちは、いつの頃か私を避け始めました。外部に手紙を出しても、返事は来ない……恐らく、これは何かの魔術めいたものが関係しているのだと思います』
実はこのナザイレにだって、私は手紙を出した。『助けて』と。
けれど、この様子を見ればナザイレは何も知らなかったようだ。卒業式での衝撃の断罪を知り、一時だけでも知り合いだったからと駆けつけてくれたのだろう。
「全て理解しました……あの二人のこと以外なら、声を出せるんですね。ヴィクトリア」
私は戸惑いつつ、ナザイレの問いに頷いた。
彼は無表情だった。薄暗い地下で黒い前髪は目にかかり、どこか影を感じさせた。
一体、どうしたのかしら。ナザイレはもっと明るかった気がするけれど……。
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