死亡フラグ立ち済悪役令嬢ですけど、ここから助かる方法を教えて欲しい。

待鳥園子

文字の大きさ
上 下
2 / 9

02 地下牢

しおりを挟む
◇◆◇



 城の地下にある牢は、衛生状況は良くなかった。湿っぽくてカビ臭かった。

 こんな場所に場違いな私のドレスの生地が、ゆらゆらと揺れる蝋燭の光を受けて艶めく。

 四方を囲む鉄格子は当然だけど金属製で頑丈で、それを破っての脱獄なんて考えるだけ時間の無駄になりそう。

 駄目だわ……これではもう、私は殺されてしまうのを待つだけなのね。

 男爵令嬢ミゼルはチャールズからの寵愛を良いことに、身分の高い公爵令嬢の私の立場が悪くなるように動いていた。

 贅沢をして我儘だから自分に対しても非情に接し、不当な圧力を掛けられたり嫌がらせをしてもおかしくないという印象を植えつけた。

 そんな状況にあるとは知らずに、私はのほほんと学園生活を暮らし、何の対抗策も取ることなく、処刑されて死んでしまうことになる。

「ヴィクトリア様……」

「……ナザイレ?」

 死を覚悟した私の前に現れたのは、騎士団長ナザイレ・アレイスターだった。長めの前髪がある黒髪に金目、鋭利と言える程に冴えざえとした鋭い眼差し。凛々しく整った容貌だけれど、華やかなチャールズとは違いどこか憂いを帯びた表情。

 私は彼とは一時期親しかった程度だけれど、ナザイレは実は乙女ゲームの攻略対象者なのだ。

 何度かナザイレと話しているところを目撃した婚約者チャールズより私に近寄るなと命じられ、それからは疎遠になり挨拶を交わすこともしなくなった。

 今思うと、自分はミゼルと親しくいたことは棚上げしておいて……いいえ。

 私はミゼルを殺そうとした罪で処刑されてしまうのだから……何もかももう、今更だわ。

「……ミゼルを殺そうとしたとか」

 淡々とした口調のナザイレの言葉に無反応で居ることは出来ずに、私は首を横に振った。

 ナザイレは不思議そうだった。私が何も言わない理由がわかったのかもしれない。

「……ヴィクトリア。もしかして、声が?」

 眉を顰めたナザイレはそう言い、私はここで彼を巻き込むべきか迷った。けれど、もうここまで来てしまえば同じことだった。

 静かに頷いた私を見て、ナザイレは顔を歪めた。

「何もかも、おかしいと思いました」

 一度その場から駆け去り、牢番から紙とペンを借りてきたナザイレは私にそれを渡した。

 以前に親しかった時と変わらない、曇りのない綺麗な金色の目だ。ここ一年ほど鏡の中にあった、私の諦めきった青い目とは違う。

――――彼がこれに気がついてくれるのが、もう少し、早かったなら。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

そのハッピーエンドに物申します!

あや乃
恋愛
社畜OLだった私は過労死後、ガチ恋相手のいる乙女ゲームに推しキャラ、悪役令嬢として異世界転生した。 でも何だか様子が変……何と私が前世を思い出したのは大好きな第一王子が断罪されるざまあの真っ最中!  そんなことはさせない! ここから私がざまあをひっくり返して見せる!  と、転生ほやほやの悪役令嬢が奮闘する(でも裏では王子も相当頑張っていた)お話。 ※「小説家になろう」さまにも掲載中 初投稿作品です。よろしくお願いします!

婚約破棄の、その後は

冬野月子
恋愛
ここが前世で遊んだ乙女ゲームの世界だと思い出したのは、婚約破棄された時だった。 身体も心も傷ついたルーチェは国を出て行くが… 全九話。 「小説家になろう」にも掲載しています。

悪役令嬢は天然

西楓
恋愛
死んだと思ったら乙女ゲームの悪役令嬢に転生⁉︎転生したがゲームの存在を知らず天然に振る舞う悪役令嬢に対し、ゲームだと知っているヒロインは…

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

悪役令息の婚約者になりまして

どくりんご
恋愛
 婚約者に出逢って一秒。  前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。  その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。  彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。  この思い、どうすれば良いの?

えっ、これってバッドエンドですか!?

黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。 卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。 あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!? しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・? よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。

処理中です...