上 下
5 / 9

05 任せて

しおりを挟む
「ねえ。もしかして……慣れてるの?」

 私はノエルにそれを聞いてから、後悔した。今付き合うばかりになった人のそういった過去を知って、何になると言うのだろうか。

 敢えて言うなら、ノエルの過去の女関係なんて知りたくもない。やきもちを妬いてしまうこと請け合いだから。

 ノエルは苦笑して泡の中にある私の手を手探りで掴むと、自分の心臓の上へと導いた。ドクドクと言う力強い鼓動。彼が今生きているという証拠。

「そんなことないよ。ほら。ミフユと一緒に居ると、こんなにドキドキしてる……な?」

 不安そうにみえたのか私を安心させるように、ゆっくりとした速度でノエルは言った。安心する。温かい人肌。私が今まで知らなかったぬくもり。

「……ほんとだ。生きてるね」

「生きてるよ」

 私は気取ってホテルの用意したシャンパンも飲んでいたしあり得ない事態に気持ちは昂っていて、その時に思わず声を出して笑ってしまった。

「……触る? 先にミフユが俺を触ってよ。安心して。動かないようにするから」

 どうぞと言わんばかりにノエルが両腕を開いたので、私はそろりと近づいた……なんでだろう。彼から感じる、この妙な安心感は。

 ノエルに触れていると、なんだかすごく安心する。

「あったかい」

「……まあ、風呂に入ってるしな」

 ゆっくりと筋肉の張り出した胸を触って、太い腕を触る。続けてノエルの頬を触ると、彼はくすぐったそうな顔を見せた。

「カッコ良いね」

 どんな表情も様になっていて、とっても素敵な人。私はノエルの顔を見て自然と出てきた感想を言っただけなんだけど、彼は目を細めて揶揄うように頷いた。

「良く言われる」

「……言うんじゃなかった」

 ナルシストっていうんでもなく、ノエルはあくまで自然体。

 これまで数を数えきれないほどに、私ではない女性に言われてきたんだろうなって思ってしまった。

 だから、若干イラッとしてしまった。出会ってもいない過去なのに。彼は何も悪くないのに。

「どうして。ミフユに褒められて、嬉しかった」

 ノエルは、顔が赤くなっているように見える。さっき服を脱いだ時に、濡れた服が薄紫色の髪を濡らして、やけに色っぽい。

「……私のことも触って。ノエル。どうして良いか、わからないの」

 そうだ。彼の体をペタペタと触ったけど、これからどうすれば良いのかわからない。

 この先を知っていれば、自然とそういう動きが出来るのかもしれないけど、全くわからないから仕方ない。初心者すぎて、未知すぎる。

「……うん。わかった。俺に任せて」

 ノエルは慎重に私の腰に手を置いて、自分の方へと引き寄せた。滑らかな人肌、体を取り巻く泡風呂の濃密な白い泡を押し除けるように、彼は私の体をなぞった。

「ふあっ……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

洞窟ダンジョン体験ツアー案内人役のイケメン冒険者に、ラッキースケベを連発してしまった私が患う恋の病。

待鳥園子
恋愛
人気のダンジョン冒険ツアーに参加してきたけど、案内人のイケメン冒険者にラッキースケベを連発してしまった。けど、もう一度彼に会いたいと冒険者ギルド前で待ち伏せしたら、思いもよらぬことになった話。

騎士団長の幼なじみ

入海月子
恋愛
マールは伯爵令嬢。幼なじみの騎士団長のラディアンのことが好き。10歳上の彼はマールのことをかわいがってはくれるけど、異性とは考えてないようで、マールはいつまでも子ども扱い。 あれこれ誘惑してみるものの、笑ってかわされる。 ある日、マールに縁談が来て……。 歳の差、体格差、身分差を書いてみたかったのです。王道のつもりです。

どうぞ、お好きに

蜜柑マル
恋愛
私は今日、この家を出る。記憶を失ったフリをして。 ※ 再掲です。ご都合主義です。許せる方だけお読みください。

筋書きどおりに婚約破棄したのですが、想定外の事態に巻き込まれています。

一花カナウ
恋愛
第二王子のヨハネスと婚約が決まったとき、私はこの世界が前世で愛読していた物語の世界であることに気づく。 そして、この婚約がのちに解消されることも思い出していた。 ヨハネスは優しくていい人であるが、私にはもったいない人物。 慕ってはいても恋には至らなかった。 やがて、婚約破棄のシーンが訪れる。 私はヨハネスと別れを告げて、新たな人生を歩みだす ――はずだったのに、ちょっと待って、ここはどこですかっ⁉︎ しかも、ベッドに鎖で繋がれているんですけどっ⁉︎ 困惑する私の前に現れたのは、意外な人物で…… えっと、あなたは助けにきたわけじゃなくて、犯人ってことですよね? ※ムーンライトノベルズで公開中の同名の作品に加筆修正(微調整?)したものをこちらで掲載しています。 ※pixivにも掲載。 8/29 15時台HOTランキング 5位、恋愛カテゴリー3位ありがとうございます( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)

愛の重めな黒騎士様に猛愛されて今日も幸せです~追放令嬢はあたたかな檻の中~

二階堂まや
恋愛
令嬢オフェリアはラティスラの第二王子ユリウスと恋仲にあったが、悪事を告発された後婚約破棄を言い渡される。 国外追放となった彼女は、監視のためリアードの王太子サルヴァドールに嫁ぐこととなる。予想に反して、結婚後の生活は幸せなものであった。 そしてある日の昼下がり、サルヴァドールに''昼寝''に誘われ、オフェリアは寝室に向かう。激しく愛された後に彼女は眠りに落ちるが、サルヴァドールは密かにオフェリアに対して、狂おしい程の想いを募らせていた。

「君と勝手に結婚させられたから愛する人に気持ちを告げることもできなかった」と旦那様がおっしゃったので「愛する方とご自由に」と言い返した

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
デュレー商会のマレクと結婚したキヴィ子爵令嬢のユリアであるが、彼との関係は冷めきっていた。初夜の日、彼はユリアを一瞥しただけで部屋を出ていき、それ以降も彼女を抱こうとはしなかった。 ある日、酒を飲んで酔っ払って帰宅したマレクは「君と勝手に結婚させられたから、愛する人に気持ちを告げることもできなかったんだ。この気持ちが君にはわかるか」とユリアに言い放つ。だからユリアも「私は身を引きますので、愛する方とご自由に」と言い返すのだが―― ※10000字前後の短いお話です。

鉄壁騎士様は奥様が好きすぎる~彼の素顔は元聖女候補のガチファンでした~

二階堂まや
恋愛
令嬢エミリアは、王太子の花嫁選び━━通称聖女選びに敗れた後、家族の勧めにより王立騎士団長ヴァルタと結婚することとなる。しかし、エミリアは無愛想でどこか冷たい彼のことが苦手であった。結婚後の初夜も呆気なく終わってしまう。 ヴァルタは仕事面では優秀であるものの、縁談を断り続けていたが故、陰で''鉄壁''と呼ばれ女嫌いとすら噂されていた。 しかし彼は、戦争の最中エミリアに助けられており、再会すべく彼女を探していた不器用なただの追っかけだったのだ。内心気にかけていた存在である''彼''がヴァルタだと知り、エミリアは彼との再会を喜ぶ。 そして互いに想いが通じ合った二人は、''三度目''の夜を共にするのだった……。

処理中です...