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17 変更希望(Side Leonardo)②
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とは言え、マリアローゼについては、これで終わりだろう。
国王と王妃が犯罪行為を知っているのであれば、彼らは王家の中に犯罪者が入ることを望まないはずだ。
……いや、敢えて言うと犯罪を犯したとしても、すぐに人に知られてしまうような無能な人間と言うべきか。いかな強大な魔物でも、手足が腐れば全身にまわる。判断を誤れば王家が危なくなると判断されるだろう。
切り捨てられるならば、時は早いはずだ。曖昧な婚約解消かはっきりとした婚約破棄か、いずれにしても、あの女にはあまり良くない未来が待っていそうだ。
だとするならば、黙ってそれを見守るのも一興なのかもしれない。マリアローゼは元から好きではないが、今回のことで常軌を逸した女であることが証明された。
何もかも約束された輝かしい未来を、ほんの一時の感情で、全て台無しにして底にまで落ちていく女。
マリアローゼは婚約者ジョヴァンニに関わる女を脅しつけては、彼を困らせていた。
異性と話しただけで婚約者にそれをされると思えば、我が事でなかったとしても、その時に何を思ってしまうか容易に想像がつく。
うんざりでもういい加減にしてくれと、ジョヴァンニは常に思っていたはずだ。
マリアローゼが階段から突き落とすまでに激昂したのはリンゼイだけだが、婚約者に近付く女に嫉妬したとしても、誰かを階段から落として殺して良い訳でもない。
ジョヴァンニと信頼し合える婚約者になる努力はしない癖に、マリアローゼはそういった無駄な動きだけは事欠かなかった。
そういえば、ジョヴァンニ自身は婚約者マリアローゼについて、どう思っているか、これまでに聞いたことはなかった。
「お前はマリアローゼのことは、それで良いのか」
「……それについては、僕は語ることは許されていない。レオ。僕が結婚するのは王妃になれるご令嬢ならば、誰だって良いんだよ。あの、リンゼイだってね」
「いや。リンゼイは、駄目だろう」
リンゼイは王族の血筋にたまに現れる珍しい聖魔力を持っているので、王族と結婚しても許されるかもしれない。
……これはあくまで、仮定の話だ。二人が結婚したいと望むならそうなるかもしれない程度の可能性の。
「ごめんごめん。これって、ほんの軽い冗談だよ。レオ……その……僕の心臓の上に当てた切れ味良さそうなナイフを、仕舞ってくれる? 本当に悪かったって……」
「何か刃先に……?」
ナイフに固い物に当たったので、ジョヴァンニに視線を向けると彼は苦笑した。
「懐中時計で……頂き物なんだよ」
これを誰に貰ったか言えないと咄嗟に思ったのか、胸ポケットから懐中時計を取り出したジョヴァンニは、素知らぬ顔でそう言って肩を竦めた。
王族が使うには……あまりにも、簡素な作りのような気がする。
無言で俺がポケットから同じ物を取り出すと、ジョヴァンニは何もかも悟ったようにして、ため息をついた。
「これは、リンゼイは……僕には相談に乗ってくれたお礼なんだと言ってくれた。あの子に悪気はないんだよ?」
「知ってる」
きっと、気に入った物を見つけたから、お世話になったジョヴァンニにもこれを贈ろうと思ったのだろう。
なんとなく、リンゼイが何を思ったのか想像がつく。
何の悪意もないのだろう。ジョヴァンニと俺が、同じように喜ぶだろうと思って。
しかし、ジョヴァンニと同じ懐中時計……一年に一度の誕生祝いなのに。
これを嫌だと思ってしまう心の変遷を、あの子にどうやって説明すれば良いんだ。リンゼイの思考回路がだんだんとわかり出しただけに気が遠くなる。
複雑な思いにはなるものの、そういった難しいところのあるリンゼイでないと、俺はここまで好きにはなっていないかもしれないので、それを吐き出すように無言でため息をついた。
「……レオ。これから、なんだか大変だね」
ジョヴァンニは別に揶揄うでもなく、素直にそう思ったようだった。
「……俺も、そう思う。けど、仕方ないだろう」
こういう難しい女の子だとわかっていて好きになっているので、覚悟を決めるしかない。
恋愛下手というか、人の気持ちを読むのが壊滅的に下手な女の子を好きになってしまったという紛れもない事実を噛み締めつつ、俺は大きくため息をついた。
多分、そんなリンゼイと付き合えば、これから何をどうすれば良いか迷うような……そういう簡単ではない彼女を、攻略したくなってしまったのだから仕方ない。
Fin
国王と王妃が犯罪行為を知っているのであれば、彼らは王家の中に犯罪者が入ることを望まないはずだ。
……いや、敢えて言うと犯罪を犯したとしても、すぐに人に知られてしまうような無能な人間と言うべきか。いかな強大な魔物でも、手足が腐れば全身にまわる。判断を誤れば王家が危なくなると判断されるだろう。
切り捨てられるならば、時は早いはずだ。曖昧な婚約解消かはっきりとした婚約破棄か、いずれにしても、あの女にはあまり良くない未来が待っていそうだ。
だとするならば、黙ってそれを見守るのも一興なのかもしれない。マリアローゼは元から好きではないが、今回のことで常軌を逸した女であることが証明された。
何もかも約束された輝かしい未来を、ほんの一時の感情で、全て台無しにして底にまで落ちていく女。
マリアローゼは婚約者ジョヴァンニに関わる女を脅しつけては、彼を困らせていた。
異性と話しただけで婚約者にそれをされると思えば、我が事でなかったとしても、その時に何を思ってしまうか容易に想像がつく。
うんざりでもういい加減にしてくれと、ジョヴァンニは常に思っていたはずだ。
マリアローゼが階段から突き落とすまでに激昂したのはリンゼイだけだが、婚約者に近付く女に嫉妬したとしても、誰かを階段から落として殺して良い訳でもない。
ジョヴァンニと信頼し合える婚約者になる努力はしない癖に、マリアローゼはそういった無駄な動きだけは事欠かなかった。
そういえば、ジョヴァンニ自身は婚約者マリアローゼについて、どう思っているか、これまでに聞いたことはなかった。
「お前はマリアローゼのことは、それで良いのか」
「……それについては、僕は語ることは許されていない。レオ。僕が結婚するのは王妃になれるご令嬢ならば、誰だって良いんだよ。あの、リンゼイだってね」
「いや。リンゼイは、駄目だろう」
リンゼイは王族の血筋にたまに現れる珍しい聖魔力を持っているので、王族と結婚しても許されるかもしれない。
……これはあくまで、仮定の話だ。二人が結婚したいと望むならそうなるかもしれない程度の可能性の。
「ごめんごめん。これって、ほんの軽い冗談だよ。レオ……その……僕の心臓の上に当てた切れ味良さそうなナイフを、仕舞ってくれる? 本当に悪かったって……」
「何か刃先に……?」
ナイフに固い物に当たったので、ジョヴァンニに視線を向けると彼は苦笑した。
「懐中時計で……頂き物なんだよ」
これを誰に貰ったか言えないと咄嗟に思ったのか、胸ポケットから懐中時計を取り出したジョヴァンニは、素知らぬ顔でそう言って肩を竦めた。
王族が使うには……あまりにも、簡素な作りのような気がする。
無言で俺がポケットから同じ物を取り出すと、ジョヴァンニは何もかも悟ったようにして、ため息をついた。
「これは、リンゼイは……僕には相談に乗ってくれたお礼なんだと言ってくれた。あの子に悪気はないんだよ?」
「知ってる」
きっと、気に入った物を見つけたから、お世話になったジョヴァンニにもこれを贈ろうと思ったのだろう。
なんとなく、リンゼイが何を思ったのか想像がつく。
何の悪意もないのだろう。ジョヴァンニと俺が、同じように喜ぶだろうと思って。
しかし、ジョヴァンニと同じ懐中時計……一年に一度の誕生祝いなのに。
これを嫌だと思ってしまう心の変遷を、あの子にどうやって説明すれば良いんだ。リンゼイの思考回路がだんだんとわかり出しただけに気が遠くなる。
複雑な思いにはなるものの、そういった難しいところのあるリンゼイでないと、俺はここまで好きにはなっていないかもしれないので、それを吐き出すように無言でため息をついた。
「……レオ。これから、なんだか大変だね」
ジョヴァンニは別に揶揄うでもなく、素直にそう思ったようだった。
「……俺も、そう思う。けど、仕方ないだろう」
こういう難しい女の子だとわかっていて好きになっているので、覚悟を決めるしかない。
恋愛下手というか、人の気持ちを読むのが壊滅的に下手な女の子を好きになってしまったという紛れもない事実を噛み締めつつ、俺は大きくため息をついた。
多分、そんなリンゼイと付き合えば、これから何をどうすれば良いか迷うような……そういう簡単ではない彼女を、攻略したくなってしまったのだから仕方ない。
Fin
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