上 下
16 / 17

16 変更希望(Side Leonardo)①

しおりを挟む
「……ご協力、ありがとう」

「いえいえ。どういたしまして。レオ。良かったね」

 偶然廊下で会ったジョヴァンニにこの前の礼をしたら、にやにやと微笑んで近づくと腕で小突いてきた。

 王太子ジョヴァンニと仲が良いかと言われると、割と良い方だった。彼は見かけや身分によらず、堅苦しいものを好まない。

 つまり、生粋の貴族があまり好きではないようだ。

 ……王族なのに、変わった奴だ。

「ジョヴァンニのおかげで……全て、上手くいった」

 ついこの前に誕生日の夜に何が起こったかと言うならば、それに集約される。

 何もかも知っているジョヴァンニには、それだけを言えばわかって貰えるのに十分だった。

「それにしても、大掛かりな芝居だったよ。別にリンゼイに告白させなくても、自分から好きなんだと言えばよかったのにさ」

「俺から告白すると、色々と不都合が出てくるだろ」

 そうするしかなかった理由をわかってる癖にと睨めば、ジョヴァンニは大袈裟な仕草で胸に手を当てた。

「そうだね。自信満々で恋愛相談を受けておいて、まさか『俺の事、好き?』なんて、相手が何も言っていないと言うのに、恥ずかしくて聞けないのは僕も理解出来るよ」

 にやにやと揶揄うように笑い、俺はそれを聞いても肩を竦めるしかなかった。

「……いや、向こうが好きと言えないと言うなら、言わせてあげるしかないだろう」

 リンゼイとの関係の始まりはジョヴァンニに話しかけたそうなところを見て、なんだか色々と下手過ぎて不器用す過ぎて可哀想だし、会話が出来る程度の関係になるまで世話してやるかと軽い気持ちだった。

 何度も会ううちのリンゼイに惹かれるまでに、そう多くの時間は要らなかった。

「そのために長いこと耐えたね。食堂の時には、色々我慢出来ずに、何か言い出しそうだったのに」

「ああ。正直に言うとジョヴァンニを殺そうかと思ったことは、これまで何度かあるな」

 俺がジョヴァンニに視線を向けると、わざとらしく渋い表情になった。

「おいおい。レオがそれ言うと、全く洒落になってないよ。やめてくれよ。僕は言われた通りに動いていたし、常に二人の味方だっただろう?」

 ……そうだったかもしれないし、そうではないかもしれない。だが、結果的にはすべては上手くいっている。

「……これに相応しい礼はするよ。ジョヴァンニ」

「レオに恩が売れるなんて、あまりない機会だから、僕は楽しかったよ。誕生日まで引っ張った理由は、リンゼイのドレス姿でわかったからね。君からの独占欲が溢れていて……」

「どこかの誰かが邪魔しなければ、我が邸の月の見えるバルコニーで、告白が書かれた手紙入りの贈り物を受け取っていたんだよ。リンゼイはそういうシチュエーションが、好きそうだったから……」

「……レオは本当に、リンゼイの事が好きなんだね。確かにあの子は喜びそうだ」

 理解があると感心したように言ったジョヴァンニに、ここで気になっていたことを思い出したので聞くことにした。

「マリアローゼは、どうする?」

 俺がジョヴァンニに次に会えたら聞きたかったのは、これだ。処罰が下されないのであれば、個人的に手を下すしかない。

 何の罪もないリンゼイを、あの自分勝手な女は殺しかけたのだ。

「ああ……将来のフォンタナ公爵夫人を殺しかけたからね。立派な殺人未遂だ。父母もこの事は知っている」

 その時に微笑んだジョヴァンニには、何の感情が見えなかった。嬉しいのか悲しいのか、寂しいのか。

 色で例えるならば、無色だ。

 幼い頃から決められていた婚約者マリアローゼはもうすぐ、彼の婚約者ではなくなると言うのに。

 ジョヴァンニは神から特別に愛されたのか、何もかも与えられた王位を約束された王太子であるのに、性格は温厚で優しく礼儀正しく公平で……彼と話していると、俺はたまに思う。

 そんな完璧な人間が、本当に存在しているのだろうかと。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

【完結】みそっかす転生王女の婚活

佐倉えび
恋愛
私は幼い頃の言動から変わり者と蔑まれ、他国からも自国からも結婚の申し込みのない、みそっかす王女と呼ばれている。旨味のない小国の第二王女であり、見目もイマイチな上にすでに十九歳という王女としては行き遅れ。残り物感が半端ない。自分のことながらペットショップで売れ残っている仔犬という名の成犬を見たときのような気分になる。 兄はそんな私を厄介払いとばかりに嫁がせようと、今日も婚活パーティーを主催する(適当に) もう、この国での婚活なんて無理じゃないのかと思い始めたとき、私の目の前に現れたのは―― ※小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

この異世界転生の結末は

冬野月子
恋愛
五歳の時に乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したと気付いたアンジェリーヌ。 一体、自分に待ち受けているのはどんな結末なのだろう? ※「小説家になろう」にも投稿しています。

気だるげの公爵令息が変わった理由。

三月べに
恋愛
 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したリーンティア。王子の婚約者にはまだなっていない。避けたいけれど、貴族の義務だから縁談は避けきれないと、一応見合いのお茶会に参加し続けた。乙女ゲーのシナリオでは、その見合いお茶会の中で、王子に恋をしたから父に強くお願いして、王家も承諾して成立した婚約だったはず。  王子以外に婚約者を選ぶかどうかはさておき、他の見合い相手を見極めておこう。相性次第でしょ。  そう思っていた私の本日の見合い相手は、気だるげの公爵令息。面倒くさがり屋の無気力なキャラクターは、子どもの頃からもう気だるげだったのか。 「生きる楽しみを教えてくれ」  ドンと言い放つ少年に、何があったかと尋ねたくなった。別に暗い過去なかったよね、このキャラ。 「あなたのことは知らないので、私が楽しいと思った日々のことを挙げてみますね」  つらつらと楽しみを挙げたら、ぐったりした様子の公爵令息は、目を輝かせた。  そんな彼と、婚約が確定。彼も、変わった。私の隣に立てば、生き生きした笑みを浮かべる。  学園に入って、乙女ゲーのヒロインが立ちはだかった。 「アンタも転生者でしょ! ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」  知っちゃこっちゃない。スルーしたが、腕を掴まれた。 「無視してんじゃないわよ!」 「頭をおかしくしたように喚く知らない人を見て見ぬふりしたいのは当然では」 「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息があんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」  そんなことで今更軌道修正するわけがなかろう……頭おかしい人だな、怖い。 「婚約破棄? ふざけるな。王子の婚約者になれって言うのも不敬罪だ」  ふわっと抱き上げてくれたのは、婚約者の公爵令息イサークだった。 (なろうにも、掲載)

【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?

うり北 うりこ@ざまされ書籍化決定
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。 これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは? 命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。

処理中です...