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16 変更希望(Side Leonardo)①
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「……ご協力、ありがとう」
「いえいえ。どういたしまして。レオ。良かったね」
偶然廊下で会ったジョヴァンニにこの前の礼をしたら、にやにやと微笑んで近づくと腕で小突いてきた。
王太子ジョヴァンニと仲が良いかと言われると、割と良い方だった。彼は見かけや身分によらず、堅苦しいものを好まない。
つまり、生粋の貴族があまり好きではないようだ。
……王族なのに、変わった奴だ。
「ジョヴァンニのおかげで……全て、上手くいった」
ついこの前に誕生日の夜に何が起こったかと言うならば、それに集約される。
何もかも知っているジョヴァンニには、それだけを言えばわかって貰えるのに十分だった。
「それにしても、大掛かりな芝居だったよ。別にリンゼイに告白させなくても、自分から好きなんだと言えばよかったのにさ」
「俺から告白すると、色々と不都合が出てくるだろ」
そうするしかなかった理由をわかってる癖にと睨めば、ジョヴァンニは大袈裟な仕草で胸に手を当てた。
「そうだね。自信満々で恋愛相談を受けておいて、まさか『俺の事、好き?』なんて、相手が何も言っていないと言うのに、恥ずかしくて聞けないのは僕も理解出来るよ」
にやにやと揶揄うように笑い、俺はそれを聞いても肩を竦めるしかなかった。
「……いや、向こうが好きと言えないと言うなら、言わせてあげるしかないだろう」
リンゼイとの関係の始まりはジョヴァンニに話しかけたそうなところを見て、なんだか色々と下手過ぎて不器用す過ぎて可哀想だし、会話が出来る程度の関係になるまで世話してやるかと軽い気持ちだった。
何度も会ううちのリンゼイに惹かれるまでに、そう多くの時間は要らなかった。
「そのために長いこと耐えたね。食堂の時には、色々我慢出来ずに、何か言い出しそうだったのに」
「ああ。正直に言うとジョヴァンニを殺そうかと思ったことは、これまで何度かあるな」
俺がジョヴァンニに視線を向けると、わざとらしく渋い表情になった。
「おいおい。レオがそれ言うと、全く洒落になってないよ。やめてくれよ。僕は言われた通りに動いていたし、常に二人の味方だっただろう?」
……そうだったかもしれないし、そうではないかもしれない。だが、結果的にはすべては上手くいっている。
「……これに相応しい礼はするよ。ジョヴァンニ」
「レオに恩が売れるなんて、あまりない機会だから、僕は楽しかったよ。誕生日まで引っ張った理由は、リンゼイのドレス姿でわかったからね。君からの独占欲が溢れていて……」
「どこかの誰かが邪魔しなければ、我が邸の月の見えるバルコニーで、告白が書かれた手紙入りの贈り物を受け取っていたんだよ。リンゼイはそういうシチュエーションが、好きそうだったから……」
「……レオは本当に、リンゼイの事が好きなんだね。確かにあの子は喜びそうだ」
理解があると感心したように言ったジョヴァンニに、ここで気になっていたことを思い出したので聞くことにした。
「マリアローゼは、どうする?」
俺がジョヴァンニに次に会えたら聞きたかったのは、これだ。処罰が下されないのであれば、個人的に手を下すしかない。
何の罪もないリンゼイを、あの自分勝手な女は殺しかけたのだ。
「ああ……将来のフォンタナ公爵夫人を殺しかけたからね。立派な殺人未遂だ。父母もこの事は知っている」
その時に微笑んだジョヴァンニには、何の感情が見えなかった。嬉しいのか悲しいのか、寂しいのか。
色で例えるならば、無色だ。
幼い頃から決められていた婚約者マリアローゼはもうすぐ、彼の婚約者ではなくなると言うのに。
ジョヴァンニは神から特別に愛されたのか、何もかも与えられた王位を約束された王太子であるのに、性格は温厚で優しく礼儀正しく公平で……彼と話していると、俺はたまに思う。
そんな完璧な人間が、本当に存在しているのだろうかと。
「いえいえ。どういたしまして。レオ。良かったね」
偶然廊下で会ったジョヴァンニにこの前の礼をしたら、にやにやと微笑んで近づくと腕で小突いてきた。
王太子ジョヴァンニと仲が良いかと言われると、割と良い方だった。彼は見かけや身分によらず、堅苦しいものを好まない。
つまり、生粋の貴族があまり好きではないようだ。
……王族なのに、変わった奴だ。
「ジョヴァンニのおかげで……全て、上手くいった」
ついこの前に誕生日の夜に何が起こったかと言うならば、それに集約される。
何もかも知っているジョヴァンニには、それだけを言えばわかって貰えるのに十分だった。
「それにしても、大掛かりな芝居だったよ。別にリンゼイに告白させなくても、自分から好きなんだと言えばよかったのにさ」
「俺から告白すると、色々と不都合が出てくるだろ」
そうするしかなかった理由をわかってる癖にと睨めば、ジョヴァンニは大袈裟な仕草で胸に手を当てた。
「そうだね。自信満々で恋愛相談を受けておいて、まさか『俺の事、好き?』なんて、相手が何も言っていないと言うのに、恥ずかしくて聞けないのは僕も理解出来るよ」
にやにやと揶揄うように笑い、俺はそれを聞いても肩を竦めるしかなかった。
「……いや、向こうが好きと言えないと言うなら、言わせてあげるしかないだろう」
リンゼイとの関係の始まりはジョヴァンニに話しかけたそうなところを見て、なんだか色々と下手過ぎて不器用す過ぎて可哀想だし、会話が出来る程度の関係になるまで世話してやるかと軽い気持ちだった。
何度も会ううちのリンゼイに惹かれるまでに、そう多くの時間は要らなかった。
「そのために長いこと耐えたね。食堂の時には、色々我慢出来ずに、何か言い出しそうだったのに」
「ああ。正直に言うとジョヴァンニを殺そうかと思ったことは、これまで何度かあるな」
俺がジョヴァンニに視線を向けると、わざとらしく渋い表情になった。
「おいおい。レオがそれ言うと、全く洒落になってないよ。やめてくれよ。僕は言われた通りに動いていたし、常に二人の味方だっただろう?」
……そうだったかもしれないし、そうではないかもしれない。だが、結果的にはすべては上手くいっている。
「……これに相応しい礼はするよ。ジョヴァンニ」
「レオに恩が売れるなんて、あまりない機会だから、僕は楽しかったよ。誕生日まで引っ張った理由は、リンゼイのドレス姿でわかったからね。君からの独占欲が溢れていて……」
「どこかの誰かが邪魔しなければ、我が邸の月の見えるバルコニーで、告白が書かれた手紙入りの贈り物を受け取っていたんだよ。リンゼイはそういうシチュエーションが、好きそうだったから……」
「……レオは本当に、リンゼイの事が好きなんだね。確かにあの子は喜びそうだ」
理解があると感心したように言ったジョヴァンニに、ここで気になっていたことを思い出したので聞くことにした。
「マリアローゼは、どうする?」
俺がジョヴァンニに次に会えたら聞きたかったのは、これだ。処罰が下されないのであれば、個人的に手を下すしかない。
何の罪もないリンゼイを、あの自分勝手な女は殺しかけたのだ。
「ああ……将来のフォンタナ公爵夫人を殺しかけたからね。立派な殺人未遂だ。父母もこの事は知っている」
その時に微笑んだジョヴァンニには、何の感情が見えなかった。嬉しいのか悲しいのか、寂しいのか。
色で例えるならば、無色だ。
幼い頃から決められていた婚約者マリアローゼはもうすぐ、彼の婚約者ではなくなると言うのに。
ジョヴァンニは神から特別に愛されたのか、何もかも与えられた王位を約束された王太子であるのに、性格は温厚で優しく礼儀正しく公平で……彼と話していると、俺はたまに思う。
そんな完璧な人間が、本当に存在しているのだろうかと。
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