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13 悪役令嬢②
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「レオナルド。これは貴方には、何の関係ないことですわ。黙ってくださらない?」
颯爽と現れたレオナルドの登場に、マリアローゼは露骨に嫌そうな表情になっていた。
……あ。レオナルドはマリアローゼを嫌いだと言っていたけれど、もしかしたら、マリアローゼだって、そうなのかもしれない。
乙女ゲーム内で最強の敵とも言える、悪役令嬢と対等に張り合えてしまう、レオナルド……格好良い。ううん。そんなのなくても、いつも格好良いんだけど。
「婚約者に何か言いたいことがあるならば、二人きりの時に私以外の女性に近づかないでと伝えれば良いだけだろう。このような人が集まる場所で、彼ら二人をわかりやすく攻撃するなど、彼女を悪者にする以外にどういった目的が考えられるんだ」
「なんですって……私の行動に、意見すると?」
「ああ。ジョヴァンニの婚約者であろうが、マリアローゼは現段階では公爵令嬢。俺も同じ身分で、公爵家の者だ。愚行を止めろと意見をしたからと、何か問題でも?」
二人はじっと睨み合い、マリアローゼはふんっと鼻息荒く何も言わずに去って行った。
レオナルドは他の誰かのように、言い負かすことは出来ないと思ったのかもしれない。
取り巻きを引き連れて去っていくマリアローゼの背中を見て、私は安堵の息を吐いた。
まだ、ジョヴァンニと本当に恋仲ならば、彼女から言われても仕方ないと思う。けれど、本当に本当に誤解なので早く解いてしまいたい。
そうすれば、婚約者を取ろうとしていた事実はなく、嫉妬深い彼女にだって安心してもらえることだろう。
「……悪い。レオ。来てくれて助かった。僕が何か言うとマリアローゼを、より逆上させてしまっただろうから」
「別に構わない。俺は急ぐから、もう行く」
素っ気なく短く言って、レオナルドは私たちの前から、あっさりと立ち去ってしまった。
背の高い背中は、振り向きもせずに去っていく。
興味津々の視線を向けていた周囲の人たちも、事態は落ち着いたのかと見てざわざわとした騒めきが戻って来た。
……え。久しぶりに少しだけでも、話せるかと思っていたのに……。
「……悪かったね。マリアローゼは、僕の婚約者だ。何か良くない誤解があるようなので、後で彼女にちゃんと説明しておくから」
ジョヴァンニはそう言って、再度席に座るようにと促した。
「えっ……ええ。私もジョヴァンニ先輩に、頼り過ぎていました。申し訳ございません」
私は座っていた椅子に腰掛けつつ、さっき見たレオナルドの態度に衝撃を受けていた。
……どうしてだろう。別に挨拶くらい、してくれても良いのに……。
「……さっきのレオ。嫉妬していたようだったね」
ジョヴァンニに小声で耳打ちされて、私は驚いた。
「え!? レオナルド先輩がですか?」
何が? どの辺が? 何の未練も感じさせる事なく、サッと立ち去っていたけれど?
「僕たち二人が隣同士に居て、苛立ってしまったんだろう。しかし、リンゼイ……君って、鈍感の度を越しているようだね。あれは、僕以外だってそう見えると思うよ。もし、何もなかったとすれば、挨拶をして少し話でもして行くだろう」
「そうなんです。けど……挨拶もしてもらえなくて……ショックでした」
すごく、ショックだ……レオナルドにせっかく会えて、話せるチャンスだったと言うのに。
まるで一言も話したことがない人のように、あっさりと行ってしまった。
「いや、だから、それは……うーん。これでわかってもらえないと、どう説明して良いのか、僕にもわからないね。早く告白して君が考えていることをレオ本人に伝えた方が良さそうだ。贈り物の手紙は、既に用意出来ているね?」
「はい……」
レオナルドへの想いを綴った手紙ならば、用意をしていた。あまり長くなってはいけないと、何度も何度も推敲したので、すぐに読んで貰えるはずだ。
「……レオは九歳から十二歳まで、祖父の辺境伯に預けられていてね。だから、貴族としては、少し変わっている。ああやって怒れば感情を剥き出しにしてしまったり、マリアローゼを嫌いであることを隠せないように、冷静に動かなければならないところが隠せなかったりするんだ」
「あ」
それって……幼いレオナルドが、暗殺者に攫われてしまっていた時だ。
公爵令息たるレオナルドが暗殺集団に居たという過去なんて公表出来ないだろうし、これは、そういうことにしようという表向きの話?
確か……キャラ紹介にあった説明によると、レオナルドが幼い頃にとある貴族の家に滞在していた時に、運悪く暗殺現場を目撃してしまい、逃げ出す直前だった暗殺者に攫われてしまった。
殺されるはずだったところを暗殺者集団に親方に良い目をしていると気に入られ、暗殺者の卵として彼らに訓練され三年間育てられるのだ。
レオナルドは暗殺者集団を捕らえに騎士団の助けが来るまで、公爵家の者だということは話さず、攫われた邸の貴族に仕えていた下男だと身分を偽っていた。
高貴な身分にあった公爵令息の面影が様変わりしてしまい、レオナルドに戦場帰りのような異様な落ち着きがあるのは、そのせいなのだ。
「そうだね。だから、怖がりで動けなかったリンゼイと、相性は絶対に良いはずなんだ。レオは自分の感情を抑えきれない時があるけど、君に合わせようと思えばきっと出来るはずだからね」
「……その、ジョヴァンニ先輩」
「何?」
「どうして、レオナルド先輩が私のことを好きだと、そうして断言が出来るんですか?」
私はさっきレオナルドが不機嫌そうに去ってしまった時も、なんだか嫌われてしまったかもと思ったくらいで、もしかしたら好きだからやきもちをやいてどうこうなんて、思いもしなかった。
「さあね……なんでだろうね」
重要な質問なのに四角い盆を持って立ち上がり、さらっと質問を躱したジョヴァンニは何もわかっていない私に説明しても仕方がないと思って居るのか、そう思った根拠を教えてくれることはなかった。
颯爽と現れたレオナルドの登場に、マリアローゼは露骨に嫌そうな表情になっていた。
……あ。レオナルドはマリアローゼを嫌いだと言っていたけれど、もしかしたら、マリアローゼだって、そうなのかもしれない。
乙女ゲーム内で最強の敵とも言える、悪役令嬢と対等に張り合えてしまう、レオナルド……格好良い。ううん。そんなのなくても、いつも格好良いんだけど。
「婚約者に何か言いたいことがあるならば、二人きりの時に私以外の女性に近づかないでと伝えれば良いだけだろう。このような人が集まる場所で、彼ら二人をわかりやすく攻撃するなど、彼女を悪者にする以外にどういった目的が考えられるんだ」
「なんですって……私の行動に、意見すると?」
「ああ。ジョヴァンニの婚約者であろうが、マリアローゼは現段階では公爵令嬢。俺も同じ身分で、公爵家の者だ。愚行を止めろと意見をしたからと、何か問題でも?」
二人はじっと睨み合い、マリアローゼはふんっと鼻息荒く何も言わずに去って行った。
レオナルドは他の誰かのように、言い負かすことは出来ないと思ったのかもしれない。
取り巻きを引き連れて去っていくマリアローゼの背中を見て、私は安堵の息を吐いた。
まだ、ジョヴァンニと本当に恋仲ならば、彼女から言われても仕方ないと思う。けれど、本当に本当に誤解なので早く解いてしまいたい。
そうすれば、婚約者を取ろうとしていた事実はなく、嫉妬深い彼女にだって安心してもらえることだろう。
「……悪い。レオ。来てくれて助かった。僕が何か言うとマリアローゼを、より逆上させてしまっただろうから」
「別に構わない。俺は急ぐから、もう行く」
素っ気なく短く言って、レオナルドは私たちの前から、あっさりと立ち去ってしまった。
背の高い背中は、振り向きもせずに去っていく。
興味津々の視線を向けていた周囲の人たちも、事態は落ち着いたのかと見てざわざわとした騒めきが戻って来た。
……え。久しぶりに少しだけでも、話せるかと思っていたのに……。
「……悪かったね。マリアローゼは、僕の婚約者だ。何か良くない誤解があるようなので、後で彼女にちゃんと説明しておくから」
ジョヴァンニはそう言って、再度席に座るようにと促した。
「えっ……ええ。私もジョヴァンニ先輩に、頼り過ぎていました。申し訳ございません」
私は座っていた椅子に腰掛けつつ、さっき見たレオナルドの態度に衝撃を受けていた。
……どうしてだろう。別に挨拶くらい、してくれても良いのに……。
「……さっきのレオ。嫉妬していたようだったね」
ジョヴァンニに小声で耳打ちされて、私は驚いた。
「え!? レオナルド先輩がですか?」
何が? どの辺が? 何の未練も感じさせる事なく、サッと立ち去っていたけれど?
「僕たち二人が隣同士に居て、苛立ってしまったんだろう。しかし、リンゼイ……君って、鈍感の度を越しているようだね。あれは、僕以外だってそう見えると思うよ。もし、何もなかったとすれば、挨拶をして少し話でもして行くだろう」
「そうなんです。けど……挨拶もしてもらえなくて……ショックでした」
すごく、ショックだ……レオナルドにせっかく会えて、話せるチャンスだったと言うのに。
まるで一言も話したことがない人のように、あっさりと行ってしまった。
「いや、だから、それは……うーん。これでわかってもらえないと、どう説明して良いのか、僕にもわからないね。早く告白して君が考えていることをレオ本人に伝えた方が良さそうだ。贈り物の手紙は、既に用意出来ているね?」
「はい……」
レオナルドへの想いを綴った手紙ならば、用意をしていた。あまり長くなってはいけないと、何度も何度も推敲したので、すぐに読んで貰えるはずだ。
「……レオは九歳から十二歳まで、祖父の辺境伯に預けられていてね。だから、貴族としては、少し変わっている。ああやって怒れば感情を剥き出しにしてしまったり、マリアローゼを嫌いであることを隠せないように、冷静に動かなければならないところが隠せなかったりするんだ」
「あ」
それって……幼いレオナルドが、暗殺者に攫われてしまっていた時だ。
公爵令息たるレオナルドが暗殺集団に居たという過去なんて公表出来ないだろうし、これは、そういうことにしようという表向きの話?
確か……キャラ紹介にあった説明によると、レオナルドが幼い頃にとある貴族の家に滞在していた時に、運悪く暗殺現場を目撃してしまい、逃げ出す直前だった暗殺者に攫われてしまった。
殺されるはずだったところを暗殺者集団に親方に良い目をしていると気に入られ、暗殺者の卵として彼らに訓練され三年間育てられるのだ。
レオナルドは暗殺者集団を捕らえに騎士団の助けが来るまで、公爵家の者だということは話さず、攫われた邸の貴族に仕えていた下男だと身分を偽っていた。
高貴な身分にあった公爵令息の面影が様変わりしてしまい、レオナルドに戦場帰りのような異様な落ち着きがあるのは、そのせいなのだ。
「そうだね。だから、怖がりで動けなかったリンゼイと、相性は絶対に良いはずなんだ。レオは自分の感情を抑えきれない時があるけど、君に合わせようと思えばきっと出来るはずだからね」
「……その、ジョヴァンニ先輩」
「何?」
「どうして、レオナルド先輩が私のことを好きだと、そうして断言が出来るんですか?」
私はさっきレオナルドが不機嫌そうに去ってしまった時も、なんだか嫌われてしまったかもと思ったくらいで、もしかしたら好きだからやきもちをやいてどうこうなんて、思いもしなかった。
「さあね……なんでだろうね」
重要な質問なのに四角い盆を持って立ち上がり、さらっと質問を躱したジョヴァンニは何もわかっていない私に説明しても仕方がないと思って居るのか、そう思った根拠を教えてくれることはなかった。
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