上 下
11 / 17

11 苦手な理由②

しおりを挟む
◇◆◇


 新しく恋愛指導してくれることになったジョヴァンニと密に連絡を取りつつ、レオナルドの誕生日会に向けて着々と準備を進めていた。

 誕生日の贈り物だって、既に用意している。いつも身につけていてもらえるものが良くて、探し回ったけれど、ちょうど良い物が見つかって良かった。

 私はジョヴァンニと上手くいっていることになっているので、恋愛指導をしてくれていたレオナルドとは、今はあまり話せていない。

 それが無性に寂しくて、レオナルドの誕生日に上手くやらねばと思う原動力になっていた。

 たまに、教室移動中の彼の姿を学園内で見かけることはあったけれど、恋愛相談以外ではレオナルドと話せる気もしない。

 あんなにも毎日一緒に居て、内容は内容だとしても良く話していたというのに、今はもう他人のようになってしまった。

 ……レオナルドの方からも、私に話しかけることになくなった。

 ジョヴァンニと上手くいってしまえば、私にとって自分は、もう必要ないだろうと思っているのかもしれない。

 勝手な思いだけど、本当に寂しい……けれど、今話かけたところで、これまでのすべてを話せる気もしない。

 ジョヴァンニが言っていたように、私が彼を好きという気持ちを言葉以外で伝えることこそが大事で、誕生日会に贈り物をする時に自分の気持ちを書いた手紙を忍ばせるという手段は、一番にベストな方法なのかもしれない。

 とにかく、あと勝負の日まで、あと三日ほどだ。

 私は贈り物を渡すだけ……そうしたら、手紙を読んだレオナルドがどうにかしてくれるはず。

「……リンゼイ。そろそろ、レオの誕生日会だね」

「はい」

 日付が近付く度に緊張度が増すけれど、ここまで来たら、やるしかないと思っていた。

 女は度胸よ。

 当日までに細々と決めることも多くてジョヴァンニとはお昼休みに、食堂で昼食を共にしていた。王太子の彼はとても多忙で、そこしか時間が取れる時がなかったのだ。

「緊張してる?」

「……わかります?」

 微笑むジョヴァンニの察し能力は、たまに怖い時がある。

 もし、不機嫌な恋人がデート中のディナーを『なんでも良い』と言い出しても『本当は、パスタが食べたかったんだよね。僕はちゃんとわかっているよ』と、99%の男性が失敗しそうな選択肢を間違いなく選びそう。

 そして、恋人も『もうっ……私の気持ち、ちゃんとわかってくれて、ありがとう』となりそう。あ。これって、すべて私の妄想なんだけど。

「うん。それは、わかるね。けど、リンゼイも落ち着いて相手側の状況を考えれば、相手の思っていることを予想出来るのではないかな」

 机の上をコツコツと指で叩いて、ジョヴァンニは面白そうに笑った。

「相手側の状況ですか。そういえば、あまり考えられていないかもしれないです」

 ……私はジョヴァンニの言う通り、あまり、相手のことを考えられていないかもしれない。

 友人関係ならわかるだろうことも、恋愛関係だと思うと、未知の分野過ぎてついていけなくなるのだ。

「リンゼイ。僕が思うに君が恋愛下手なのは、自分が相手の気持ちをわからないから無理だと、考えることを最初から放棄してしまっているからだと思うよ」

「うーん……そうかもしれないです」

 わかられ過ぎて居て……なんだか、怖い。恋人なら『わかってくれて、嬉しい♡』って、なれるかもしれないけど。

「もし……もしだよ。レオが君の事を、好きだったとするね? だとすると、今僕とこうして居る事を、どう思っていると思う?」

 まるで、教師が授業中に生徒に質問するかのように、ジョヴァンニはそう聞いた。

 どう思っている? ……もし、私のことが好きなら、これかな。

「ジョヴァンニ先輩と……上手くいって、良かったと?」

「はい。最悪な不正解。好きになった女の子が、別の男と一緒に居て、気分が良い人は居ないと思うよ」

「けど、私のことを好きなら、そうなのかなと……」

「いやいや……もし、片思いを片思いだと諦めていたとしても、相手の幸せを祈れるまでには、長い時間を要すると思う。リンゼイとレオが知り合って、まだひと月も経って居ないんだろう?」

「その通りですけど……難しいですね」

 私は普通にそう思ったんだけど、ジョヴァンニは呆れたようにため息をついていた。

「これは、なんだか重症だな。リンゼイが自分が恋愛を、下手だと思う根拠は?」

「まず、恋愛対象だと思うと、緊張しちゃって喋れないです……それに、相手の望む答えが出せないかもしれないと思うと、より怖くなってしまうんです。会話が成り立たないと恋愛って難しくないです?」

「別に望まぬ答えを出して、失敗しても良いと思うけどね。何か気に障るようなことを言ってしまっても、レオなら話せばわかってくれるだろう」

 いえいえ……乙女ゲームだと選択肢間違うと、好感度が減るんですが!?

 しかも、レオナルドは最難易度で、三つある選択肢の内の二つが即バッドエンドに繋がるんです。弁解の余地なんてありますか?

 なんて……こんなことを、ジョヴァンニに、言えるはずもない。

 ジョヴァンニが言いたい居ることはもっともで、ここは『ここたた』の世界で間違えていないと思うけれど、選択肢は出て来ないし、私には自由な言動と自由な行動が許されている。

「……何か失敗して、少しでも嫌われてしまうのは怖いです」

 恋愛って下手な原因を……突き詰めて言ってしまうと、これなのだ。これしかない。むしろ、これ以外ない。

 今まで失敗続きで、また、失敗してしまうかもしれない。そう思うと何か行動を起こすことが怖くなり、身体が萎縮して何も言えなくなる。

 怖くなって避け続けた結果、より苦手意識が強くなり、恋愛に対する恐怖と拒否感だけが強くなってしまう。

 私が正直な気持ちを伝えれば、ジョヴァンニはこれは困ったと言わんばかりに、両手を挙げていた。

「リンゼイは、告白さえ上手くいってしまえば、レオにすべてを任せた方が良いと思うよ。自分の意志では何かしない方が良いと思う。だって……」

「……ちょっとそちらの方、失礼致します!」

 真面目な顔をして恋愛相談中に不意に聞こえた高い声に、並んで座っていた私たちは同じように背後を振り返った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています *表紙イラストは星影さき様に描いていただきました

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~

木山楽斗
恋愛
頭を打った私は、自分がかつてプレイした乙女ゲームの悪役令嬢であるアルティリアと攻略対象の一人で私の推しだったファルクスの子供に転生したことを理解した。 少し驚いたが、私は自分の境遇を受け入れた。例え前世の記憶が蘇っても、お父様とお母様のことが大好きだったからだ。 二人は、娘である私のことを愛してくれている。それを改めて理解しながらも、私はとある問題を考えることになった。 お父様とお母様の関係は、良好とは言い難い。政略結婚だった二人は、どこかぎこちない関係を築いていたのである。 仕方ない部分もあるとは思ったが、それでも私は二人に笑い合って欲しいと思った。 それは私のわがままだ。でも、私になら許されると思っている。だって、私は二人の娘なのだから。 こうして、私は二人になんとか仲良くなってもらうことを決意した。 幸いにも私には前世の記憶がある。乙女ゲームで描かれた二人の知識はきっと私を助けてくれるはずだ。 ※2022/10/18 改題しました。(旧題:乙女ゲームの推しと悪役令嬢の娘に転生しました。) ※2022/10/20 改題しました。(旧題:悪役令嬢と推しの娘に転生しました。)

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

処理中です...