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02 挨拶②

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 入学した時に蘇った記憶で、現実世界から乙女ゲームの世界に転生していると気がついた時から、『無理。終わった』って思った。

 それは……何故かって? 私の恋愛偏差値が、異常に低過ぎるから!

 乙女ゲームもクリア出来ない子が、リアル恋愛攻略なんて、到底無理だと思うの。

 けど、別に私は男の人と話せない訳ではない。相手が恋愛対象ではないと思うと、特に何も無く普通に話せる。

 けど『もしかして、この人と付き合っちゃうかもしれない』とどこかで思ってしまうと『ついさっきまで持ってた言語能力を、どこかに落として来た?』とばかりに何も話せなくなる。

 男の人の考えていることを先読みして、彼からすれば好ましい回答を選ぶなんて、それ以前な問題なのだ。

 まず、恋愛対象者と思うと、適切な挨拶も出来ない。

 いま現在、不可解の極みを表すかのような表情を、美麗な顔に浮かべているジョヴァンニ・ブルゴーニュは王子様で、幼い頃から決められた公爵家の婚約者だっていらっしゃる。

 ……そう。それって、つまり乙女ゲームの悪役令嬢のことだ。ちなみに私は、まだお会いしていない。それは何故かというと、彼女はとても怖いから。

 そんな身分の高い二人があまり上手くいっていないとはいえ、婚約者が居る状態で、王族に声を掛ける貴族令嬢も居ない。

 だから、平民の身分であるヒロインは、貴族の常識を飛び越えられる、とても珍しい『面白れえ女』になり得る存在なのだ。

 ……ジョバンニが私を気に入ってくれれば、きっと、向こうから話しかけてくれるようになる。

 好感度が30を越えた辺りで個別ルートに入れば、こちらから探しに行かなくても、ジョヴァンニの方から探しに来る。

———-今はすぐ目の前に居るけど。

 現在、どれだけジョヴァンニにとって、自分が不自然な存在になっているかを意識してしまい、ドキンっと胸が高鳴った。

 ……無理。胸の高鳴りが早くなって、動揺の度合いがどんどん増していく。

「っ……会長の趣味は、何でしょうか?」

 無言の空気に耐えかね完全にテンパった私は、会話のきっかけに適切なはずの趣味の話を持ち出した。

「僕の趣味……? ああ……なんだろう。読書かな?」

 優しいジョヴァンニは戸惑いながらも趣味は読書であると答えてくれて、私はもう既にその時点で限界だった。

 会話、成立!! 目的達成(ミッションコンプリート)!!

「っありがとうございました!!」

 パッと背後を振り返って闇雲に走り出し、擁護しようのない異常な行動を王子様に披露してしまった私は、道路を転がりたい思いでいっぱいだった。

 恥ずかしい! 穴掘って、そこに当分篭もりたい!!

 誰かと親密度高めようとする事が目的の会話で、趣味だけ聞いて走り去るなんて、ピンポンダッシュみたいな事をする人居る?

 そうです! 犯人は私ですぅ!!!

「……おい!! リンゼイ!」

 とにかくさっきの場所から逃げようと目に付く道を走っていた私は、急に大きな手で手首を掴まれて驚いた。
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