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65 困った恋人③
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「しかし、ミシェル。君の護衛騎士であったころは、常にミシェルの傍に居ること自体が仕事でしたが、転職した僕は、そろそろ行かねばなりません。ミシェルと仕事、どちらを選ぶかと問われれば、迷わずミシェルを選びますが、出来れば仕事もなくしたくないです……」
「そっ……それは、仕方ないわね……」
ジュストのとても申し訳なさそうな表情。長年の付き合いでわかってしまうので、おそらくはこれも演技なんだけど、何か大事な仕事で急いでいることは、間違いないだろう。
ジュストが纏う服……高級そうな生地の、仕立てたばかり新品の服だわ。
これをわざわざ選んだということは、女性とのデートでもなければ、これを着て会わなければ失礼になるほどの相手に会うって事かしら……。
「ミシェル」
「っ……何よ」
考え込んでいた私は、名前を呼ばれて慌てて顔を上げた。
「片時も離れたくないほどに、僕のことが好きであることは理解しましたが、もうそろそろ……」
そして、胸に手を当てたジュストは、いつの間にか周囲に居たアシュラム伯爵家の面々に目を向けた。
誰かが敢えてここに集めたとしか思えないほどの人数。皆楽しそうな……キラキラした目で、私たちを見つめていた。
「なっ……違うわよ! これは、そうではないの……そういう訳ではないわ。さっさと仕事に行きなさいよ! ジュスト」
これは大きな誤解を生んでしまうと悟った私は、ジュストに早く行くように促した。
「ええ。出来るだけ早く帰りますね。不在の間にも、君を想っています。ミシェル」
周囲からキャッと楽しそうな声や、笑いさざめく声。
楽しそうなのは、わかるわ。仕事に行こうとしている男性を、行かせたくないと甘えて騒ぐ女性……に私は見えているはずだもの!
それも、何ヶ月も会えないならまだしも、ジュストが帰って来る予定は数時間後なのよ!
「もうっ……ジュスト。良いから。早く行って来て!」
面白がったジュストの言葉で、自分がどれだけこの邸の使用人たちに誤解されてしまったかを知り、私は彼に早く行くように手を振った。
「ええ。すぐ帰って来ます。これだけ寂しく思われたら、僕も早く帰りたくなるというものですので」
「そういうの、良いから!! 早く!! 行って来て!!」
絶対、内心面白がっているはずのジュストは、最後まで寂しがる困った恋人を気遣う貴公子の演技を続け、私はその後しばらくアシュラム伯爵邸の使用人たちに『アシュラム伯爵のことが好き過ぎる、彼の婚約者』として、丁重に扱われるようになってしまった。
「そっ……それは、仕方ないわね……」
ジュストのとても申し訳なさそうな表情。長年の付き合いでわかってしまうので、おそらくはこれも演技なんだけど、何か大事な仕事で急いでいることは、間違いないだろう。
ジュストが纏う服……高級そうな生地の、仕立てたばかり新品の服だわ。
これをわざわざ選んだということは、女性とのデートでもなければ、これを着て会わなければ失礼になるほどの相手に会うって事かしら……。
「ミシェル」
「っ……何よ」
考え込んでいた私は、名前を呼ばれて慌てて顔を上げた。
「片時も離れたくないほどに、僕のことが好きであることは理解しましたが、もうそろそろ……」
そして、胸に手を当てたジュストは、いつの間にか周囲に居たアシュラム伯爵家の面々に目を向けた。
誰かが敢えてここに集めたとしか思えないほどの人数。皆楽しそうな……キラキラした目で、私たちを見つめていた。
「なっ……違うわよ! これは、そうではないの……そういう訳ではないわ。さっさと仕事に行きなさいよ! ジュスト」
これは大きな誤解を生んでしまうと悟った私は、ジュストに早く行くように促した。
「ええ。出来るだけ早く帰りますね。不在の間にも、君を想っています。ミシェル」
周囲からキャッと楽しそうな声や、笑いさざめく声。
楽しそうなのは、わかるわ。仕事に行こうとしている男性を、行かせたくないと甘えて騒ぐ女性……に私は見えているはずだもの!
それも、何ヶ月も会えないならまだしも、ジュストが帰って来る予定は数時間後なのよ!
「もうっ……ジュスト。良いから。早く行って来て!」
面白がったジュストの言葉で、自分がどれだけこの邸の使用人たちに誤解されてしまったかを知り、私は彼に早く行くように手を振った。
「ええ。すぐ帰って来ます。これだけ寂しく思われたら、僕も早く帰りたくなるというものですので」
「そういうの、良いから!! 早く!! 行って来て!!」
絶対、内心面白がっているはずのジュストは、最後まで寂しがる困った恋人を気遣う貴公子の演技を続け、私はその後しばらくアシュラム伯爵邸の使用人たちに『アシュラム伯爵のことが好き過ぎる、彼の婚約者』として、丁重に扱われるようになってしまった。
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