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61 賞品(Side Just)①

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「……王手(チェックメイト)」

 僕が難攻不落だったはずの陣を築いていた敵側の息の根を留める手を指すと、敵側だった彼は両手を挙げて首を横に振り白旗を揚げた。

 そこで僕の大会優勝が決まったので、周囲から大きく拍手が巻き起こった。

 チェスは複雑な駒の動きで頭を使う貴族の嗜みのひとつであるし、社交場である紳士クラブで大会自体は良く開かれるのだ。

 これは、各大会を勝ち抜いた優勝者のみの争いであったので、僕が今現在この国でのチェス一位ということになった。平民はチェスを嗜まないので、隠れた名手が居ない限りはそうなるだろう。

 大きな箱に包まれていた優勝賞品を受け取って、僕は軽く壇上に上がり感謝を述べて礼をした。

「おめでとう。アシュラム伯爵。君は本当に、優秀な男のようだ」

「……いえいえ。滅相もありません。僕は単に、運が良いだけですよ」

「おいおい。そんな謙遜など要らないだろう。運だけでここまで来られるなど、誰も思ってはいない」

 ええ。ここで僕が謙遜しなければしないで、若造が何を生意気なとそちらが不機嫌になってしまうと思うので、それを避けるための社交術です。

 僕が何も言わずに黙ったままで微笑めば、主催のケンネル公爵が僕の名前の元、もう一度の大きな拍手を求め、それで今夜のチェス大会は締めくくられた。

 盛り上がった後のざわざわとした喧噪の中で、僕は小さなテーブルに腰掛けた。優勝の喜び覚めやらぬ今、一杯だけ飲んで帰ろうと思ったのだ。

 貴族たちは僕のような新興貴族について、あまり良くは思わない。新入りを嫌う事はどんな集団でもあるのだろうが、歴史ある国の貴族のせいかより排他的で礼儀作法を重んじている。

 とは言え、新入りが元々の顔見知りであれば別だ。

 顔見知りには点が甘くなるものだし、それは僕自身だってそうだった。話したことがあるとなれば親密度は増してくる。

 僕はこの高級紳士クラブには、色々と情報収集をしていた頃から、良く出入りしていた。こういう場は貴族しか入れないと思い込んでいる者も多いだろうが、実はそういう訳でもない。

 貴族が気心の知れた侍従や使用人を伴ってここを訪れることは、良くあったからだ。サラクラン伯爵は仕事には厳しいが、余暇にはあまり口出さぬ金払いの良い雇用主だった。

 無料で飲める高い酒ほど、美味しいものはない。

「……ジュスト。ザカリーは、何処へ行った?」

「さあ? ……僕は、何も知らない」

 店員に酒を受け取ったついでにザカリーについて質問されたが、僕は本当に彼の行方は知らないのでその通りに伝えて肩を竦めた。

 店員はまあそうだろうなといた表情で頷いて、用無しだと言わんばかりに去って行った。

 ……さて、ザカリーは何処に行ったのだろうか。しかも、この調子では探されているのか。あの朝、ラザールの話を聞いて以来、一切接触はなかった。

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