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55 お茶会②
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私は深呼吸しつつ震える手でジュストの手を掴み、彼は弱々しいながらもそれを握り返してくれた。
……ジュストは、生きている。良かった!
彼が飲んだ毒が即死に至るような、強い毒ではないことはわかった。だから、これから一刻も早く解毒すれば治るはず。
さっきまで私を嵐のように襲っていた恐慌は嘘のように消えて、ジュストが生きているならば、それを助けなければという一心で私は自分でも驚く程にスッと冷静になれた。
ここで私が泣き叫んで喚いて、犯人はあいつだと騒げば、きっと向こうの思い通り。
きっと……ジュストを、陥れようとしているのよ。恥をかかされてしまった復讐に。
そうでなければ、絶対におかしいわ。ただこうして、彼に毒を飲ませただけで、何の得があると言うの。
早く何も言わず騒がずに、ここから逃げなければ。
ここは、ラザール様が先んじて用意していた蜘蛛の巣。何も考えずに暴れてしまえば、彼にそのまま喰われてしまう。
冷静に周囲を見れば、毒を盛られた現場に居合わせてしまった使用人たちは、慌ててあちらに行ったりこちらに行ったり。
ジュストや私にお茶を淹れた使用人は、自害を図っている頃かしら。そうよね。だって、これは王家の主催のお茶会。何かあれば、責任は国王陛下なのよ。
……よくも、そんなことを計画したものね。もしかして、自分の言い分なども聞かずに、一方的に婚約解消を言い渡されたという腹いせの解消も兼ねているの?
となると、毒を盛った犯人は私たちに不利な証言を言わせるために、逆に生かされているかもしれない。
毒を飲むのはジュストと私、どちらかで良かったんだ。だから、ジュストはあまり嗅いだことのない香りのするお茶を先んじて飲んだ。
きっと……そうなるとわかっていて、彼が私の身代わりになったのよ。お茶に口を付けない訳にもいかないし、毒が入っているなんて、指摘が出来ないから。
ラザール様……いいえ。ラザール・クロッシュは、それほどにまで、自分を虚仮にした私たちを憎んでいた。
「ミシェル……大丈夫かい?」
わざとらしく馴れ馴れしいラザールが近寄ってきたので、私は周囲に聞かれぬように弱々しく微笑み小声で彼に応じた。
「……何も知らない私が、ここで泣き喚くとでも思っていたの? ラザール様。ジュストのことは貴方には何の関係もないことなので、貴方はどこか遠くに行ってくださると嬉しいわ」
今まで完全に下に見ていた私に、思いもよらぬことを言い返されたと思ったのか、彼の顔は青黒くなり憤怒の表情を浮かべた。
「ミシェル……」
思い通りにならず、動揺した? その通りよ。私は貴方の思い通りになんて、絶対になりたくないの。
「……誰か! 早く、ジュストを運んで! 医者を早く、呼んでちょうだい。それに、トリアノン侯爵家に早馬を出して。彼のお父様を、早く呼んで来て!」
辺りは騒然としていて、ジュストの身体は私の指示通り、素早く運ばれることになった。
私は立ち去る直前に、一人騒ぎから取り残されたラザールを見た。彼は暗い顔をして、不気味に微笑んでいるように見えた。
……ジュストは、生きている。良かった!
彼が飲んだ毒が即死に至るような、強い毒ではないことはわかった。だから、これから一刻も早く解毒すれば治るはず。
さっきまで私を嵐のように襲っていた恐慌は嘘のように消えて、ジュストが生きているならば、それを助けなければという一心で私は自分でも驚く程にスッと冷静になれた。
ここで私が泣き叫んで喚いて、犯人はあいつだと騒げば、きっと向こうの思い通り。
きっと……ジュストを、陥れようとしているのよ。恥をかかされてしまった復讐に。
そうでなければ、絶対におかしいわ。ただこうして、彼に毒を飲ませただけで、何の得があると言うの。
早く何も言わず騒がずに、ここから逃げなければ。
ここは、ラザール様が先んじて用意していた蜘蛛の巣。何も考えずに暴れてしまえば、彼にそのまま喰われてしまう。
冷静に周囲を見れば、毒を盛られた現場に居合わせてしまった使用人たちは、慌ててあちらに行ったりこちらに行ったり。
ジュストや私にお茶を淹れた使用人は、自害を図っている頃かしら。そうよね。だって、これは王家の主催のお茶会。何かあれば、責任は国王陛下なのよ。
……よくも、そんなことを計画したものね。もしかして、自分の言い分なども聞かずに、一方的に婚約解消を言い渡されたという腹いせの解消も兼ねているの?
となると、毒を盛った犯人は私たちに不利な証言を言わせるために、逆に生かされているかもしれない。
毒を飲むのはジュストと私、どちらかで良かったんだ。だから、ジュストはあまり嗅いだことのない香りのするお茶を先んじて飲んだ。
きっと……そうなるとわかっていて、彼が私の身代わりになったのよ。お茶に口を付けない訳にもいかないし、毒が入っているなんて、指摘が出来ないから。
ラザール様……いいえ。ラザール・クロッシュは、それほどにまで、自分を虚仮にした私たちを憎んでいた。
「ミシェル……大丈夫かい?」
わざとらしく馴れ馴れしいラザールが近寄ってきたので、私は周囲に聞かれぬように弱々しく微笑み小声で彼に応じた。
「……何も知らない私が、ここで泣き喚くとでも思っていたの? ラザール様。ジュストのことは貴方には何の関係もないことなので、貴方はどこか遠くに行ってくださると嬉しいわ」
今まで完全に下に見ていた私に、思いもよらぬことを言い返されたと思ったのか、彼の顔は青黒くなり憤怒の表情を浮かべた。
「ミシェル……」
思い通りにならず、動揺した? その通りよ。私は貴方の思い通りになんて、絶対になりたくないの。
「……誰か! 早く、ジュストを運んで! 医者を早く、呼んでちょうだい。それに、トリアノン侯爵家に早馬を出して。彼のお父様を、早く呼んで来て!」
辺りは騒然としていて、ジュストの身体は私の指示通り、素早く運ばれることになった。
私は立ち去る直前に、一人騒ぎから取り残されたラザールを見た。彼は暗い顔をして、不気味に微笑んでいるように見えた。
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