42 / 66
41 甘い果実②
しおりを挟む
「……ここは、何処?」
私は窓に近付き信じられない気持ちで、それを見上げた。とても広くて、大きな邸だ。しかも建てられたばかりなのか真新しい。
「ああ。これが、僕の邸です」
「ジュストの邸なの? すごいわ」
「僕の父は難病を研究しては、数々の特効薬を開発しておりまして……あの人は研究馬鹿で、ただそれだけで満足していたんですが、僕が義母と共に苦心して量産することに成功し、販路を拡げまして、ええ。平たく言いますと、お嬢様。僕は現在お金だけは、潤沢に持っております」
確かにジュストのお父様が叙爵された時の新聞記事にも、数々の難病を克服しと書かれていたから、彼が開発してくれたのはオレリーがかかっていた先天性の病の特効薬だけではなかったらしい。
それに……本来ならば治療することも難しい難病であれば、特効薬と聞けばお金に糸目をつけずに買い求める人だって多いはずだ。
だから、その特効薬のすべての権利を持つ人の息子だって、大金持ちになってしまうことは想像にかたくない。
「すごいわ……ジュスト。貴方って、もう……本当に、信じられない」
彼が今夜までに、どれだけの下準備をしていたのかと思うと、何も知らないままただ守られていた私は溜め息をついた。
……お母様が言っていた『あの彼の愛はとても深くて重そう』といっていた評価が、ここで正しかったことが証明されてしまった。
だって、私がアンレーヌ村に家出したのは、ほんの二週間前なのよ。
こんなにも立派な邸がそんな二週間程度で建つ訳もなく、彼は一年以上……ううん。そのもっと前から、この邸を準備していたことになって……凄い。
ジュストは全部計算通りです、みたいな顔をしている訳だわ。
「お褒め頂き、ありがとうございます。光栄です。ミシェルお嬢様」
彼は手の甲で口元を拭うと、外で待っていた御者へと手で合図し、馬車の扉を開かせた。
「ここで、降りるの?」
見学でもするのだろうかと私が問えば、先に降りていたジュストは、胸に手を当てて私へ手を差し出した。
「大事なお嬢様と愛を交わすというのに、その辺の宿という訳にもいかないだろうと、前々から準備していた甲斐がありましたよ……あ。お嬢様の部屋の浴室は、きっと感動して頂けると思いますよ。ミシェルお嬢様のお好きな童話、人魚姫を模して特別に造って頂きましたので」
確かに私は『人魚姫』が大好きだ。ずっと共に過ごしていた彼だって、それは知っている。
「……え? 待って。どういうこと?」
浴室の話をするということは、私も今夜はそこに入ることが前提なのよね?
「今夜は、僕たちはここで過ごそうかと……お嫌ですか? お嬢様」
ここでそういう子犬のようなうるうるした目は反則だわと言いかけて、これまでに私がジュストをどれだけ我慢させていたかと思い返した。
この私だって貴族令嬢で閨教育などは一般的に受けているし、男性の生理的な現象にも理解はあるつもりだ。
ジュストのこれまでの苦労、これまで我慢したもの、そして、私をどれだけ愛してくれているかを知れば、ここで彼を拒否することは出来ないと思った。
それに、貴族令嬢は初夜まで純潔を保つことを義務とされていても、私はジュストと結婚するのだから……そういう関係になってしまっても、何の問題もないと思う。
ジュストの思惑は読めないしわからないけど、彼が私を愛していることだけは疑いようもないのだから。
私は窓に近付き信じられない気持ちで、それを見上げた。とても広くて、大きな邸だ。しかも建てられたばかりなのか真新しい。
「ああ。これが、僕の邸です」
「ジュストの邸なの? すごいわ」
「僕の父は難病を研究しては、数々の特効薬を開発しておりまして……あの人は研究馬鹿で、ただそれだけで満足していたんですが、僕が義母と共に苦心して量産することに成功し、販路を拡げまして、ええ。平たく言いますと、お嬢様。僕は現在お金だけは、潤沢に持っております」
確かにジュストのお父様が叙爵された時の新聞記事にも、数々の難病を克服しと書かれていたから、彼が開発してくれたのはオレリーがかかっていた先天性の病の特効薬だけではなかったらしい。
それに……本来ならば治療することも難しい難病であれば、特効薬と聞けばお金に糸目をつけずに買い求める人だって多いはずだ。
だから、その特効薬のすべての権利を持つ人の息子だって、大金持ちになってしまうことは想像にかたくない。
「すごいわ……ジュスト。貴方って、もう……本当に、信じられない」
彼が今夜までに、どれだけの下準備をしていたのかと思うと、何も知らないままただ守られていた私は溜め息をついた。
……お母様が言っていた『あの彼の愛はとても深くて重そう』といっていた評価が、ここで正しかったことが証明されてしまった。
だって、私がアンレーヌ村に家出したのは、ほんの二週間前なのよ。
こんなにも立派な邸がそんな二週間程度で建つ訳もなく、彼は一年以上……ううん。そのもっと前から、この邸を準備していたことになって……凄い。
ジュストは全部計算通りです、みたいな顔をしている訳だわ。
「お褒め頂き、ありがとうございます。光栄です。ミシェルお嬢様」
彼は手の甲で口元を拭うと、外で待っていた御者へと手で合図し、馬車の扉を開かせた。
「ここで、降りるの?」
見学でもするのだろうかと私が問えば、先に降りていたジュストは、胸に手を当てて私へ手を差し出した。
「大事なお嬢様と愛を交わすというのに、その辺の宿という訳にもいかないだろうと、前々から準備していた甲斐がありましたよ……あ。お嬢様の部屋の浴室は、きっと感動して頂けると思いますよ。ミシェルお嬢様のお好きな童話、人魚姫を模して特別に造って頂きましたので」
確かに私は『人魚姫』が大好きだ。ずっと共に過ごしていた彼だって、それは知っている。
「……え? 待って。どういうこと?」
浴室の話をするということは、私も今夜はそこに入ることが前提なのよね?
「今夜は、僕たちはここで過ごそうかと……お嫌ですか? お嬢様」
ここでそういう子犬のようなうるうるした目は反則だわと言いかけて、これまでに私がジュストをどれだけ我慢させていたかと思い返した。
この私だって貴族令嬢で閨教育などは一般的に受けているし、男性の生理的な現象にも理解はあるつもりだ。
ジュストのこれまでの苦労、これまで我慢したもの、そして、私をどれだけ愛してくれているかを知れば、ここで彼を拒否することは出来ないと思った。
それに、貴族令嬢は初夜まで純潔を保つことを義務とされていても、私はジュストと結婚するのだから……そういう関係になってしまっても、何の問題もないと思う。
ジュストの思惑は読めないしわからないけど、彼が私を愛していることだけは疑いようもないのだから。
372
お気に入りに追加
1,322
あなたにおすすめの小説

【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。

追放された悪役令嬢は辺境にて隠し子を養育する
3ツ月 葵(ミツヅキ アオイ)
恋愛
婚約者である王太子からの突然の断罪!
それは自分の婚約者を奪おうとする義妹に嫉妬してイジメをしていたエステルを糾弾するものだった。
しかしこれは義妹に仕組まれた罠であったのだ。
味方のいないエステルは理不尽にも王城の敷地の端にある粗末な離れへと幽閉される。
「あぁ……。私は一生涯ここから出ることは叶わず、この場所で独り朽ち果ててしまうのね」
エステルは絶望の中で高い塀からのぞく狭い空を見上げた。
そこでの生活も数ヵ月が経って落ち着いてきた頃に突然の来訪者が。
「お姉様。ここから出してさし上げましょうか? そのかわり……」
義妹はエステルに悪魔の様な契約を押し付けようとしてくるのであった。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)
陰陽@3作品コミカライズと書籍化準備中
恋愛
養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!大勢の男性から求婚されましたが誰を選べば正解なのかわかりません!〜
タイトルちょっと変更しました。
政略結婚の夫との冷えきった関係。義母は私が気に入らないらしく、しきりに夫に私と別れて再婚するようほのめかしてくる。
それを否定もしない夫。伯爵夫人の地位を狙って夫をあからさまに誘惑するメイドたち。私の心は限界だった。
なんとか自立するために仕事を始めようとするけれど、夫は自分の仕事につながる社交以外を認めてくれない。
そんな時に出会った画材工房で、私は絵を描く喜びに目覚めた。
そして気付いたのだ。今貴族女性でもつくことの出来る数少ない仕事のひとつである、魔法絵師としての力が私にあることに。
このまま絵を描き続けて、いざという時の為に自立しよう!
そう思っていた矢先、高価な魔石の粉末入りの絵の具を夫に捨てられてしまう。
絶望した私は、初めて夫に反抗した。
私の態度に驚いた夫だったけれど、私が絵を描く姿を見てから、なんだか夫の様子が変わってきて……?
そして新たに私の前に現れた5人の男性。
宮廷に出入りする化粧師。
新進気鋭の若手魔法絵師。
王弟の子息の魔塔の賢者。
工房長の孫の絵の具職人。
引退した元第一騎士団長。
何故か彼らに口説かれだした私。
このまま自立?再構築?
どちらにしても私、一人でも生きていけるように変わりたい!
コメントの人気投票で、どのヒーローと結ばれるかが変わるかも?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる