上 下
38 / 66

37 隠し事①

しおりを挟む
「……僕が何でこちらへ呼び出されたのか。あの男を見て理解致しました。陛下」

 臣下に連れられ現れたクロッシュ公爵令息ラザール様は苦々しくそう言い、悲しげに振舞うジュストを睨み付けた。そんな中、私は内心冷や汗をかいていた。

 確かに、国王陛下の言っていることはもっともなのだ。

 私側の意見だけではなく、ラザール様の言い分だって聞かなければならない。そうでなければ、公平な判断を下したとはとても言えないだろう。

 ジュストはここでラザール様が何を言い出すのか、事前にわかっているみたいだ。

 ……私には全然わからないのに。いえ。そもそもジュストがこの先どうするか読めたことなんて、これまでに一度もなかったわ。

「クロッシュ公爵令息ラザール。それでは、話は早いようだ。彼ら二人の事情は、先んじて聞いている。そこで、次は君の意見が聞きたいのだが」

 国王陛下はさっそく、わざわざ呼び出したラザール様へと話を聞く事にしたらしい。

 こんなことになるなんて、ほんの少し前まで知らなかった私は、夜会で共に入場した彼と目を極力合わせないようにした。

 ……もちろん。私だって、言い分はある。

 ラザール様は婚約者の私に対し、結構な酷いことをしたと、誰しも思うだろう。けれど、結局のところは私と結婚しようと思い直したと言えば、許してあげるべきだと思う人が居るとも思う。

 公平な判断を下すというのなら、正式な婚約者であるラザール様に軍配が上がるかもしれない。

 ……ううん。駄目よ。ジュストを信じるって、私はそう決めたでしょう。

「僕とミシェルは、幼い頃より婚約者です。貴族の結婚には政略的な意味合いが強いとは言え、僕たちはお互いに気持ちを深めながら過ごして来ました……確かに、僕には一度彼女の気持ちを傷付けたことがあるのは認めます。妹と婚約者を交換出来ないか、彼女の父に打診したことがありました。ですが、あれは一時の気の迷いでした。同じ姉妹とは言え、失礼なことをしたと反省し、それを彼女自身にも詫びています」

 ラザール様は自分の過ちを先んじて認め、私にも謝罪したと認めた。

 そうよね。これは話題にならざるを得ないしジュストの口からこれが明かされるくらいなら、自分の口から説明した方が良いのかもしれない。

「だとすると、ラザールはそちらのサラクラン伯爵令嬢と、不和があったことを認めた上でやり直し結婚したいと望んでいるんだな?」

 国王陛下も一度は過ちを犯すくらいはあるだろうと思ってか、再度確認し、頷いたラザール様を見て何か考え込んでいる様子だった。

 やり直したいと思っているなら、その程度の気の迷い許してやれば良いのにと思っていそう……。

「隠し子の件は、どうなのですか。ミシェルはあれを聞き、日々泣き暮らしておりました。あんな人と結婚したくないと、遠い辺境の村にまで家出までしたのです。それを追い掛けたのが僕。泣いているミシェルを追い掛け慰め、彼女が傷付けられるくらいならと、すべてを捨てて愛し合うことに決めました」

 ……え?

 私はこれまでに想像もしたことのなかった情報を聞き、耳を疑った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした

カレイ
恋愛
 子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き…… 「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」     ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

処理中です...