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36 演技③

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「王妃様。ありがとうございます……そのお気持ちだけで……本当に感謝しております」

 ジュストは持っていたハンカチで涙を拭い、私はそんな彼を見て開いた口が塞がらなかった。

 嘘泣きよね……? だって、さっきまでジュスト、平然としてなかった?

「アシュラム伯爵。待ちなさい……ねえ。あなた。若い二人を路頭に迷わせるなんて、私には出来ないわ」

「……しかし、私が貴族の結婚問題に口を出すとなると……」

「何を弱気なことを言っているの! あなた!」

 どうやら、我らがローレシア王国の国王陛下、王妃様のおしりに敷かれているみたい。

 私とジュストって、叶わぬ恋で駆け落ちするしかないと思い悩んでいる恋人同士役で大丈夫なのかしら?

 私は感謝に泣き崩れたジュストの隣で、ただ呆然とするしかないんだけど……。

「……あい。わかった。しかし、この二人だけの事情を聞いただけでは動けぬ。そちらのご令嬢の、婚約解消を申し出ても受け入れないというクロッシュ公爵令息を呼べ。彼側の事情も聞けば良いではないか」

 私は両陛下が臣下へ命令を下している隙に、ジュストにそっと近づいた。

「ジュスト……全然、話が読めないんだけど?」

 私は彼の耳元で囁き、彼はハンカチを口元に当てて、小声で返した。

「ええ。王妃様は、ロマンス小説が大好きなんです。彼女の目には、僕らは救われるべき悲劇の恋人同士に見えているという訳です……まぁ、実際にそうですし」

「そ、そうなの? もう……先に言っておいてよ」

「もし僕が先に言ってしまったら、ミシェルは挙動不審になりますよ。それでは、両陛下の鋭い目を誤魔化せなかったので、別れが間近で悲しみのあまり呆然としている演技をお疲れ様でした。とても上手かったですよ。ミシェルお嬢様」

 また私を揶揄ったジュストに、彼が何をしたかったか良くわかった。だって、私はこれを事前に知っていたら、絶対に挙動不審になっていたから、ジュストの言っている通りになってて……。

「もうっ……けど、そういう訳だったのね。だから、この夜会……王妃様……これで、理解出来たわ。ジュスト」

「ええ。大事なところは終わっておりますので、ラザール様の演技を見守りましょう」

「……どういうこと? ラザール様は、演技なんて……」

 私は不思議に思って聞いたんだけど、王妃様から質問されたジュストは涙ながらに答え、私は彼の隣でじっとしている演技を続行することにした。
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