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34 演技①
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私は婚約者ラザール様と一度だけ踊り、いつものように紳士しか入れない喫煙室へと向かう彼を見送った。
そこから友人たちを探すのも億劫で、一人夜会の会場を歩き出し、感じているのは疲労だった。
……何故かしら。ラザール様と一緒に居ると、とても疲れてしまう。
以前は、私は婚約者だし、結婚するのならば、ラザール様に好かれたいと思っていた。
ラザール様は令嬢からも人気があるくらいに、容姿は良いし、性格も少々気障っぽいところを除けば、特に気になるようなところはなかった。
それに、将来は公爵になるのだ。そんな彼から好かれたいと思ってしまうのが乙女心というものだった。
そんな彼に似合うようにいたいと私は必死で努力したけれど、結局はラザール様は、長年過ごした私よりひと目見ただけの妹オレリーと結婚したいと望んだ。
今思うとそれを聞いて、私は彼への想いを捨ててしまったのだ。
私を最終的に結婚相手に選んだのだから、一時の気の迷いを許してあげれば良いと言う人は、ご自分がラザール様と結婚したら良いと思う。
だって、私はオレリーと婚約者を交換して欲しいと彼が言い出したあの一件さえなければ、ラザール様と結婚してクロッシュ公爵夫人と呼ばれていただろうと自分でも思うから。
貴族としてこなすべき役割であり、避けて通れぬ義務だと思っていたから。
「……お疲れ様でした。夜会会場で見るミシェルお嬢様は、お美しくて……まぶしくて、僕の目がくらんでしまうところでした」
なんとも大袈裟な言葉を聞いて、やっと現れたと思い私は振り返った。
「ジュスト。待っていたわ……こんばんは」
さりげない動きで私の手を取ったジュストは、正式な夜会服に身を包み、どこからどう見ても、生粋の貴族に見えていた。
それに、ジュストはいつもはふわふわしている茶色の癖毛をそのままにしていて、それがまた可愛いんだけど、今夜は後ろへ撫でつけてしまっていて……雰囲気が変わって、とても恰好良い。
ずっとそばに居た私も見違えてしまうくらいに、素敵な紳士となっていた。
「ミシェルお嬢様。お疲れのご様子ですね。もし良ければ果実水でも、持って来ましょうか?」
こういった華やかな夜会では、隅の方に立食用のデザートや飲み物が用意されていて、ジュストはそちらへ私の飲み物を取りに行こうかと聞いてくれた。
「いいえ……ジュスト。私は今夜何が起こるのか、気になってしまって昨夜眠れなかったんだけど?」
理由を話してくれれば睡眠不足になることもなく、昨日会った時にジュストが言ってくれなかったせいで眠れなかったと訴えた。
「それは、それは……申し訳ありません。ですが、喜ばしいことに、僕の思うように、すべて事が運びました。さあ……ミシェルお嬢様。こちらへ」
ふうと溜め息をついた私はジュストに促されるままに歩き、行き先にあるものを見て少し慌てた。
「……待って。待って……これって、もしかして、王族がいらっしゃる方向ではない?」
ジュストが私を連れて迷いなく歩く方向には、短い階段の上に置かれた王座。そして、そちらへ座っていらっしゃるのは、国王陛下と王妃様。
そして、信じられないことに目をきらきらとさせた王妃様が、向かってくる私たち二人を待ち構えているような気がするんだけど?
「え。これから……どうするの?」
思わず、声が震えてしまった。
そこから友人たちを探すのも億劫で、一人夜会の会場を歩き出し、感じているのは疲労だった。
……何故かしら。ラザール様と一緒に居ると、とても疲れてしまう。
以前は、私は婚約者だし、結婚するのならば、ラザール様に好かれたいと思っていた。
ラザール様は令嬢からも人気があるくらいに、容姿は良いし、性格も少々気障っぽいところを除けば、特に気になるようなところはなかった。
それに、将来は公爵になるのだ。そんな彼から好かれたいと思ってしまうのが乙女心というものだった。
そんな彼に似合うようにいたいと私は必死で努力したけれど、結局はラザール様は、長年過ごした私よりひと目見ただけの妹オレリーと結婚したいと望んだ。
今思うとそれを聞いて、私は彼への想いを捨ててしまったのだ。
私を最終的に結婚相手に選んだのだから、一時の気の迷いを許してあげれば良いと言う人は、ご自分がラザール様と結婚したら良いと思う。
だって、私はオレリーと婚約者を交換して欲しいと彼が言い出したあの一件さえなければ、ラザール様と結婚してクロッシュ公爵夫人と呼ばれていただろうと自分でも思うから。
貴族としてこなすべき役割であり、避けて通れぬ義務だと思っていたから。
「……お疲れ様でした。夜会会場で見るミシェルお嬢様は、お美しくて……まぶしくて、僕の目がくらんでしまうところでした」
なんとも大袈裟な言葉を聞いて、やっと現れたと思い私は振り返った。
「ジュスト。待っていたわ……こんばんは」
さりげない動きで私の手を取ったジュストは、正式な夜会服に身を包み、どこからどう見ても、生粋の貴族に見えていた。
それに、ジュストはいつもはふわふわしている茶色の癖毛をそのままにしていて、それがまた可愛いんだけど、今夜は後ろへ撫でつけてしまっていて……雰囲気が変わって、とても恰好良い。
ずっとそばに居た私も見違えてしまうくらいに、素敵な紳士となっていた。
「ミシェルお嬢様。お疲れのご様子ですね。もし良ければ果実水でも、持って来ましょうか?」
こういった華やかな夜会では、隅の方に立食用のデザートや飲み物が用意されていて、ジュストはそちらへ私の飲み物を取りに行こうかと聞いてくれた。
「いいえ……ジュスト。私は今夜何が起こるのか、気になってしまって昨夜眠れなかったんだけど?」
理由を話してくれれば睡眠不足になることもなく、昨日会った時にジュストが言ってくれなかったせいで眠れなかったと訴えた。
「それは、それは……申し訳ありません。ですが、喜ばしいことに、僕の思うように、すべて事が運びました。さあ……ミシェルお嬢様。こちらへ」
ふうと溜め息をついた私はジュストに促されるままに歩き、行き先にあるものを見て少し慌てた。
「……待って。待って……これって、もしかして、王族がいらっしゃる方向ではない?」
ジュストが私を連れて迷いなく歩く方向には、短い階段の上に置かれた王座。そして、そちらへ座っていらっしゃるのは、国王陛下と王妃様。
そして、信じられないことに目をきらきらとさせた王妃様が、向かってくる私たち二人を待ち構えているような気がするんだけど?
「え。これから……どうするの?」
思わず、声が震えてしまった。
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