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30 手紙③
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◇◆◇
「こっ……来ないのですか?」
クインシー侯爵邸で開かれたお茶会で隣に座ったジュストの義母トリアノン女侯爵フィオーラ様は、色気あるとんでもない美女で、初対面の私でもわかるほどに有能そうな女性だった。
手練手管でその地位にまでのし上がったと聞けば、おそらくそうなのだろうと思う。
けれど、挨拶を終わらせた途端におもむろに『ジュストは今日、事情で来ないわ』と耳打ちされて、私は驚き過ぎて目を見開いた。
嘘でしょう。
今日、ジュストに会えると思っていた私は、大袈裟ではなくまるで天国から地獄に落ちてしまったような気分だった。
「ええ。残念だわ。私、義理の息子に伝言を頼まれただけなの。あの子も色々あるらしくて……ごめんなさいね」
何も悪くない美女にすまなそうに謝罪されて、私はこう言うしかなかった。
「いっ……いえ。私もそれは、仕方ないと思っています。ええ。大丈夫ですわ」
私だって、何か事情があれば約束が反故になってしまうことは仕方ないと思える。けれど、残念だと思う気持ちを、すべて飲み込めるかと言われれば、それはまた別の問題で……。
「顔色が悪いわ。大丈夫?」
てきめん顔に出てしまった私は、初めてお会いしたフィオーラ様にこれ以上気を使わせてしまう訳にもいかずに立ち上がった。
「ええ。少し、涼んで来ますわ……」
一通り参加者の挨拶も済んだことだし、今日のお茶会は大規模に開催されていて人数も多い。私が一人抜けたところで、ほぼ気が付かれないし支障はないはずだ。
……会えると思っていたのに……本当にショック過ぎて、私に付いて来ようとした新しい護衛騎士に首を横に振って『付いて来ないで』と示した。
彼も私がひどく落ち込んで涙目になっている様子を見て『これは関わらない方が良い』と判断したのか、神妙な顔で頷いて元の位置に戻っていた。
別に護衛騎士なんて居なくても……クインシー侯爵家は力ある貴族だし警備の数も多くて、私が庭園をうろうろしていても別に危険なんてないわよ……そんな時でもジュストは、私の傍を離れなかったけど……ジュストではないし……。
私は人気のない庭園のベンチに腰掛けて、目の端に付いていた涙を拭った。
「ジュストの馬鹿……ジュストの嘘つき。本当に、ひどい人……」
今日、久しぶりに会えると思っていたから、気分の上下の落差が開きすぎていて、どうしても落胆していしまう気持ちは隠せなかった。
私はジュストに会いたかったのに、こんなにも会いたかったのに……会えないんだ。
頬に流れ落ちる涙を拭っていた私は、誰かにハンカチを渡されて、何気なく見上げて息が止まりそうになった。
「お嬢様は僕が居ないと駄目な、仕方ない人ですね。そんなに、会いたかったんですか?」
私が良く見ていた護衛騎士ではない紳士の恰好をしたジュストは、軽い動作で私の隣に座りいつものようににっこりと可愛らしい顔で微笑んだ。
「どっ……どうして?」
さっき、私は彼の義母に『今日はジュストは来ない』と、聞いたばかりなのに。
「いえ。こうでもしないと、ミシェルお嬢様の護衛騎士は居なくならないでしょう。すみません。僕が来ないと義母は言いましたけど、この通りあれは嘘です」
久しぶりに会ったジュストは、いつも通り『全部僕の計算通りです』みたいな涼しい顔をして肩を竦めた。
「こっ……来ないのですか?」
クインシー侯爵邸で開かれたお茶会で隣に座ったジュストの義母トリアノン女侯爵フィオーラ様は、色気あるとんでもない美女で、初対面の私でもわかるほどに有能そうな女性だった。
手練手管でその地位にまでのし上がったと聞けば、おそらくそうなのだろうと思う。
けれど、挨拶を終わらせた途端におもむろに『ジュストは今日、事情で来ないわ』と耳打ちされて、私は驚き過ぎて目を見開いた。
嘘でしょう。
今日、ジュストに会えると思っていた私は、大袈裟ではなくまるで天国から地獄に落ちてしまったような気分だった。
「ええ。残念だわ。私、義理の息子に伝言を頼まれただけなの。あの子も色々あるらしくて……ごめんなさいね」
何も悪くない美女にすまなそうに謝罪されて、私はこう言うしかなかった。
「いっ……いえ。私もそれは、仕方ないと思っています。ええ。大丈夫ですわ」
私だって、何か事情があれば約束が反故になってしまうことは仕方ないと思える。けれど、残念だと思う気持ちを、すべて飲み込めるかと言われれば、それはまた別の問題で……。
「顔色が悪いわ。大丈夫?」
てきめん顔に出てしまった私は、初めてお会いしたフィオーラ様にこれ以上気を使わせてしまう訳にもいかずに立ち上がった。
「ええ。少し、涼んで来ますわ……」
一通り参加者の挨拶も済んだことだし、今日のお茶会は大規模に開催されていて人数も多い。私が一人抜けたところで、ほぼ気が付かれないし支障はないはずだ。
……会えると思っていたのに……本当にショック過ぎて、私に付いて来ようとした新しい護衛騎士に首を横に振って『付いて来ないで』と示した。
彼も私がひどく落ち込んで涙目になっている様子を見て『これは関わらない方が良い』と判断したのか、神妙な顔で頷いて元の位置に戻っていた。
別に護衛騎士なんて居なくても……クインシー侯爵家は力ある貴族だし警備の数も多くて、私が庭園をうろうろしていても別に危険なんてないわよ……そんな時でもジュストは、私の傍を離れなかったけど……ジュストではないし……。
私は人気のない庭園のベンチに腰掛けて、目の端に付いていた涙を拭った。
「ジュストの馬鹿……ジュストの嘘つき。本当に、ひどい人……」
今日、久しぶりに会えると思っていたから、気分の上下の落差が開きすぎていて、どうしても落胆していしまう気持ちは隠せなかった。
私はジュストに会いたかったのに、こんなにも会いたかったのに……会えないんだ。
頬に流れ落ちる涙を拭っていた私は、誰かにハンカチを渡されて、何気なく見上げて息が止まりそうになった。
「お嬢様は僕が居ないと駄目な、仕方ない人ですね。そんなに、会いたかったんですか?」
私が良く見ていた護衛騎士ではない紳士の恰好をしたジュストは、軽い動作で私の隣に座りいつものようににっこりと可愛らしい顔で微笑んだ。
「どっ……どうして?」
さっき、私は彼の義母に『今日はジュストは来ない』と、聞いたばかりなのに。
「いえ。こうでもしないと、ミシェルお嬢様の護衛騎士は居なくならないでしょう。すみません。僕が来ないと義母は言いましたけど、この通りあれは嘘です」
久しぶりに会ったジュストは、いつも通り『全部僕の計算通りです』みたいな涼しい顔をして肩を竦めた。
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