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27 呼び掛け③
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◇◆◇
「ごきげんよう。ラザール様」
私がドレスに着替えて応接室に現れると、ラザール様は立ち上がり、紳士らしく私の椅子を引いてくれた。
「……ミシェル。君は、今日も美しいね。こんな婚約者を持てて、僕は幸せ者だ」
私は彼の言葉にいつものように『私も光栄です』とは言えずに、曖昧に微笑むしかなかった。
私が彼と婚約解消して、ジュストと結婚したがっているとわかっている癖に……本当に嫌味が上手だし意地悪だわ。
自席へと回ったラザール様は座り、メイドがお茶を淹れるのを待ち、これから二人きりで話をしたいからと人払いをした。
「……君には、本当にがっかりしたよ。ミシェル。だが、貴族の責務として、ミシェルとの婚約は解消しない。僕は君と結婚する。良いね?」
この話をされると思い覚悟をしていた私は『やっぱり来た』と心の中で思い、こう来たらこう言おうと考えていた言葉で切り返すことにした。
「……ええ。がっかりさせてしまって、本当に申し訳ありません。けれど、別の方と結婚したいと望んだことを責められるであれば、私たちは同じ罪を犯したのではないかと思うのですが?」
これは私本人にはまだ知られていないと思っていたのか、ラザール様は優雅に呑んでいたお茶を吹き出しナプキンで拭った。
熱かったでしょうね。良い気味よ。
私は澄ましてお茶に口を付け、しばしの沈黙が流れた。
「君は……あの護衛騎士に、話し方が良く似ているな」
それは、嫌味のつもりで言ったんだろうけど、ジュストのことが好きな私にとって、それは誉め言葉よ。
「長い間、私たちは近い距離で過ごしていたので、そう思われても、何もおかしくありませんわね……」
「……あれは、悪かった。僕もどうかしていたんだ。一時の気の迷いだ。同罪ということで、お互いに忘れよう」
ラザール様は思わぬところで自分の罪を明かされ、この場を収めるために、それを言うしかなかったのかもしれない。
けど、申し訳ないけど、そんな申し出はお断りよ。
「いえ。同じ罪ではなさそうです。私はラザール様が長く婚約していた私にはそれほど興味がないと知り、大きな衝撃を受け家出をしました。その先で、私の身も心も助けてくれたのは他ならぬ彼なのです」
「……どうかな。破滅を招く使者にならなければ良いが」
ラザール様はそれきり何を言っても黙ってしまった私に対し流石に居心地が悪かったのか、色々と言い訳しつつ帰って行った。
……同じことをしていると指摘されて、同罪だから忘れようって、どういうこと?
オレリーの一件から私の中で、どんどんラザール様が嫌いになってしまう……ううん。元々嫌いだったのかもしれない。婚約しているから、良い部分に目を向けて好きにならなければいけないと、そう思い込んでいただけで。
「……失礼します。ミシェルお嬢様、こちらをお預かりしています」
礼儀作法通り見送りをして自室に帰ろうとした私を呼び止めた茶色い髪の背の高い従者は、確かラザール様の従者のザカリーだった。メイドたちにも人気のある男性だったと思う。
確かにこうして近くで良く見ると、顔が整っている男性だった。
「……ああ。ありがとう」
ラザール様。あれを反省して謝罪の手紙でもくれたのかしら。面倒だけど礼儀として、返事は返さなくては。子どもっぽい真似は、私の評判を落としてしまうもの。
そう思って手紙を何気なく開くと、署名にジュストの名前があって、私は慌ててそれを閉じた。
立ち去ろうとしていたザカリーは、差出人に気が付いている私を見て、不敵に微笑んだ。
どうして、ラザール様の従者ザカリーが、ジュストからの手紙を持っているの……? 私はドキドキしながら素知らぬ顔をして自室へと早足で急いだ。
「ごきげんよう。ラザール様」
私がドレスに着替えて応接室に現れると、ラザール様は立ち上がり、紳士らしく私の椅子を引いてくれた。
「……ミシェル。君は、今日も美しいね。こんな婚約者を持てて、僕は幸せ者だ」
私は彼の言葉にいつものように『私も光栄です』とは言えずに、曖昧に微笑むしかなかった。
私が彼と婚約解消して、ジュストと結婚したがっているとわかっている癖に……本当に嫌味が上手だし意地悪だわ。
自席へと回ったラザール様は座り、メイドがお茶を淹れるのを待ち、これから二人きりで話をしたいからと人払いをした。
「……君には、本当にがっかりしたよ。ミシェル。だが、貴族の責務として、ミシェルとの婚約は解消しない。僕は君と結婚する。良いね?」
この話をされると思い覚悟をしていた私は『やっぱり来た』と心の中で思い、こう来たらこう言おうと考えていた言葉で切り返すことにした。
「……ええ。がっかりさせてしまって、本当に申し訳ありません。けれど、別の方と結婚したいと望んだことを責められるであれば、私たちは同じ罪を犯したのではないかと思うのですが?」
これは私本人にはまだ知られていないと思っていたのか、ラザール様は優雅に呑んでいたお茶を吹き出しナプキンで拭った。
熱かったでしょうね。良い気味よ。
私は澄ましてお茶に口を付け、しばしの沈黙が流れた。
「君は……あの護衛騎士に、話し方が良く似ているな」
それは、嫌味のつもりで言ったんだろうけど、ジュストのことが好きな私にとって、それは誉め言葉よ。
「長い間、私たちは近い距離で過ごしていたので、そう思われても、何もおかしくありませんわね……」
「……あれは、悪かった。僕もどうかしていたんだ。一時の気の迷いだ。同罪ということで、お互いに忘れよう」
ラザール様は思わぬところで自分の罪を明かされ、この場を収めるために、それを言うしかなかったのかもしれない。
けど、申し訳ないけど、そんな申し出はお断りよ。
「いえ。同じ罪ではなさそうです。私はラザール様が長く婚約していた私にはそれほど興味がないと知り、大きな衝撃を受け家出をしました。その先で、私の身も心も助けてくれたのは他ならぬ彼なのです」
「……どうかな。破滅を招く使者にならなければ良いが」
ラザール様はそれきり何を言っても黙ってしまった私に対し流石に居心地が悪かったのか、色々と言い訳しつつ帰って行った。
……同じことをしていると指摘されて、同罪だから忘れようって、どういうこと?
オレリーの一件から私の中で、どんどんラザール様が嫌いになってしまう……ううん。元々嫌いだったのかもしれない。婚約しているから、良い部分に目を向けて好きにならなければいけないと、そう思い込んでいただけで。
「……失礼します。ミシェルお嬢様、こちらをお預かりしています」
礼儀作法通り見送りをして自室に帰ろうとした私を呼び止めた茶色い髪の背の高い従者は、確かラザール様の従者のザカリーだった。メイドたちにも人気のある男性だったと思う。
確かにこうして近くで良く見ると、顔が整っている男性だった。
「……ああ。ありがとう」
ラザール様。あれを反省して謝罪の手紙でもくれたのかしら。面倒だけど礼儀として、返事は返さなくては。子どもっぽい真似は、私の評判を落としてしまうもの。
そう思って手紙を何気なく開くと、署名にジュストの名前があって、私は慌ててそれを閉じた。
立ち去ろうとしていたザカリーは、差出人に気が付いている私を見て、不敵に微笑んだ。
どうして、ラザール様の従者ザカリーが、ジュストからの手紙を持っているの……? 私はドキドキしながら素知らぬ顔をして自室へと早足で急いだ。
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