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16 帰路④

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 けれど、私は貴族令嬢の義務として、幼い頃からの婚約を果たすことを求められていて、恋心を自覚してしまうことも、彼にそれを告げることも許されなかった。

 そういった理由で私はこれまで、ジュストに好きと言った事もないし、そんな素振りも一切見せていなかったはず。

「だから、言ったではないですか。ただその目を見れば、わかります。ミシェルお嬢様は僕のことを、誰よりも好きなんですよ」

「何を言っているの? 本当に、自意識過剰よ。ジュスト」

 呆れた私がそう言えば、ジュストは肩を竦めた。

「え。では、僕と結婚するはずのミシェルお嬢様は、僕を好きではないということになりますけど……そうなんですか?」

 少々悲しそうな表情を浮かべたジュストに、言い過ぎたかもしれないと私は慌てて首を横に振った。

「べっ……別に、そんなことは言ってないでしょう」

「いい加減に素直になった方が、良くないですか。お嬢様は、僕のことがお好きなんですから」

 彼にこう言われていては、私だって、ここで否定することはおかしいと思っている。さっき好きだと認めたばかりだというのに。

 けれど、今までが今までだから、彼への恋心を否定することが当たり前になっていた。

 ……どうしよう。さっきは勢いで好きだと言えたけど、今は何故だか難しい。難しいというか、恥ずかしいわ。

「はいはい。大丈夫ですよ。僕がお嬢様のお気持ちをわかっているんだから、何も言わなくても良いんですよ。ミシェルお嬢様」

 ジュストは黙り込んだ私の顔を覗き込み、手を握るとその後は窓の風景を見ることにしたようだった。

 何でだろう。今では、私たち二人の間には、何の障害もないはずだ。

 ラザール様はオレリーとの婚約を望んでいるのだから、私がジュストと結婚したいと言い出しても、渡りに船と飛びつくはず。

 お父様だって一時は怒ってしまうかも知れないけれど、私が彼と結婚したいと望めば、未来の伯爵となるジュストを認めざるを得ないだろう。

 どうしてだろう。どうしても……なんだか不安な気持ちが消せない。

 直行で王都へと向かう馬車を急がせて、私たちは次の日の夜にはサラクラン伯爵邸へと帰ることが出来た。
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