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13 帰路①

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 ジュストの家を出た私たち二人は、物慣れない女性一人旅をしていた私を本当に心配してくれていたという村長さんへと挨拶に行った。

 彼と直接話してみると、私が家出した事情を聞いて『それは家出もしたくなるね』と親身になってくれて、怖そうな外見とは裏腹に本当に優しそうな人だった。

 この村で育ったというジュストを幼い頃から知っているようで、私の護衛騎士として仕事をしている彼のことも、こんなに立派になって良かったと涙ぐんでいた。

 こんなにも優しい人ならば、名前も知らない女性が路頭に迷っているところに、救いの手を差し伸べても全然おかしくはない。

 助けてくれようとした彼をうさんくさいと逃げ出して、外見やパッとした見た目なんて、あてにならないと私はしみじみと反省した。

 そんな村長にお願いして遠距離用の馬車を貸してもらい、私たちは彼にお礼を言ってから馬車へと乗り込んだ。

「お嬢様ほどの金額を持っていれば、別に複数人乗り合わせの辻馬車を利用せずとも、直行の貸切馬車にすれば良かったと思いますが」

 そう言えば、辻馬車は途中で街道に逸れて村へと行ったり、複数の客が乗り合わせをしていたのでアンレーヌ村まで結構な時間が掛かっていた。

「直行の貸し切り馬車なんて、あるの?」

 私は長距離移動は乗り合わせの辻馬車を使うと聞いたから、そのまま使っただけなんだけど……。

「ええ。御者に|心付け(チップ)渡したあの大きな金貨一枚で、王都からアンレーヌ村まで優に六往復は出来ますね」

 ジュストからそれを聞いて、私はあの時に本当に嬉しそうな満面の笑みを見せた、あの御者を思い出した!

「六往復! ……だから、あの御者は、あんなにも嬉しそうだったの?」

 彼に渡した大きな金貨の貨幣の価値に、今頃気がついてしまった私の質問に、ジュストは苦笑しながら頷いた。

「そういう訳です。嬉しそうにした訳ですよ。僕からお嬢様に便宜を計らうよう頼んで渡したお金を考えれば、彼は当分仕事しなくても生きていけますよ。平民にも天使が舞い降りたような幸運に見舞われることは、たまにありますから、彼も今は楽しい時間を満喫していると思います」

「そう……それならば、良いんだけど。もっと多い金額を渡せば、良かったかしら」

 ジュストがそう言うならば、庶民の彼には当分働かずに遊んで暮らせるような金額だったのだろう。辻馬車の御者の彼には色々と気を使って貰ったり良くしてもらったし、それは私があの辻馬車に乗り込んだ時からそうだった。

「あまりにも渡した金額が多過ぎると、金を持つことに慣れない平民は身を持ち崩すのが常ですからね。そうはならない程度の額です。お嬢様はご安心ください」

「……そうなの?」

 お金はあればあるほど良いだろうと、私はずっと思っていたんだけど、ジュストに言わせるとどうやらそうではないらしい。

 ジュストは微笑んで、隣に座っていた私の腰に手を回した。

 近い……今までは馬車に乗る時は護衛騎士ジュストは前へ座って、隣でしかもこんなにも近過ぎることはなかった。

 さっきまでに自分たちが何をしていたかを考えれば、ここで近付いたからと照れてしまうこともないんだけど……今までにあった日常の中に戻って来たようで、なんだか恥ずかしい。

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