13 / 66
13 帰路①
しおりを挟む
ジュストの家を出た私たち二人は、物慣れない女性一人旅をしていた私を本当に心配してくれていたという村長さんへと挨拶に行った。
彼と直接話してみると、私が家出した事情を聞いて『それは家出もしたくなるね』と親身になってくれて、怖そうな外見とは裏腹に本当に優しそうな人だった。
この村で育ったというジュストを幼い頃から知っているようで、私の護衛騎士として仕事をしている彼のことも、こんなに立派になって良かったと涙ぐんでいた。
こんなにも優しい人ならば、名前も知らない女性が路頭に迷っているところに、救いの手を差し伸べても全然おかしくはない。
助けてくれようとした彼をうさんくさいと逃げ出して、外見やパッとした見た目なんて、あてにならないと私はしみじみと反省した。
そんな村長にお願いして遠距離用の馬車を貸してもらい、私たちは彼にお礼を言ってから馬車へと乗り込んだ。
「お嬢様ほどの金額を持っていれば、別に複数人乗り合わせの辻馬車を利用せずとも、直行の貸切馬車にすれば良かったと思いますが」
そう言えば、辻馬車は途中で街道に逸れて村へと行ったり、複数の客が乗り合わせをしていたのでアンレーヌ村まで結構な時間が掛かっていた。
「直行の貸し切り馬車なんて、あるの?」
私は長距離移動は乗り合わせの辻馬車を使うと聞いたから、そのまま使っただけなんだけど……。
「ええ。御者に|心付け(チップ)渡したあの大きな金貨一枚で、王都からアンレーヌ村まで優に六往復は出来ますね」
ジュストからそれを聞いて、私はあの時に本当に嬉しそうな満面の笑みを見せた、あの御者を思い出した!
「六往復! ……だから、あの御者は、あんなにも嬉しそうだったの?」
彼に渡した大きな金貨の貨幣の価値に、今頃気がついてしまった私の質問に、ジュストは苦笑しながら頷いた。
「そういう訳です。嬉しそうにした訳ですよ。僕からお嬢様に便宜を計らうよう頼んで渡したお金を考えれば、彼は当分仕事しなくても生きていけますよ。平民にも天使が舞い降りたような幸運に見舞われることは、たまにありますから、彼も今は楽しい時間を満喫していると思います」
「そう……それならば、良いんだけど。もっと多い金額を渡せば、良かったかしら」
ジュストがそう言うならば、庶民の彼には当分働かずに遊んで暮らせるような金額だったのだろう。辻馬車の御者の彼には色々と気を使って貰ったり良くしてもらったし、それは私があの辻馬車に乗り込んだ時からそうだった。
「あまりにも渡した金額が多過ぎると、金を持つことに慣れない平民は身を持ち崩すのが常ですからね。そうはならない程度の額です。お嬢様はご安心ください」
「……そうなの?」
お金はあればあるほど良いだろうと、私はずっと思っていたんだけど、ジュストに言わせるとどうやらそうではないらしい。
ジュストは微笑んで、隣に座っていた私の腰に手を回した。
近い……今までは馬車に乗る時は護衛騎士ジュストは前へ座って、隣でしかもこんなにも近過ぎることはなかった。
さっきまでに自分たちが何をしていたかを考えれば、ここで近付いたからと照れてしまうこともないんだけど……今までにあった日常の中に戻って来たようで、なんだか恥ずかしい。
彼と直接話してみると、私が家出した事情を聞いて『それは家出もしたくなるね』と親身になってくれて、怖そうな外見とは裏腹に本当に優しそうな人だった。
この村で育ったというジュストを幼い頃から知っているようで、私の護衛騎士として仕事をしている彼のことも、こんなに立派になって良かったと涙ぐんでいた。
こんなにも優しい人ならば、名前も知らない女性が路頭に迷っているところに、救いの手を差し伸べても全然おかしくはない。
助けてくれようとした彼をうさんくさいと逃げ出して、外見やパッとした見た目なんて、あてにならないと私はしみじみと反省した。
そんな村長にお願いして遠距離用の馬車を貸してもらい、私たちは彼にお礼を言ってから馬車へと乗り込んだ。
「お嬢様ほどの金額を持っていれば、別に複数人乗り合わせの辻馬車を利用せずとも、直行の貸切馬車にすれば良かったと思いますが」
そう言えば、辻馬車は途中で街道に逸れて村へと行ったり、複数の客が乗り合わせをしていたのでアンレーヌ村まで結構な時間が掛かっていた。
「直行の貸し切り馬車なんて、あるの?」
私は長距離移動は乗り合わせの辻馬車を使うと聞いたから、そのまま使っただけなんだけど……。
「ええ。御者に|心付け(チップ)渡したあの大きな金貨一枚で、王都からアンレーヌ村まで優に六往復は出来ますね」
ジュストからそれを聞いて、私はあの時に本当に嬉しそうな満面の笑みを見せた、あの御者を思い出した!
「六往復! ……だから、あの御者は、あんなにも嬉しそうだったの?」
彼に渡した大きな金貨の貨幣の価値に、今頃気がついてしまった私の質問に、ジュストは苦笑しながら頷いた。
「そういう訳です。嬉しそうにした訳ですよ。僕からお嬢様に便宜を計らうよう頼んで渡したお金を考えれば、彼は当分仕事しなくても生きていけますよ。平民にも天使が舞い降りたような幸運に見舞われることは、たまにありますから、彼も今は楽しい時間を満喫していると思います」
「そう……それならば、良いんだけど。もっと多い金額を渡せば、良かったかしら」
ジュストがそう言うならば、庶民の彼には当分働かずに遊んで暮らせるような金額だったのだろう。辻馬車の御者の彼には色々と気を使って貰ったり良くしてもらったし、それは私があの辻馬車に乗り込んだ時からそうだった。
「あまりにも渡した金額が多過ぎると、金を持つことに慣れない平民は身を持ち崩すのが常ですからね。そうはならない程度の額です。お嬢様はご安心ください」
「……そうなの?」
お金はあればあるほど良いだろうと、私はずっと思っていたんだけど、ジュストに言わせるとどうやらそうではないらしい。
ジュストは微笑んで、隣に座っていた私の腰に手を回した。
近い……今までは馬車に乗る時は護衛騎士ジュストは前へ座って、隣でしかもこんなにも近過ぎることはなかった。
さっきまでに自分たちが何をしていたかを考えれば、ここで近付いたからと照れてしまうこともないんだけど……今までにあった日常の中に戻って来たようで、なんだか恥ずかしい。
497
お気に入りに追加
1,219
あなたにおすすめの小説
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
アリシアの恋は終わったのです。
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる