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05 目は口ほどに
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「……そんな訳、ないでしょう」
「僕は別に良いですよ。ミシェルお嬢様が二人の男の子を産み終わり、その後で愛人にして貰って可愛がって貰っても一向に構いませんし」
「そんな訳ないったら! いいえ……ジュストに、愛人なんて、そんなことさせられない。一体、何を言っているのかしら」
「……知っていますか。お嬢様。目は口ほどに物を言うと。僕のことが、好きなのではないですか?」
確かに私をじっと見つめる目は、口と同じことを言っているようだった。
……「貴女は幼い頃から傍に居るこのジュストが、好きではないのか」と。
「私がジュストを好きだって、今まで一度でも言ったことがあった?」
今まで一度も口にしたことがないのに、何を勘違いしているのかしら。私が睨むと、彼は嬉しそうに言った。
「ええ。言えない気持ちほど、高まるものです。それこそ、『禁じられた恋』は激しく燃えるでしょうね……もし、僕のことが好きでないならば、何故、僕の故郷へ家出して来たんですか?」
「……それは! ジュストがこの村がすごく住みやすいって言ってたし、私の好きそうな風景だと」
「そうですね。あ。良かったら、実家見に行きます? すぐそこなんです。実家」
ジュストが曲がり角の右を指さしたので、私の心は揺れ動いた。
……ジュストのご両親、ジュストが住んでいた家……見てみたい。迷った私を見透かすように、彼は背中を優しく押したので、私は歩き出した。
「ジュストには……いつもお世話になっているから、親御さんへ私が挨拶することは別に構わないわよ」
これは別に言い訳ではないわよとばかりに、私がつんとすまして言えば、ジュストは快活に笑って頷いた。
「ええ。いつも、お世話しておりますね。ミシェルお嬢様のお世話は、きっと僕でなければ務まらないでしょう」
「あら……随分と自信家なのね。だから、私は貴方のこと、好きって一度も言っていないでしょう?」
私は自分で言うのはなんだけど、割と品行方正な方だし、そこまでの問題児でもないのに、何を言うのかしら。
「ああ。確かに……そういえば、好きではないとも聞いていないですね。どうなんですか?」
「……ジュストの実家は、何処なの?」
私が彼の質問を無視して周囲を見回すと、肩を竦めたは赤い屋根の家を指さした。
「あちらです……ああ。そういえば、父は留守かもしれません」
家の外観を見ただけでも息子のジュストには親が不在であると解るらしく、彼は手際よく古い棚の何段目かの後ろに隠されていた鍵を見つけて扉を開いた。
そして、そのまま招き入れようとしたので、私は驚いた。
「え? 留守なのに……勝手に入っても、構わないの?」
家主が居ないのに勝手に入って良いのかと問えば、ジュストは肩を竦めて頷いた。
「ええ。貴族の訪問のように、先触れが要るなどの面倒な作法もありませんので、どうぞ……ミシェルお嬢様には狭く思えるかもしれませんが、良かったらお入りください」
「僕は別に良いですよ。ミシェルお嬢様が二人の男の子を産み終わり、その後で愛人にして貰って可愛がって貰っても一向に構いませんし」
「そんな訳ないったら! いいえ……ジュストに、愛人なんて、そんなことさせられない。一体、何を言っているのかしら」
「……知っていますか。お嬢様。目は口ほどに物を言うと。僕のことが、好きなのではないですか?」
確かに私をじっと見つめる目は、口と同じことを言っているようだった。
……「貴女は幼い頃から傍に居るこのジュストが、好きではないのか」と。
「私がジュストを好きだって、今まで一度でも言ったことがあった?」
今まで一度も口にしたことがないのに、何を勘違いしているのかしら。私が睨むと、彼は嬉しそうに言った。
「ええ。言えない気持ちほど、高まるものです。それこそ、『禁じられた恋』は激しく燃えるでしょうね……もし、僕のことが好きでないならば、何故、僕の故郷へ家出して来たんですか?」
「……それは! ジュストがこの村がすごく住みやすいって言ってたし、私の好きそうな風景だと」
「そうですね。あ。良かったら、実家見に行きます? すぐそこなんです。実家」
ジュストが曲がり角の右を指さしたので、私の心は揺れ動いた。
……ジュストのご両親、ジュストが住んでいた家……見てみたい。迷った私を見透かすように、彼は背中を優しく押したので、私は歩き出した。
「ジュストには……いつもお世話になっているから、親御さんへ私が挨拶することは別に構わないわよ」
これは別に言い訳ではないわよとばかりに、私がつんとすまして言えば、ジュストは快活に笑って頷いた。
「ええ。いつも、お世話しておりますね。ミシェルお嬢様のお世話は、きっと僕でなければ務まらないでしょう」
「あら……随分と自信家なのね。だから、私は貴方のこと、好きって一度も言っていないでしょう?」
私は自分で言うのはなんだけど、割と品行方正な方だし、そこまでの問題児でもないのに、何を言うのかしら。
「ああ。確かに……そういえば、好きではないとも聞いていないですね。どうなんですか?」
「……ジュストの実家は、何処なの?」
私が彼の質問を無視して周囲を見回すと、肩を竦めたは赤い屋根の家を指さした。
「あちらです……ああ。そういえば、父は留守かもしれません」
家の外観を見ただけでも息子のジュストには親が不在であると解るらしく、彼は手際よく古い棚の何段目かの後ろに隠されていた鍵を見つけて扉を開いた。
そして、そのまま招き入れようとしたので、私は驚いた。
「え? 留守なのに……勝手に入っても、構わないの?」
家主が居ないのに勝手に入って良いのかと問えば、ジュストは肩を竦めて頷いた。
「ええ。貴族の訪問のように、先触れが要るなどの面倒な作法もありませんので、どうぞ……ミシェルお嬢様には狭く思えるかもしれませんが、良かったらお入りください」
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