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04 置き手紙

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「……ジュスト。私、置き手紙には、探さないでくださいって、ちゃんと書いていたはずだけど?」

 何故、手紙に書かれていた通り、そうしてくれなかったのかと、背の高い彼を見上げつつ睨み付ければ、ジュストは悪気なくにこっと明るく微笑んだ。

「それはそれは、申し訳ありません。もしかしたら、僕に探して欲しいっていう、そういう隠喩なのかなと思ったんですけど……」

 表情をわざとらしく変えてすまなそうにしても、騙されない。大体ジュストは、私のことを常に揶揄って遊んでいるんだから。

「そんなこと、ある訳ないでしょ!」

 ムキになって言い返した私に、ジュストは声をあげて笑った。

「ははは。ミシェルお嬢様、平民の服も良く似合いますね。いえいえ。違いますね。何でも、お似合いになりますが」

「そっ……そう? ありがとう。けれど、足が見えてしまうのが、やはり気になるわね。この恰好をしている皆は、気にならないのかしら」

 外見は美男と言って差し支えないジュストに、着ている服を褒められれば悪い気はせず、私は素直にお礼を言った。

「ええ。高貴なお嬢様のお忍び旅のようで、可愛らしく目の保養になりますね。なりますが、すぐに着替えていただきます。わかりますね……?」

「……わかっているわ」

 私は貴族令嬢で足を夫以外の誰かに見せることなど、本来であればもってのほかなのだ。ジュストの言い聞かせるような言葉と鋭い眼差しに、私は素直に頷くほかなかった。

「どうして、家出をしたんですか?」

 私たちはさきほど辿った道を引き返して歩きつつ、ジュストは何気なく聞いた。だから、私だっていつもの調子で、彼の質問に答えた。

「……ラザール様がオレリーのことを、私から代わって婚約者にしたいと思っているみたいなの」

「あー……あの話ですね。ですが、結局は婚約者はミシェルお嬢様のままです。先方のご両親だって、健康な体を持つミシェルお嬢様が良いと仰ったと言ったでしょう。それに、貴族の政略結婚に、愛なんか必要あります?」

 政略結婚した貴族なんて、家を繋ぐための長子とスペアとなる次男を産んで終われば、お互いに大事な役目はやり遂げたとばかりに、その後はお互いに愛人を作ったりすることも多い。

 だから、ジュストだって、私に割り切ってそうすべきだと言っているのだ。

「愛は要るわよ! ……少なくとも、私は」

 私の両親は恋愛結婚で、夜会の中で跪き、母に愛を乞うた父の話は有名だ。

 そんなロマンチックな恋物語主人公二人の娘としては、出来れば愛し合った人と結婚したい。決められた婚約者だとしても、愛を育みたいと願ってしまうのだって自然なことのはずだ。

「では、ラザール様に、直接そう言えば良いでしょう」

「ラザール様は、オレリーのことが好きだもの。私のことなんて、好きではないわ」

「それは、仕方ありません。ミシェルお嬢様は、常に傍に居る僕の事が好きなので、婚約者のラザール様も面白くないでしょうね。よそ見をしても、仕方ないですね」

 私は思わず立ち止まって、同じように足を止めたジュストの顔を見上げた。にこにこと感じの良い笑顔……いいえ。これに騙されてはいけない。

 彼だって、さっき教えてくれたでしょう。見掛けのようなわかりやすく見える部分には、騙されてはいけないって。

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