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揺らめき
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「メロディ、どうだった?」
私の部屋で待っていたマティアスに何も言わずに抱き着いた。そっと抱きしめてくれる。
「……あいつはなんて?」
「事態が落ち着いてから、改めて選んで欲しいって」
「そっか、それはそうだろうな。僕も、あいつの立場だったらそう思うよ」
マティアスの青い目を見上げた。一度は失った恋を諦めきれなかったのは、私もきっと一緒で。
「マティアスは、嫌じゃない?」
「何が?」
「……私、ちゃんと言えなかった。断り切れなかった。貴方が裏切ったと思っていたから、ジャンポールに気持ちが揺れた。でも、私が好きなのはマティアスで……」
「メロディ」
マティアスは私の言葉を遮ってキスを落とした。
「僕が最初から間違っていたのかもしれない、あの時は最善だと、そう思ったけれど、君の気持ちや兄上達の言葉を聞いて、それは間違っていたと、今は思えるんだ。……君の気持ちを知っているジャンポールは必死になるだろうし、僕も必死だ。それは僕が招いたことだからね、受け止める。決して負けないけどね」
「マティアス」
私達は見つめ合って、それからキスをした。
「……君の家だと、流石に手は出せないな。お兄さん達に殺される」
「マティアスのところの兄弟はよく似ているのね。……エヴァン様はすごく無邪気そうだったけど」
ああ、とマティアスは苦笑しながら、私の髪を撫でた。
「あいつだけ年が離れているから親も兄上達も甘やかした結果あれだよ。僕みたいな三男はほったらかしだったからね」
「皆素敵だったわ」
「……兄上達は婚約者が居るし、エヴァンは君には合わないよ」
私はふっと吹き出した。マティアスは拗ねた顔をしている。彼がこういう顔をするのは珍しい。
「エヴァン様はどうして私に合わないの?」
「君は甘えさせてくれる人の方が良いよ、僕みたいにね」
「まあ」
私は笑って指でマティアスの鼻を弾いた。
「いつ甘えさせてくれたの?」
「今から、どう?」
「殺されちゃうけど良いの?」
マティアスは渋い顔をして俯いた。
「残念だけど、やめとくよ……まだまだ死にたくないからね」
苦笑するその顔に、私はなんだか嬉しくなって背伸びしてその頬に口づけた。
「……彼は帰ったのか」
マティアスを見送りしてきた私にヴァレール兄さんは言った。最近はずっとそうなんだけど、眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。ジャンポールとの婚約を目前にして白紙になってしまったことがやっぱり気に入らないのかもしれない。
「ええ。何か?」
私も素っ気なく返す。どう言えば良いのかわからなかったせいだ。この二番目の兄と私は髪と目の色のそうなんだけど、多分気性も似ている。どうしても、自分が良いと思ったことを突っ走りがちなのだ。
「悪かった……お前の事情も知らず……聞かずに責めた。すまなかった」
「兄さん……」
「家の再興が叶い、申し分のない嫁ぎ先を用意するのがお前の幸せだと思っていた。悪かった」
紫色の目を細め、兄さんは頭を下げた。
「兄さんのせいじゃないわ。私が馬鹿だっただけ。もっと早く……素直になれば良かったし、もっと早く事情を話せば良かった。ジャンポールとの婚約の件はすべて私が悪いわ」
「……グランデ家は……問題ないそうだ。今のご当主は芸術家肌で家の事はもう既に先程のカイン殿に任せているとのことだし、ハサウェイ家も嫡男のジャンポール殿に任せているということだから、どちらに嫁にいくにしろ、お前の好きにしろ」
「ヴァレール兄さん、待って」
言い切って去ろうとした兄さんの腕を取って、私は言った。
「ごめんなさい。私のためを思ってしてくれたことはちゃんとわかってる。ありがとう……大好きよ、兄さん」
ヴァレール兄さんは驚いたように、目を見開き笑った。
「妹に言われても嬉しくないな。それに俺は年下は対象外だ」
「そういう意味じゃないわよ。馬鹿じゃないの」
むくれる私の手を取ってもう一度笑った。
「お前の幸せを願うよ。王位継承権が関わろうが、王に逆らったからと言ってこの国に居られなくなっても俺の会社で全員雇ってやろう。自分の事を誰も知らない異国で暮らすのも悪くないさ」
私の部屋で待っていたマティアスに何も言わずに抱き着いた。そっと抱きしめてくれる。
「……あいつはなんて?」
「事態が落ち着いてから、改めて選んで欲しいって」
「そっか、それはそうだろうな。僕も、あいつの立場だったらそう思うよ」
マティアスの青い目を見上げた。一度は失った恋を諦めきれなかったのは、私もきっと一緒で。
「マティアスは、嫌じゃない?」
「何が?」
「……私、ちゃんと言えなかった。断り切れなかった。貴方が裏切ったと思っていたから、ジャンポールに気持ちが揺れた。でも、私が好きなのはマティアスで……」
「メロディ」
マティアスは私の言葉を遮ってキスを落とした。
「僕が最初から間違っていたのかもしれない、あの時は最善だと、そう思ったけれど、君の気持ちや兄上達の言葉を聞いて、それは間違っていたと、今は思えるんだ。……君の気持ちを知っているジャンポールは必死になるだろうし、僕も必死だ。それは僕が招いたことだからね、受け止める。決して負けないけどね」
「マティアス」
私達は見つめ合って、それからキスをした。
「……君の家だと、流石に手は出せないな。お兄さん達に殺される」
「マティアスのところの兄弟はよく似ているのね。……エヴァン様はすごく無邪気そうだったけど」
ああ、とマティアスは苦笑しながら、私の髪を撫でた。
「あいつだけ年が離れているから親も兄上達も甘やかした結果あれだよ。僕みたいな三男はほったらかしだったからね」
「皆素敵だったわ」
「……兄上達は婚約者が居るし、エヴァンは君には合わないよ」
私はふっと吹き出した。マティアスは拗ねた顔をしている。彼がこういう顔をするのは珍しい。
「エヴァン様はどうして私に合わないの?」
「君は甘えさせてくれる人の方が良いよ、僕みたいにね」
「まあ」
私は笑って指でマティアスの鼻を弾いた。
「いつ甘えさせてくれたの?」
「今から、どう?」
「殺されちゃうけど良いの?」
マティアスは渋い顔をして俯いた。
「残念だけど、やめとくよ……まだまだ死にたくないからね」
苦笑するその顔に、私はなんだか嬉しくなって背伸びしてその頬に口づけた。
「……彼は帰ったのか」
マティアスを見送りしてきた私にヴァレール兄さんは言った。最近はずっとそうなんだけど、眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。ジャンポールとの婚約を目前にして白紙になってしまったことがやっぱり気に入らないのかもしれない。
「ええ。何か?」
私も素っ気なく返す。どう言えば良いのかわからなかったせいだ。この二番目の兄と私は髪と目の色のそうなんだけど、多分気性も似ている。どうしても、自分が良いと思ったことを突っ走りがちなのだ。
「悪かった……お前の事情も知らず……聞かずに責めた。すまなかった」
「兄さん……」
「家の再興が叶い、申し分のない嫁ぎ先を用意するのがお前の幸せだと思っていた。悪かった」
紫色の目を細め、兄さんは頭を下げた。
「兄さんのせいじゃないわ。私が馬鹿だっただけ。もっと早く……素直になれば良かったし、もっと早く事情を話せば良かった。ジャンポールとの婚約の件はすべて私が悪いわ」
「……グランデ家は……問題ないそうだ。今のご当主は芸術家肌で家の事はもう既に先程のカイン殿に任せているとのことだし、ハサウェイ家も嫡男のジャンポール殿に任せているということだから、どちらに嫁にいくにしろ、お前の好きにしろ」
「ヴァレール兄さん、待って」
言い切って去ろうとした兄さんの腕を取って、私は言った。
「ごめんなさい。私のためを思ってしてくれたことはちゃんとわかってる。ありがとう……大好きよ、兄さん」
ヴァレール兄さんは驚いたように、目を見開き笑った。
「妹に言われても嬉しくないな。それに俺は年下は対象外だ」
「そういう意味じゃないわよ。馬鹿じゃないの」
むくれる私の手を取ってもう一度笑った。
「お前の幸せを願うよ。王位継承権が関わろうが、王に逆らったからと言ってこの国に居られなくなっても俺の会社で全員雇ってやろう。自分の事を誰も知らない異国で暮らすのも悪くないさ」
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