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恋と呼ばれるもの
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「ラウル! ……あら、ニーナにマティアスまで。どうしたの。ジャンポールは?」
明るい彼女は、何があったのかも知らず、無邪気にきょろきょろと辺りを見回す。
公爵令嬢であるメイヴィス様は、婚約者ラウル殿下の急な呼び出しに応えて王宮の謁見室までいらっしゃった。
今は……何も知らない。相変わらずの美々しい顔に、何の憂いもない笑顔を浮かべている。
「……メイヴィス、今日も美しい。今日は君にすこし話があって、呼び出したんだ。座ってくれるかい?」
もちろんと大きなソファにふわりと腰掛けるメイヴィス様。私の顔を見て、にこっと微笑んでくれた。
「ニーナ。あのお茶会以来だわ。急ぎの用があるって帰ってしまったけれど、大丈夫だった?」
「はい……途中で帰ってしまって申し訳ありませんでした。メイヴィス様もお元気そうで何よりです」
「ありがとう」
メイヴィス様はきょろっと辺りを見渡す。
「……あの気を悪くしないで欲しいんだけど、何故マティアスと一緒に居るの? ニーナはジャンポールと婚約するって聞いているんだけど……」
困惑したように正面に居る私とマティアスを見比べる。そうよね、真相を知ったあの時までそのつもりだったし、メイヴィス様が困惑されるのもわかる。
「あの……きっと、信じてもらえないかもしれないんですけど、私の話を聞いてもらえますか?」
真剣な私の言葉に、メイヴィス様は戸惑い目を瞬かせながらも頷いた。
最初から説明する、私が失恋をして真相を知り、今ここに居る理由。メイヴィス様は何も言わずに真剣な顔をして聞き入ってくれた。
時折、隣のラウル殿下と目を合わせながら。
私の話が終わり、しんと静まり返った部屋の中、やがてメイヴィス様の声が響いた。
「なんてこと……」
彼女の声が震えている。隣のラウル殿下が心配をして手を差し出した、その時だった。
パンっと音がしてメイヴィス様はラウル殿下の伸ばした手を払う。
「よくそんなことが出来たのね、ラウル……ううん。今はそう、そうするつもりだった……ってことね。もしもニーナが居なかったなら」
「メイヴィス」
ラウル殿下は手を払われたまま、慌てた表情で固まっている。
「私を馬鹿にしないで! 私を守るために死ぬ? そんなの言い訳よ、記憶まで勝手に消すなんて……よくもそんなことを! ラウルもマティアスも悲劇のヒーローに酔っているだけじゃない! 何も知らせずに死ぬなんて……許さないわ」
可愛い顔を怒りの表情に染め、メイヴィス様は私の方を振り向いた。
ふう、と一度息を整えて、表情をいつも通りの笑顔にくるりと変える。流石生粋の公爵令嬢だわ。
「ニーナ、一人で辛かったわね。話してくれて……ううん、私にも知らせてくれてありがとう。もう、一人じゃないわ。一緒に解決していきましょう。そうね、ここには分からずやが二人居るようだけど、私が責任を持って勝手させないわ。安心して頂戴」
ラウル殿下は口元に手をやって心底驚いた表情だし、マティアスと言えば凍り付いたように動かない。
私はふふっと笑った。メイヴィス様は今選んでくれた。自分も一緒に戦うことを。
「メイヴィス様、私そう言ってくれるって信じていたんです。貴方の恋の色、美しくて、恋敗れて傷ついていた私も、思わず見惚れるくらいだった。とても良い恋をしてるって思ったんです。私達はお互いにそれを絶対に失いたくない。……一緒に戦いましょう」
私の言葉にメイヴィス様は、いつもの笑顔でにこっと微笑んでくれた。
明るい彼女は、何があったのかも知らず、無邪気にきょろきょろと辺りを見回す。
公爵令嬢であるメイヴィス様は、婚約者ラウル殿下の急な呼び出しに応えて王宮の謁見室までいらっしゃった。
今は……何も知らない。相変わらずの美々しい顔に、何の憂いもない笑顔を浮かべている。
「……メイヴィス、今日も美しい。今日は君にすこし話があって、呼び出したんだ。座ってくれるかい?」
もちろんと大きなソファにふわりと腰掛けるメイヴィス様。私の顔を見て、にこっと微笑んでくれた。
「ニーナ。あのお茶会以来だわ。急ぎの用があるって帰ってしまったけれど、大丈夫だった?」
「はい……途中で帰ってしまって申し訳ありませんでした。メイヴィス様もお元気そうで何よりです」
「ありがとう」
メイヴィス様はきょろっと辺りを見渡す。
「……あの気を悪くしないで欲しいんだけど、何故マティアスと一緒に居るの? ニーナはジャンポールと婚約するって聞いているんだけど……」
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「あの……きっと、信じてもらえないかもしれないんですけど、私の話を聞いてもらえますか?」
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最初から説明する、私が失恋をして真相を知り、今ここに居る理由。メイヴィス様は何も言わずに真剣な顔をして聞き入ってくれた。
時折、隣のラウル殿下と目を合わせながら。
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「なんてこと……」
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パンっと音がしてメイヴィス様はラウル殿下の伸ばした手を払う。
「よくそんなことが出来たのね、ラウル……ううん。今はそう、そうするつもりだった……ってことね。もしもニーナが居なかったなら」
「メイヴィス」
ラウル殿下は手を払われたまま、慌てた表情で固まっている。
「私を馬鹿にしないで! 私を守るために死ぬ? そんなの言い訳よ、記憶まで勝手に消すなんて……よくもそんなことを! ラウルもマティアスも悲劇のヒーローに酔っているだけじゃない! 何も知らせずに死ぬなんて……許さないわ」
可愛い顔を怒りの表情に染め、メイヴィス様は私の方を振り向いた。
ふう、と一度息を整えて、表情をいつも通りの笑顔にくるりと変える。流石生粋の公爵令嬢だわ。
「ニーナ、一人で辛かったわね。話してくれて……ううん、私にも知らせてくれてありがとう。もう、一人じゃないわ。一緒に解決していきましょう。そうね、ここには分からずやが二人居るようだけど、私が責任を持って勝手させないわ。安心して頂戴」
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私の言葉にメイヴィス様は、いつもの笑顔でにこっと微笑んでくれた。
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