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帰りの馬車で

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 はじめて一緒に出席した晩餐会の後の馬車で、ジャンポールは難しい顔をしたままむっつりと押し黙っている。
 今日はハサウェイ伯爵とクルーガー男爵、お父様のことだけど、2人共とご縁のある家での晩餐会で、婚約前の私達のお披露目でもあった。
 迎えに来てくれた時から、すこし疲れているのかなとは感じていたけれど、帰りの馬車に入ってからは一言も発しなくなってしまった。

 この前の、非常事態とはいえ、あんなところを見られてしまったから、怒っているのかもしれない。
 誘拐未遂からの本格的な誘拐事件になり、私は見事、1人での外出禁止の身分になった。あの事件は、犯人はまだ見つかっていなく、そもそもの目的もわからないままだ。何故マティアスに媚薬を飲ませて、放置したのか、そして、その場所をジャンポールに教えたのは誰なのか、今も謎のまま。

「……メロディ」
「ん、は、はい」
 考え事をしていた私は慌てて顔を上げた。ジャンポールは凛々しい顔の眉間にシワを寄せている。

「この前のことだが」
「はい」

 私はこくっと喉を震わせた。私達2人は婚約に向かう流れになってはいたけれど、流石にあの場面を見られたら、ジャンポールから断られるのも無理はないのかもしれない。

「……いや、済まない。あれは非常事態だと、ちゃんと理解はしているつもりなんだが」
「……ごめんなさい」

 私は頭を下げた。この縁談がダメになってしまったら兄達に迷惑が掛かるかな、とかそんな自分勝手なことを考えてしまう。
 ジャンポールは闇に溶ける黒い瞳で私を見つめた。なぜだかすこし不安そうでもあった。

「メロディ、君のことが好きだ」

 私は不意をつかれて、息を飲む。そう言われるとは全く想像してなかったし、彼はそういうことを言うタイプには見えなかったからだ。ジャンポールはじっと私を見つめ、私は無性に恥ずかしくなってしまった。

「えっと……」
「俺は、君を誰にも渡したくない」
「あの、ジャンポール……」
「……呼び捨てで構わない、君は誰を想ってる?」

 私は顔が熱くなるのを感じた。切ないくらい胸が疼く。ジャンポールのことは、すごく好ましく思っている。……でも、私は。

「ジャンポール、私は、」

 ガタンっと馬車が揺れて、私は前に居たジャンポールの広い胸に向かって飛び込んだ。彼は戸惑うようにゆっくりと私を抱きしめると、力を入れて抱きしめてきた。

「メロディ、口付けをしても?」
 私が答えるより前に彼は唇を合わせてきた。緊張しているのか、くっつけている部分がすこし震えている。

「ん、ジャンポール」
 私はくっつけたまま彼の名を呼ぶと、開いた唇からぬるりとした厚い舌が入り込んできた。翻弄するように荒々しく私の口内を舐めとるように動く。私の舌を絡めとり、ゆるゆると吸い上げる。くちゅりとした音がなんだか恥ずかしくて、手で胸を押すけどジャンポールはびくともしなかった。

「んんん、」
「メロディ、甘い」
 1度口を離すと恍惚とした表情で呟き、また深いキスをした。口の中全体を舌で舐めすすり、ゆっくり私の唇食んだ。こんなの、良くないことなのに気持ちよくて頭がぼーっとする。

 くちゅくちゅと水音が馬車の中に響き、ジャンポールは私を自分の膝の上に乗せるとより長くて深いキスを仕掛けてきた。なんだかもう、上から覆いかぶさって口を開けられると比喩じゃなく食べられてしまいそう。

「ん、だめ、ジャンポール」
「ダメっていう顔じゃない。」
「だって……」
「俺たちはもう、婚約するだろう。こういうことも後か、先かの違いだと思うが」

 ジャンポールの黒い目は揺れていて、言葉とは裏腹に不安そう。私は何をしているんだろう。
 マティアスに何か秘密があって私と別れたとしても、今現在、婚約しようとしているのは、目の前のこの人で。

 こうすることは自然なことなのかもしれない。でも、心のどこかで泣いている自分も居るような気がした。
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