やり直し失恋令嬢の色鮮やかな恋模様

待鳥園子

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お見舞い

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 そのまま、大騒ぎになっている現場を後にして家へと戻され、私は即ベッドへと入り、出来るだけ冷えた体を温めて寝たんだけど、高熱で数日寝込んでしまった。

 代わる代わる見舞ってくれる気配がしたけれど、声は曖昧に聞こえ、目を開けられる時と開けられない時もあった。

 誰が来ているかは判然とせず、熱に浮かされ、ただただ、眠り続けた。

 夜中に目覚めた時には、ようやく意識ははっきりしていた。

 なんだかとても悪い夢を見ていたような、妙な居心地の悪さを感じて、はあっと大きくため息を吐いた。

「あ。マティアス……」

 兄の成功で新調して貰った天蓋付きのベッド隣に置いてある引き出しの上に、手紙の束があった。

 寝込んでいる間に、私宛に届いた手紙だろう。

 私はそれを取ると、彼の名前を探す。一通の手紙に目が留まった。マティアスからだ。
 慌てて手紙を開けると、体調を心配している言葉が、延々書かれていて、最後に会いたいと一言。

 私を想って心配してくれる気持ちに溢れていて……なんだか、泣き出しそうになった。

 勘違いかもしれない。あんなにもあっさりと、私を捨てた人なのに。

 でも、もしそうならば、確かめたかった。

 急に冷たくなった人。もし……何か原因があったとしたら?

 マティアスの首を取り巻く黒い紋様、絶対に何かあったんだと思ってしまった。

 呪術などそういった何かに思えた。

 私だけでは判断がつかない。誰かに相談したい。

 ……でも、誰に?

 私の事情を知っていて、禍々しい紋様の正体を知っていそうなのは……。

「魔法使い?」

「お呼びかな。ご令嬢」

 私は声が聞こえた方向へと、窓際に目を向けた。

 黒いローブを目深に被った、魔法使い。

 ついさっきまで閉まっていたはずの窓は、今は大きく開いていて、季節柄、寒いはずなのに、私は冷たい空気は感じない。

 不思議だけど、彼の使った魔法だろう。

 何故ここにいるのか、彼には色々聞きたいことはあったけれど、一番聞きたいことを聞いた。

「……何か知っているの?」

 私の疑問を聞いて、口元だけ見える彼は微笑んだ。

「何か、というと?」

「マティアスのことを……知っているの?」

「いちいち乙女の失恋した相手のことなど覚えてもいないが、あの紋様のことならば知っている」

 私が彼に何を聞きたいかなんて、お見通しなのね。

「あれは……一体、何なの?」

「悪魔の紋様だ。上級の悪魔とでも、契約したんだろう」

「契約?」

 眉を寄せた。マティアスが、悪魔と契約なんて……何があったの?

「悪魔は欲しい物と交換に、その者の命を手に入れる。あの騎士が欲しがった何かは、何だと思う?」

「マティアスが……」

 私が考え込み、俯いている間に魔法使いは消えた。

 開いていた窓も、しっかりと閉められている。

 まるで、最初から誰もいなかったように……最初から何もなかったように。
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