19 / 42
お見舞い
しおりを挟む
そのまま、大騒ぎになっている現場を後にして家へと戻され、私は即ベッドへと入り、出来るだけ冷えた体を温めて寝たんだけど、高熱で数日寝込んでしまった。
代わる代わる見舞ってくれる気配がしたけれど、声は曖昧に聞こえ、目を開けられる時と開けられない時もあった。
誰が来ているかは判然とせず、熱に浮かされ、ただただ、眠り続けた。
夜中に目覚めた時には、ようやく意識ははっきりしていた。
なんだかとても悪い夢を見ていたような、妙な居心地の悪さを感じて、はあっと大きくため息を吐いた。
「あ。マティアス……」
兄の成功で新調して貰った天蓋付きのベッド隣に置いてある引き出しの上に、手紙の束があった。
寝込んでいる間に、私宛に届いた手紙だろう。
私はそれを取ると、彼の名前を探す。一通の手紙に目が留まった。マティアスからだ。
慌てて手紙を開けると、体調を心配している言葉が、延々書かれていて、最後に会いたいと一言。
私を想って心配してくれる気持ちに溢れていて……なんだか、泣き出しそうになった。
勘違いかもしれない。あんなにもあっさりと、私を捨てた人なのに。
でも、もしそうならば、確かめたかった。
急に冷たくなった人。もし……何か原因があったとしたら?
マティアスの首を取り巻く黒い紋様、絶対に何かあったんだと思ってしまった。
呪術などそういった何かに思えた。
私だけでは判断がつかない。誰かに相談したい。
……でも、誰に?
私の事情を知っていて、禍々しい紋様の正体を知っていそうなのは……。
「魔法使い?」
「お呼びかな。ご令嬢」
私は声が聞こえた方向へと、窓際に目を向けた。
黒いローブを目深に被った、魔法使い。
ついさっきまで閉まっていたはずの窓は、今は大きく開いていて、季節柄、寒いはずなのに、私は冷たい空気は感じない。
不思議だけど、彼の使った魔法だろう。
何故ここにいるのか、彼には色々聞きたいことはあったけれど、一番聞きたいことを聞いた。
「……何か知っているの?」
私の疑問を聞いて、口元だけ見える彼は微笑んだ。
「何か、というと?」
「マティアスのことを……知っているの?」
「いちいち乙女の失恋した相手のことなど覚えてもいないが、あの紋様のことならば知っている」
私が彼に何を聞きたいかなんて、お見通しなのね。
「あれは……一体、何なの?」
「悪魔の紋様だ。上級の悪魔とでも、契約したんだろう」
「契約?」
眉を寄せた。マティアスが、悪魔と契約なんて……何があったの?
「悪魔は欲しい物と交換に、その者の命を手に入れる。あの騎士が欲しがった何かは、何だと思う?」
「マティアスが……」
私が考え込み、俯いている間に魔法使いは消えた。
開いていた窓も、しっかりと閉められている。
まるで、最初から誰もいなかったように……最初から何もなかったように。
代わる代わる見舞ってくれる気配がしたけれど、声は曖昧に聞こえ、目を開けられる時と開けられない時もあった。
誰が来ているかは判然とせず、熱に浮かされ、ただただ、眠り続けた。
夜中に目覚めた時には、ようやく意識ははっきりしていた。
なんだかとても悪い夢を見ていたような、妙な居心地の悪さを感じて、はあっと大きくため息を吐いた。
「あ。マティアス……」
兄の成功で新調して貰った天蓋付きのベッド隣に置いてある引き出しの上に、手紙の束があった。
寝込んでいる間に、私宛に届いた手紙だろう。
私はそれを取ると、彼の名前を探す。一通の手紙に目が留まった。マティアスからだ。
慌てて手紙を開けると、体調を心配している言葉が、延々書かれていて、最後に会いたいと一言。
私を想って心配してくれる気持ちに溢れていて……なんだか、泣き出しそうになった。
勘違いかもしれない。あんなにもあっさりと、私を捨てた人なのに。
でも、もしそうならば、確かめたかった。
急に冷たくなった人。もし……何か原因があったとしたら?
マティアスの首を取り巻く黒い紋様、絶対に何かあったんだと思ってしまった。
呪術などそういった何かに思えた。
私だけでは判断がつかない。誰かに相談したい。
……でも、誰に?
私の事情を知っていて、禍々しい紋様の正体を知っていそうなのは……。
「魔法使い?」
「お呼びかな。ご令嬢」
私は声が聞こえた方向へと、窓際に目を向けた。
黒いローブを目深に被った、魔法使い。
ついさっきまで閉まっていたはずの窓は、今は大きく開いていて、季節柄、寒いはずなのに、私は冷たい空気は感じない。
不思議だけど、彼の使った魔法だろう。
何故ここにいるのか、彼には色々聞きたいことはあったけれど、一番聞きたいことを聞いた。
「……何か知っているの?」
私の疑問を聞いて、口元だけ見える彼は微笑んだ。
「何か、というと?」
「マティアスのことを……知っているの?」
「いちいち乙女の失恋した相手のことなど覚えてもいないが、あの紋様のことならば知っている」
私が彼に何を聞きたいかなんて、お見通しなのね。
「あれは……一体、何なの?」
「悪魔の紋様だ。上級の悪魔とでも、契約したんだろう」
「契約?」
眉を寄せた。マティアスが、悪魔と契約なんて……何があったの?
「悪魔は欲しい物と交換に、その者の命を手に入れる。あの騎士が欲しがった何かは、何だと思う?」
「マティアスが……」
私が考え込み、俯いている間に魔法使いは消えた。
開いていた窓も、しっかりと閉められている。
まるで、最初から誰もいなかったように……最初から何もなかったように。
5
お気に入りに追加
696
あなたにおすすめの小説

私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

拝啓、大切なあなたへ
茂栖 もす
恋愛
それはある日のこと、絶望の底にいたトゥラウム宛てに一通の手紙が届いた。
差出人はエリア。突然、別れを告げた恋人だった。
そこには、衝撃的な事実が書かれていて───
手紙を受け取った瞬間から、トゥラウムとエリアの終わってしまったはずの恋が再び動き始めた。
これは、一通の手紙から始まる物語。【再会】をテーマにした短編で、5話で完結です。
※以前、別PNで、小説家になろう様に投稿したものですが、今回、アルファポリス様用に加筆修正して投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる