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手がかりを探して
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ひとつだけ、わかることがある。
このまま私が何もせずに流されたら、きっとまた同じことを繰り返す。でも、前の時間軸でラウル王子はまだ亡くなっていない。そして、メイヴィス様と婚約も結んだままだったはずだ。ということは、あの記憶は私があの小屋へと訪れる直前に注がれたということになる。
あの時、彼には自身の死期を悟るようなことがあった、ということなのかな。権力を持つ正妃と仲が悪いからって殺されるようなことなの。
とにかく情報が少なすぎてまとまらない。
私は数少ない伝手である第2王子ラウル様の近衛騎士である2人から情報を得よう、と決意をした。
「あら、ハサウェイ様と出掛けるの?」
セイラは驚いたように大きな黒い目を見張った。私とは違って行儀見習いで働いている大きな商会の娘であるセイラは休日は部屋で静かに過ごすことが多い。本を読んだり、刺繍をしたり、女の子らしい。
逆に私は街に出て買い物や外食をすることで仕事中のストレスを発散することが多い。
「ええ、この前はぜんぜんお話しが出来なかったもの」
誰のせいとは言わないけれど。思い出すと眉が寄る。マティアスは一体何がしたいんだろう?
「気をつけてね」
薄い桃色のワンピースを着た私にいつもの出掛ける前の私服チェックをして頷いてくれたセイラは私に軽く手を振る。
「こんにちは、ハサウェイ様」
私は待ち合わせ場所に立っていたジャンポールに微笑んだ。今日も彼らしく素っ気ないくらい何の装飾もない白いシャツと黒いズボンだ。ジャンポールはそわそわしながらもゆるく微笑み返してくれる。彼の背は見上げる程大きく、鍛え上げられた引き締まった体からは無言の威圧感があるのか、近くで人待ち顔の人達もすこし遠巻きに距離を置いている。
「ああ。……メロディ嬢、その、私服姿もとても綺麗だ」
私は一気にぶわっと自分の頬が赤くなるのを感じた。まったく言いそうもない人の不意打ちの甘い言葉って心臓に悪いよね。だって以前の彼は同僚であり友人であったマティアスの恋人である私に当たり前なんだけどそんな言葉かけたことはなかった。絶対に一定の距離を保ってそれを崩そうとしなかった。
「あ、ありがとうございます。えっと、今日は来てくれてありがとうございます。近くに私が良く行くカフェがあるんですけど、もし良かったら行きませんか?」
両手で顔を隠したい衝動に駆られながらも呼び出した手前私が行き先を提案すると彼は小さく頷いた。
「あの、近衛騎士のお仕事ってすごく大変じゃないですか?」
「……俺か? いや、時間での完全交代制だし第2王子付きというのもあって普通の騎士よりは融通は効くと思うが」
彼の言葉を聞きながら私は先程運ばれてきたミルクティーに口を付けた。あまくてすっとした香りが良い。ここのお茶とお菓子は美味しいしお値段も張らない。休みの度の街歩きの成果の賜物だ。
「そうなんですね。ラウル様はすごく、優しそうな方ですね」
「……そうだな。良い主だと思っているよ。すこし遊び心がありすぎるところもあるが」
「遊び心、ですか?」
私の問いに軽く頷くとジャンポールは精悍な顔を崩して面白そうに笑った。こういう表情も出来るんだな。仕事中なんかと違って休みだから気を抜いているからかしら。
「幼い頃から悪戯好きなんだ。城の美術品を壊して怒られたことも昔は良くあったな」
「そんな風には見えませんね」
ふふっと笑いあう。彼は幼い頃からラウル王子の傍に居たのかな。いつも澄ました顔の美形の王子を思い出して、もう一度笑ってしまう。
「やあ、楽しそうだ。メロディ、ジャンポール」
その声が聞こえて。私はぽかんと間抜けな顔になってしまった。ジャンポールも一緒で心底驚いたって顔をしている。
「……マティアス」
輝く金髪もまぶしいマティアスはきらきらしい笑顔でにっこり微笑んで言った。
「偶然だね。相席良いかな?」
このまま私が何もせずに流されたら、きっとまた同じことを繰り返す。でも、前の時間軸でラウル王子はまだ亡くなっていない。そして、メイヴィス様と婚約も結んだままだったはずだ。ということは、あの記憶は私があの小屋へと訪れる直前に注がれたということになる。
あの時、彼には自身の死期を悟るようなことがあった、ということなのかな。権力を持つ正妃と仲が悪いからって殺されるようなことなの。
とにかく情報が少なすぎてまとまらない。
私は数少ない伝手である第2王子ラウル様の近衛騎士である2人から情報を得よう、と決意をした。
「あら、ハサウェイ様と出掛けるの?」
セイラは驚いたように大きな黒い目を見張った。私とは違って行儀見習いで働いている大きな商会の娘であるセイラは休日は部屋で静かに過ごすことが多い。本を読んだり、刺繍をしたり、女の子らしい。
逆に私は街に出て買い物や外食をすることで仕事中のストレスを発散することが多い。
「ええ、この前はぜんぜんお話しが出来なかったもの」
誰のせいとは言わないけれど。思い出すと眉が寄る。マティアスは一体何がしたいんだろう?
「気をつけてね」
薄い桃色のワンピースを着た私にいつもの出掛ける前の私服チェックをして頷いてくれたセイラは私に軽く手を振る。
「こんにちは、ハサウェイ様」
私は待ち合わせ場所に立っていたジャンポールに微笑んだ。今日も彼らしく素っ気ないくらい何の装飾もない白いシャツと黒いズボンだ。ジャンポールはそわそわしながらもゆるく微笑み返してくれる。彼の背は見上げる程大きく、鍛え上げられた引き締まった体からは無言の威圧感があるのか、近くで人待ち顔の人達もすこし遠巻きに距離を置いている。
「ああ。……メロディ嬢、その、私服姿もとても綺麗だ」
私は一気にぶわっと自分の頬が赤くなるのを感じた。まったく言いそうもない人の不意打ちの甘い言葉って心臓に悪いよね。だって以前の彼は同僚であり友人であったマティアスの恋人である私に当たり前なんだけどそんな言葉かけたことはなかった。絶対に一定の距離を保ってそれを崩そうとしなかった。
「あ、ありがとうございます。えっと、今日は来てくれてありがとうございます。近くに私が良く行くカフェがあるんですけど、もし良かったら行きませんか?」
両手で顔を隠したい衝動に駆られながらも呼び出した手前私が行き先を提案すると彼は小さく頷いた。
「あの、近衛騎士のお仕事ってすごく大変じゃないですか?」
「……俺か? いや、時間での完全交代制だし第2王子付きというのもあって普通の騎士よりは融通は効くと思うが」
彼の言葉を聞きながら私は先程運ばれてきたミルクティーに口を付けた。あまくてすっとした香りが良い。ここのお茶とお菓子は美味しいしお値段も張らない。休みの度の街歩きの成果の賜物だ。
「そうなんですね。ラウル様はすごく、優しそうな方ですね」
「……そうだな。良い主だと思っているよ。すこし遊び心がありすぎるところもあるが」
「遊び心、ですか?」
私の問いに軽く頷くとジャンポールは精悍な顔を崩して面白そうに笑った。こういう表情も出来るんだな。仕事中なんかと違って休みだから気を抜いているからかしら。
「幼い頃から悪戯好きなんだ。城の美術品を壊して怒られたことも昔は良くあったな」
「そんな風には見えませんね」
ふふっと笑いあう。彼は幼い頃からラウル王子の傍に居たのかな。いつも澄ました顔の美形の王子を思い出して、もう一度笑ってしまう。
「やあ、楽しそうだ。メロディ、ジャンポール」
その声が聞こえて。私はぽかんと間抜けな顔になってしまった。ジャンポールも一緒で心底驚いたって顔をしている。
「……マティアス」
輝く金髪もまぶしいマティアスはきらきらしい笑顔でにっこり微笑んで言った。
「偶然だね。相席良いかな?」
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