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07 即結婚

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「イリーナ……これまでに、おかしく思わなかったのか。アラゴン公爵家の美しいご令嬢とあろうものが、誰も……婚約をしたいと求婚する人間が、居なかったのに」

 甘く囁くようにして彼は耳元でそう言い、私の顔は真っ青になった。

「そそそそっ……それは!」

 確かに、私に求婚者が居ないことについてはまぎれもなく事実だった。だって、社交界デビューを終えた貴族令嬢たちはぞくぞくと婚約を決めて、貴族学校を中退して花嫁授業へと入る。

 私は今、卒業式に出ている。つまりは、そういうことだ。婚約者は居ない。

 ……けど、別に焦ることはないかなって、そう思ってて……。

「と言うわけで、突然だが、明日は僕とイリーナの結婚式だ! 皆も良かったら祝いに来てくれ!」

 私を横抱きにしたランベルト様は、会場からの拍手喝采を受けて出入り口の大きな扉へと向かった。

「ままままっ……待ってください。あまりにも話の展開が、急過ぎてですね」

 何も……何も、追いつけていない。

 もしかして、私って明日には結婚して、ランベルト様の……王太子妃?

 信じられないんだけど!

「何を言う。幼い頃に婚約していても同じことだったのだ。王太子となれば、早々に結婚して子を作り血を絶やさないことが望まれる。君はこれを、幼い頃に決められていたのだ」

 ランベルト様の整った美しい顔は、私の戸惑いを透かし見て楽しんでいるかのようだ。

「……私、あの……そのですね。結婚するなら、二人の関係を深めてからにしたいっていうか……」

 もうここで、ランベルト様からは逃げられないと思いつつ、どうにか心の準備をする時間を取れないかと上目遣いでお願いしたら、ランベルト様は悪い笑みを浮かべて首を横に振った。

「駄目だ。そうしたかったのなら、君はあの時に、すべてを僕に伝えるべきではなかったな」

「婚約の顔合わせの、あの時ですか?」

 嘘でしょう……私ったら、全部が全部。自ら墓穴を掘っていたことになる。

「ああ。イリーナと僕が婚約するのは、政治的な理由に他ならないが、君のさっぱりとした気性も気に入ったのだ。君によると容姿が好みらしい、あのエリサよりもな」

「……エリサと、恋に落ちなかったんですか?」

「何を言う。さっき言っただろう。僕は君の方が好きだと。それに、水面下だとしてもイリーナと婚約しているのだから、よほどの事がなければ、君と結婚する。明日、そうするようにな」

 真面目で誠実な性格の、ランベルト……それは、そうだよ。

 悪役令嬢から悪役要素全部抜いたら、単に容姿端麗な貴族令嬢……そんな人の婚約者が、何もしてないのに裏切るはずもなかった!

 乙女ゲームでは勘違いしたイリーナが嫉妬しすぎておかしくなっちゃったから、彼は婚約破棄せざるをえなくなったけれど、本来なら彼が婚約者イリーナが居るのに裏切る訳がなかった。

 卒業式会場の扉が、大きく開かれて……私はあの時のぶっちゃけが、正しかったのか正しくなかったのか、今は良くわからなくなった。

 だって、恋する間もなく……ランベルト様と、即結婚する羽目になってしまったのだもの!

Fin
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