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20 複雑

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「ジュリアス……優しい」

「優しい……? 聖女様に優しいと言われるのは、複雑ではありますね」

 言葉の通りジュリアスは整った顔に複雑な表情を浮かべたので、私は首を傾げた。

「……どうしてですか。優しいって、褒め言葉だと思ってました」

 そうだよ。薄情って言われるよりか、断然良くない?

「褒め言葉……優しいだけの男は、女性に好かれないですからね」

「私にはもう好かれているので、別に良くないです?」

 二回ほど彼を好きだって言いましたし、結婚したいまで言ったのに。

「そうですか……聖女様は、まだ私のほんの一部分しか知りません。僕の何か違う一面を知れば、嫌いになるかもしれませんよ?」

 何がおかしいのか含み笑いのジュリアスはどこか試すように聞いたので、なんだそんなことかと私は肩を竦めた。

「それこそ……変な話です。付き合う時って、普通はまだあまり知らない状態から始めますよね? 元の世界では一目惚れして手紙を渡して、付き合ってくださいとかもあります。それを言うなら、私はジュリアスと出会って二週間? 三週間? 経ってからちゃんと話して結婚したいと言いましたし、常識的な方なんです」

 旅に出る前の準備期間などを含めれば、彼と出会って恋心を育むのに十分な時間だと思う。

「……その頃の僕は聖女様から見れば、完全に対象外のおじさんでしたけどね」

 自嘲するようにジュリアスは言ったので、私はそれがなんだか不思議だった。私の知っている彼らしくないって、思ったから。

「それを言うなら、私をそもそも対象外にしていたのはジュリアスだと思います。最初から完全に子ども扱いもしてたし」

 私は初めからジュリアスには好感しか持っていなかったし、出来ればもっと早く会いたかったは元々思って居た。そんな彼が若返るのであれば、私を恋愛対象にしてくれても良いと思うもの。

「すみません……確かにあの時は聖女様と恋仲になろうとは、思わなかったですね」

「今は、どうですか?」

 ジュリアスは不意に黙り込んだので、私はその時すごく緊張した。短い沈黙だと言うのに何を言われるか本当に怖い。

「……考えています」

 え? これって、恋愛対象をしてありってこと……だよね?

「嬉しいです……嬉しい」

「まだ……僕は頷いた訳ではないですけど?」

 思わず嬉しくて涙ぐんだ私に苦笑した彼は、指で目尻を拭ってくれた。
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