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19 信頼する勇気
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「逃げたいっていうか……その」
ジュリアスの薄い緑の目は、黒い瞳孔や光彩がくっきりと際立って見える。だから、それが見えているということは、私は彼に真っ直ぐ見つめられているということで……。
「聖女様のお気持ちはわかりました。ですが、僕が思うところ、世界が変わっても……人は変われません」
「……え?」
「聖女様の言うように、上手くいかない親子関係も仮初めの友人関係もこの世界にだってあります。ただ、何もかもが目新しく綺麗な世界に見えているかもしれませんが、そういう暗い部分だって、もちろんあるんです……失礼ですが、聖女様は自らが傷つくことを極度に恐れているようです。もし、貴女が変わらないのであれば……この世界に来ても同じような人と親しくなり、また同じように対応されるでしょう……そんなものですよ」
「ジュリアス……」
ジュリアスはこちらの世界を選んでも私がそのままだったら、同じようにまた絶望することになるだろうと言う。
確かに、そうなのかもしれない……私が元の世界をそう思ってたってだけで、本音を言い合って友人関係を楽しんでいる子だってきっと居るはずだもん。
私は誰かを信頼する勇気もなければ、自分から一歩踏み出すこともしなくて……そうなれなかったってだけで。
「ああ……良くない。叱っているようになりましたね。僕の実年齢のせいでしょうね。ついさっきまで、僕たちは色っぽい話をしていたはずなのに……すみません」
ジュリアスは私に苦笑いをしたけど、とてもそれに笑い返すような心境にはなれなかった。
「いいえ……私が子どもなんです。ジュリアスの言う通りです。私は……貴方に相応しくないから……」
ジュリアスは、三回も世界を救った英雄だ。不祥事があったとは言えど、ジュリアスの部下は心から彼を信頼をしているとすぐに理解出来てしまう。
そんなすごい人は異世界から来た聖女ってだけで自分で何も出来ない私なんかを、好きにはならないんだろう。
座ったまま項垂れて落ち込んだ様子を見た私を見て、ジュリアスは跪き手を握った。右手を大きな両手で包み込むと、私の顔を覗き込んで目を合わせた。
「いいえ。そうではありません。住む世界を変えるということは、もう二度と戻れないということです……ただ嫌なことから、逃げているだけではいけない。僕を好きだと言ってくれて、嬉しいと思いました。ただ……数年後。十数年後になれば、この選択を後悔しないかと心配になります」
この時、私は生意気だけど、ジュリアスは何でも持っているように見える人なのに、優し過ぎて損ばかりしているんじゃないかと心配になった。
だって、聖女の私が自分を好きになったから、この世界に残るって言いましたって王様に言えば、ジュリアスは不名誉な通り名なんて忘れて貰って、皆に感謝されてまた英雄だと言って貰えるチャンスなのに。
どうして彼がすぐにそうしないのかと言えば、私の気持ちしか考えていない。自分の立場を考えれば、頷くべきだと思うのに。
ジュリアスの薄い緑の目は、黒い瞳孔や光彩がくっきりと際立って見える。だから、それが見えているということは、私は彼に真っ直ぐ見つめられているということで……。
「聖女様のお気持ちはわかりました。ですが、僕が思うところ、世界が変わっても……人は変われません」
「……え?」
「聖女様の言うように、上手くいかない親子関係も仮初めの友人関係もこの世界にだってあります。ただ、何もかもが目新しく綺麗な世界に見えているかもしれませんが、そういう暗い部分だって、もちろんあるんです……失礼ですが、聖女様は自らが傷つくことを極度に恐れているようです。もし、貴女が変わらないのであれば……この世界に来ても同じような人と親しくなり、また同じように対応されるでしょう……そんなものですよ」
「ジュリアス……」
ジュリアスはこちらの世界を選んでも私がそのままだったら、同じようにまた絶望することになるだろうと言う。
確かに、そうなのかもしれない……私が元の世界をそう思ってたってだけで、本音を言い合って友人関係を楽しんでいる子だってきっと居るはずだもん。
私は誰かを信頼する勇気もなければ、自分から一歩踏み出すこともしなくて……そうなれなかったってだけで。
「ああ……良くない。叱っているようになりましたね。僕の実年齢のせいでしょうね。ついさっきまで、僕たちは色っぽい話をしていたはずなのに……すみません」
ジュリアスは私に苦笑いをしたけど、とてもそれに笑い返すような心境にはなれなかった。
「いいえ……私が子どもなんです。ジュリアスの言う通りです。私は……貴方に相応しくないから……」
ジュリアスは、三回も世界を救った英雄だ。不祥事があったとは言えど、ジュリアスの部下は心から彼を信頼をしているとすぐに理解出来てしまう。
そんなすごい人は異世界から来た聖女ってだけで自分で何も出来ない私なんかを、好きにはならないんだろう。
座ったまま項垂れて落ち込んだ様子を見た私を見て、ジュリアスは跪き手を握った。右手を大きな両手で包み込むと、私の顔を覗き込んで目を合わせた。
「いいえ。そうではありません。住む世界を変えるということは、もう二度と戻れないということです……ただ嫌なことから、逃げているだけではいけない。僕を好きだと言ってくれて、嬉しいと思いました。ただ……数年後。十数年後になれば、この選択を後悔しないかと心配になります」
この時、私は生意気だけど、ジュリアスは何でも持っているように見える人なのに、優し過ぎて損ばかりしているんじゃないかと心配になった。
だって、聖女の私が自分を好きになったから、この世界に残るって言いましたって王様に言えば、ジュリアスは不名誉な通り名なんて忘れて貰って、皆に感謝されてまた英雄だと言って貰えるチャンスなのに。
どうして彼がすぐにそうしないのかと言えば、私の気持ちしか考えていない。自分の立場を考えれば、頷くべきだと思うのに。
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